25話 妹さんとの噂、デマだよね?
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8人という大人数での勉強は思った以上に捗り、気が付けばいつの間にか2時間も経っていた。
「お腹空いた~ファミレス行かねぇ?」
「いいね!行こうよみんなで!」
「こんな大人数でファミレス行くのは初めてだな~」
周りから声が上がると、隣にいた
「それじゃ行こうか!どうせみんな腹ペコだから集中できないんでしょ?」
「おっしゃ~~」
みんなにつられるようにして、僕も立ち上がってからスマホと財布を確認した。ちょうどその時、目の前で
「いい調子だね、あの二人」
「うん?ああ、そうだね」
色の濃い茶髪をなびかせながら、江藤さんはそっと笑みを向けてくる。僕は反射的に答えた。
気が付けばもう大体のやつらが玄関で靴を履いてるのか、僕と江藤さんだけがリビングに残されていた。
僕たちもリビングを出て、自然と肩を並べながら話し始める。みんなはもう何歩も前を歩いていた。
「柚木さんと井口か~まぁ、あの二人なら上手く行くだろうな」
「……そうだね。二人に限らず、みんななんかいい雰囲気だし」
「え?いい雰囲気って?」
「もう~~気付いてないの?
「うわっ、ウソだろ?」
「本当だよ?私、今日もあの二人のことけっこう見てたし。お互い視線合わせてもう付き合ってます~って周りに見せつける勢いだったよ?」
「マジか…………って、江藤さん?勉強教わっている最中にどこ見てたんですか?」
「だって恋バナ好きだし~」
会話を弾ませながら家を出た時、ちょっと離れたところで
「何やってんだ~早く来いよ!」
「お~~~う」
「……ちぇっ」
江藤さん、なんで今舌打ちした……?まあ、どうでもいいけど。
先に進んでいる6人の背中を追いかけるようにちょっと早めに歩いてると、江藤さんはまだ話を振ってくる。
「そういえば、七下君。最近授業サボったことあったよね」
「……ああ、あったな」
「どこで何をしてたの?」
「いや、それを江藤さんに説明する必要ある……?」
「素っ気ないな~本当になにしてたの?別に病気とかでもなかったでしょ?」
……妹と行くところまで行ってましたとは、さすがに言えないな。
僕は肩を竦めながら、適当な言い訳をつけることにした。
「屋上の前でただただサボってた」
「へぇ、なんで?」
「なんでって……いや、本当に理由なんかなかったんだよ。ただ、あんまり授業受けたくなくて」
「ふうん~~そっか。普段は優等生の七下君が、ねぇ」
「うん?僕優等生なの?」
「優等生じゃん。成績いいし、先生方からも信頼厚いし」
僕が驚いて口をポカンと空いていると、江藤さんはさも当然のようにそんな言葉を付け足してきた。それだけで優等生、と結び付けられるのだろうか。
……優等生じゃないけどな。そんなに真面目でもないし、自分が誰から信頼されるような人間でもないと思う。
「ちなみに、ここからファミレスはどれくらいかかるの?」
「10分ちょいかな~まぁ、みんな楽しそうでいいじゃん」
相変わらずちょっと離れたところにある6人の姿を前にして、僕はなんとなく肯く。
なるほど、確かにみんな楽しそうだ。
「…………………」
「………………あ、あの!」
「あ、うん!!」
井口と柚木さんはお互い俯いて照れているけど、指先が触れるか触れないかの距離でずっと肩を並んでいる。
「ハンバーグなんて食べたら太るぞ~~?本当にいいのか?」
「あんたと関係ないでしょ!!もう!!!」
さっき江藤さんが言っていた
そんな場面を見つめながら、僕はぼうっと考えた。
「………………………」
あれがきっと、普通だ。
青春のど真ん中にある僕たちに許される、一番の幸せだ。僕と莉玖の恋は、世間で許されるにはちょっと
目の前のあの子たちを見ていると段々、実感してしまう。僕は永遠に、あんな風にはなれないと。
もし僕があんな風になったとしたら、それはきっと自分自身にウソをついている状態だ。空いている穴に借り物の幻想を突っ込んでも、虚無は満たされない。
「あのね、七下君」
「…………」
「七下君?」
「あ………あ!ごめん、どうしたの?」
「これ、ちょっと敏感な話題だから聞くのアレだけどね」
言葉とは裏腹に、江藤さんの整った顔には
あくまでも真っ直ぐに、突き抜けるような眼差しで僕を見ながら、江藤さんは問う。
「妹さんとの噂、あれデマだよね?」
一瞬、時間が停止されたように何も感じられなかった。
ファミレスに向かっている足だけが機械的に動いて、僕は江藤さんの目に縛られたまま、何も言えない。
普通に考えたら、当たり前だろとか妹となんてムリだよとか言って、笑って済ませるのが最善だけど。
でも、僕は莉玖を否定したくなかった。中身のない言葉でも、莉玖との関係を否定するのは酷い裏切り行為だから。
心から愛する最愛の人を否定するなんて、できるはずがない。でも、莉玖と愛し合っていると公言するには、僕はまだまだ世間が怖い、脆い人間で。
………だから。
「……そうかも、しれないな」
きっぱりとした肯定でもなく否定でもない、そんな曖昧な可能性を残すことしかできなかった。
江藤さんは複雑な顔をしながら、蚊の鳴くような声で言う。
「そっか……」
……ああ、これは気付かれたな。くそ………。
我ながら最悪な答えだったと思う。でも、これが僕の精一杯で………どう答えればよかったのか、返事を出した今でも分かる気がしなかった。
じっくり考える隙を、江藤さんが与えてくれなかったから。
横断歩道の前で合流して、僕と江藤さんはようやくみんなと合流して一緒にファミレスに向かう。
その後も空気を和ませるために江藤さんが軽く話を振って来たけど、僕はとっくに上の空になっていて、江藤さんに対する申し訳なさだけが募っていた。
『………………莉玖』
さっきの自分の返答を思い返すと、ズキズキと胸が痛んでくる。
急に虚を突かれたにしろ、僕は莉玖を否定してしまった。莉玖のことが好きかという質問に、僕は即座に肯けなかった。
莉玖を裏切ってしまった。
それをどんな風に謝罪すればいいのか、やっぱり僕は分からなかった。
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