第9話 夜の散歩
工場から転職して営業の仕事になった。朝はゆっくりになったが、夜が遅くなった。
夜、帰って来て夕飯を食べ、一息つくと、動きたくない。しかし、ヤツは散歩を待っている。気力を振り絞って、散歩に出かけた。
こちらが立ち上がると、寝ていたアジも気配を感じてガサガサッと体をふるって起き上がる。さて、どこまで行こうか。
近くの小さな丘の上にゴルフ場があった。頂上にはクラブハウスが有り、夜でもキラキラと灯りが輝いていて、遠くからでもよく見えた。
今夜はあそこまで行こう。それほど遠くない。目標を決めた。自転車で行く。
夜の10時を過ぎると田舎は深夜だ。道路を走る車も少ない。もちろん人もいない。最初からリードを外した。
順調な速さで走り始めた。アジは自転車の前、ライトで照らされた丸い輪の中をずっと同じスピードで走って行く。ライトが右に行けば右に、左に行けば左に行った。光で地面が良く見えるのか、速さの目安にしているのか。
真っ直ぐな田んぼ道を過ぎると、山道の登りになった。ところどころ街灯はあるが、山道は薄暗い。道の脇は暗い森だった。
森の奥は見えない。
少し登って行くと森の中、木と木の間に、古いしめ縄と何かのおふだが張ってあった。ギョッとした。
暗いなか、ぼんやりと見えるしめ縄とおふだは不気味だった。闇の奥から何か、妖怪が出てきそうな感じで怖い。
「大丈夫、白い犬は魔除けになる。」何の根拠も無い気休めだが、勝手にアジを頼りにする。
登りは続き、大きなカーブを越えるとようやくクラブハウスのある広い駐車場に出た。頂上だ。ここは明るい。一息入れて、今来た道を引き返す。
今度は下りだから楽だ。少しスピードが出るが、アジも同じ様なスピードでライトの輪の中を走って行った。さっきの場所は見ないで通り過ぎよう。
山道の下りを終えると平地の田んぼ道になった。誰もいない夜の道をアジと二人で走る。
ようやく家に着いてホッとする。往復30分位だが、一仕事終えた感じだ。
アジ、お疲れ様。そしておやすみ。
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