第18話 闇夜の怪

 6月の少し蒸し暑い夜だった。

 自転車で散歩に出かけた。住宅街から離れると街灯が無くなり、農道は急に暗くなった。


 普段も暗いが、今日の空は曇っていて、おまけに新月というのか、珍しく何の光も無い、全くの暗闇だった。

 手元も見えないほど暗く、自転車のライトだけが唯一の光だった。側を走るアジも、薄ぼんやりとしか見えない。手に持つ紐(リード)が頼りだ。あたりは何も見えず、自分たちしか存在しない。


 道を外さないように注意しながら単調に走っている最中、突然、アジが「ふぎゃっ!」と変な声を出した。

 

 なんだ?何かとぶつかった?


 同時に闇の中から「フォッフォッ」と不気味な息づかいが聞こえた。


 えっ何?生き物?獣か?


 速度を落とした時、ライトの光の中に急に人の足元が見え、慌てて止まった。

 男の人のようだ。

「こんばんは。」「こんばんは。」挨拶する。

 不気味な息づかいのしたところを目を凝らして見た。よくわからないが犬がいるらしい。


「ブラッキーおいで。」男の人が呼んだ。

 ブラッキー?近くの住宅地で飼われているラプラドールの真っ黒い犬だ。


 住宅の側の大きな檻のような犬小屋で飼われていて、アジと一度、前を通った事がある。ブラッキーと名前が書いてあった。まだ若い犬で、小屋の前を通っただけで、襲い掛かるように激しく吠えられた記憶がある。


 警戒したが、息づかいに敵意は無く、じゃれついている様だった。アジは戸惑っていた。小屋の時と違って、散歩の時は友好的になるらしい。うれしくて興奮しているようだが、姿が全くわからない。わからないまま、少し付き合って別れた。


 闇の中のブラッキー。暗闇に溶けて見えない自分はどうだった?自由だったかい?

漆黒の闇は空気みたいで気持ちよかったかな?

 

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