第15話 夏

 住んでいる家にはクーラーがなかった。

 真夏の休日、あまりにも暑かった。住宅地の周りは田んぼで湿気があり、余計蒸し暑かった。扇風機だけでは耐えられない。


 何か涼しくなる方法は無いか、考えた。近くには海もプールも山も無い。


 そうだ、川はどうだ? 

 川に入って水で足を冷やせば、涼しくなる。暑さをやり過ごせるのではないか。そこで一日過ごしてみたらどうだろう。

近くにある山田川は川幅が広いが、全然深みが無く、とても浅かった。せいぜい足首までの深さしかなかい。(泳ぐ深さは無いので泳ぐつもりも無かった)

 流れる水はきれいだった。試してみる事にした。


 一般に川は非常に危険だ。普段、水量は少なくても、上流で雨が降ったりすると、前ぶれも無く、急に増水する。実際、事故は多い。おすすめはできない。

 

しかし、山田川は数キロ上流にある住宅団地の湧き水が水源で、急な増水は無いだろうし、もし雨が降ってきたとしても、すぐ、ここにも降るだろうから撤収のタイミングはわかる。

(増水の前触れとして、急に葉っぱが多く流れてきたり、水の色が変わってきたりすると危険。)


 折りたたみのパイプ椅子と文庫本を用意し、麦わら帽子をかぶり、暑さでへばっているアジを連れて川に行った。歩いて5分だ。


橋のそばから土手を降りた。岸辺にちょうどいい大きさの灌木が生えていたので、その下に椅子を拡げる。葉っぱが日陰になり、具合が良かった。


 足を水に浸していると、とても涼しい。流水が足をどんどん冷やしてくれる。土手がそばの県道の音を遮り、静かだった。上流から流れてくる風も爽やかだった。家からいくらも離れていないのに別天地だった。


 暑さでまいっていたアジも落ち着いたようだ。流れる水をがぶがぶ飲んでから座り込んだ。本当は腹ばいになると楽なのだろうが、顔の高さに水がくるので諦めた。流れてくる葉っぱをかまっていたりしたが、飽きたようでその後はじっとしていた。


 椅子に座り、文庫本を読み、快適な時間をすごした。真夏なのに暑さを全然、感じなかった。予想外に涼しい。


 小一時間たって、アジがクンクン言い出した。どうした?ちょうどお腹が水につかっているから冷えたのか?自分も満足したので上がる事にした。


 上がってすぐ、土手のところでアジは便をした。土手を上がった所で、腹をグーッと言わせながらまた便をした。それから数メートル歩いたところで、珍しくおならをして、便をした。数メートル歩くとまたブッブとおならをして便をした。

 今度は固形物が無く黄色い液体だった。その後も家の近くまでおならをしながら、何か所も下痢便をした。よっぽど冷えたらしい。

 アジが腹をよじり、内股で歩く姿をみた。可哀想だがおかしかった。


 家に帰って、濡れたお腹周りをタオルで拭き取り、暖かいコンクリートの上で休ませた。夕方には復活して元気になった。


 誰も知らないリゾートから見上げた夏の空は、格別だった。でもアジが腹を冷やしてからその後は、行かなかった。

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