第6話 雑木林
田舎では田んぼや畑の中に、ところどころ雑木林が残っている。いわゆる里山だ。
たいがい林の中は人が通れる道がある。道、と行っても倒木や木の根っ子が有ったり、でこぼこが合ったりして歩きにくい。周りの地面は手入れされておらず、雑草が伸び放題だったりする。
落ち葉を踏みしめる土の道は気持ちいい。道の先には何があるのか、気になって林の中に入っていく。雑木林が広いとどこかの山の中にいるようだ。
季節によっては葉っぱや枝に邪魔されたり、蜘蛛の巣があったり、虫に追っかけられたり、と小さな冒険がある。足元はゴム長がいい。石ころやぬかるみがあっても、気にならない。
日陰に咲く小さな花や変わった虫、知らないキノコを見つけるのは楽しい。
林を出ると知らない景色や変わった風景があったりする。
近くの雑木林にアジを連れてよく行った。誰もいないのを確認してリードを離す。
林の中に入るとアジは道を通らず、すぐ雑草の藪の中に飛び込んだ。腰の高さまで生えている笹薮があったりして、その中を全速力で走り抜けていく。
笹の葉の海が波のようにかき分けられ、潜水艦が通って行くようだった。そして藪の向こうの道にひょいと出て、ハアハアと舌を出してどんなもんだい、とこちらを見ている。
秋になると顔中、ひっつきむしだらけだった。ひっつきむし、とはオナモミやヌスビトハギなどの草の実だ。
のんびりと歩くこちらが追いつくと、また藪の中に飛び込み、向こうの方で顔を出して早く来い、という顔で待っている。そんな事を繰り返しながら雑木林の中を歩いた。アジは本当に楽しそうだった。
やれやれと思ったが、こちらも楽しかった。こっちはこっちで林の中、木にさわったり、葉っぱをひろったり、空をみたり、楽しんでいる。
ガサガサ藪の中に出たり入ったりしているアジを見て、お前は本当に野生児だよ、心の中でつぶやいていた。
林を抜けると田畑の畦道だったり、住宅の裏地だったり、舗装された農道だったりする。
明るい日差しの中に出て、小さな冒険はそこでお終い。リードを付けて歩きだす。
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