第17話 引っ越し

 何度目かの転職で食堂に勤めた。そこで、冬美さんと言う年上の女性と知り合った。


 自宅は隣町だった。付き合って、行き来している間に、彼女の家にいる事が多くなった。

 アジの話をしたら、行ったり来たりも大変なので、こちらに連れてくれば、という話になった。面倒見てくれるという。こちらも都合がいいので、そうすることにした。


 自分の家から彼女の家まで10キロ近く離れている。その距離のアジの引っ越しだ。


 引っ越し移動作戦は夜に実行することにした。アジは車に乗らないので走らせていく。夜の方が交通量も少なく、危なくないので、動きやすいだろう。今回はバイクで並走することにした。


 19:00作戦開始。天気は晴れ。風も無い。

「アジ、出発するぞ。隣の家のランちゃんや裏のチロとはしばらくお別れだな。」


 住宅街なのでリードをつけ、ゆっくり引っ張っていく。表の車道は通らず、裏道を組み合わせて走った。

 家が少なくなり、リードを外した。バイクは自転車より楽だ。寄り道させないように、少し早めのスピードで走らせて行く。


 町の境まで来た。この先はたぶん、アジの知らない場所だ。迷子になると困るが、アジは大人しくバイクに付いてくる。ここまでは順調だ。


 途中、道の両側にはみ出すように二軒の農家があり、道が狭くなっている場所があった。事前に通る道はリサーチしてあったが、片方の家で犬を飼っていたのは知らなかった。誤算だった。飼犬が警戒して吠えてくる。


 早速、アジがちょっかい出そうと、農家の庭に飛び込んだ。引き戻さなくてはいけないが、夜の他人の家の庭に入りたくない。

 仕方が無い。見捨てる事にした。止まらず、そのままバイクで進む。

「アジ君、さよなら。」

 バイクが行ってしまう、とわかり、アジは慌てて途中で戻ってきた。


 道は突き当たり、コンクリート工場の脇を大きく迂回する。両側に木が生い茂っている暗い道を抜け、やがて街灯のついている道に出る。ほどなくして住宅地になった。ここまで来れば、ほぼ成功だ。

 20:00現着。作戦終了。


 目的地では冬美さんと二人の息子が、家の電気をたくさんつけ、待っていてくれた。

「アジいらっしゃい。」

 暖かく迎えられて、アジは気に入ったらしい。ここに住むのが当然といった感じで、しっぽを振って、喜んでいる。


 慣れない場所で嫌がって、前のすみかに逃げ帰る可能性があるかな、と思ったが全然、心配ないようだ。

 前のすみかは忘れました、と言う顔をしている。ドライなやつだ。

 

 冬美さんの家に、居候が一人と一匹増えた。


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