第12話 雷
蒸し暑さを感じる初夏の夜だった。
空は一面、雲に覆われていた。覆っている雲の中では時々、雲の一部があっちで光ったり、こっちで光ったりしていた。雲の中だけの雷だが音は無かった。
雨が降りそうな感じだった。いやな天気だなと思い、さっさと散歩に行ってすぐ戻ろうと、アジと出かけた。
県道を横切り、農道に入る。民家の横を通り過ぎ、少し登り坂の山田川の端のたもとまできた。夜なので誰もいない。
相変わらず空は雲の一部分があっちで光ったり、こっちで光ったりしていた。音はしないが賑やかな空だな、そう思い、ぼんやりその様子を見ていた。
いきなり、視界が真っ白になった。眩しくて何も見えなくなった。一瞬の閃光だった。
少したって、視力が回復した。
「か、かみなりだ!」
近くに直撃を喰って、ドカーンと地響きのような音がすると思った。身構えたが、音はしなかった。無音のままシーンとしていた。
パニックになった。
散歩どころではない。身を隠すところも無い。無我夢中でアジと二人、這いつくばるように逃げ帰った。生きた心地がしなかった。
雲の中はしばらくして落ち着いて光らなくなった。
橋のたもとで突然、閃光をあびた。まるで、頭から強烈なフラッシュライトを当てられた感じだった。眩しい光だったが、稲妻のような恐ろしさは感じなかった。
いったい何だったのだろう。光だけの雷だったのか?
それともプラズマ現象とか?宇宙人とか?超常現象?
後にも先にも経験した事が無い。無事でよかった。
よくわからないが、思い出すと、今だに冷や汗がでる。
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