23話 狂っている兄、嫉妬深い妹
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勉強会の場所が
幸い、その不安を察した
そうやって他愛のない雑談をしながら江藤さんの家まで移動している最中、一翔は僕の肩に手を置いて言ってきた。
「心配すんなよ。この会もどうせ
「えっ、そうなの?」
「あの二人、周りが引くくらいのヘタレ同士だからな~江藤が進んで人を集めたんだよ。とにかく、あの二人も互いに気があるのは確かだから」
「へぇ……普通に優しいな、江藤さん」
「………ま、狙いはそれだけじゃない気がするが」
口ごもる一翔に首を傾げていると、ヤツは咳ばらいをしてから急に僕を見てきた。
「ていうかお前、最近妹さんとはどうよ」
「あ………復縁、したかも?」
一翔には視線を合わせず遠くを見るような目をして、僕はぽつりとつぶやく。
「かもってなんだよ、かもって」
「
「なら、フラれたのか?」
「いや、それも違う気がする。むしろ付き合っていた頃より好かれているかも」
「……分かんないんだよな~お前ら兄弟って」
「ははっ、やっぱそうなるよね……」
「お前、この間授業サボったのって、もしかして?」
「……………ああ」
すごく敏感な話ではあるけど相手は一翔だし、別にいいか。
肩を竦めながら答えると、一翔は呆れたように首をぶんぶん振りながらため息をつく。
「行くところまで行ってるな、お前ら」
「まあ、自覚はあるよ」
「そんなに妹さんのこと好きなのか?」
「……ああ。たぶん、めちゃくちゃ」
「ふぅ……」
一翔はそっぽ向きながら、一人ごちるように小さく言う。
「これじゃ、江藤も大変そうだわ……」
「え?何か言った?」
「こっちの話しだ。というより、噂の方はどうするつもりなんだよ。お前と妹さんが付き合ってるって噂」
「自然消滅したでしょ?それでいいんじゃない?」
「バカ、お前がその調子じゃ近いうちに絶対にバレるって」
「……………それもそうか。どうしようかな」
そんなことを、全く考えてないわけでもなかった。
大体、僕はその噂のせいで莉玖と別れる気になったのだ。莉玖が陰口を叩かれているところを見たくなかったから、莉玖が孤立されるのが嫌だったから。
でも、今はちょっと違うかもしれない。莉玖は普通になんてなりたくないと思ってるし、僕もまた……数週間前よりは、遥かに遠くに来たような感じがする。
今の僕はたぶん、何があっても莉玖を手放すことができない。
もし、また前のように噂が広まったとしたら、僕は一体どんな行動を取るのだろう。
「着いたな」
「だね」
けっこう真剣な話をしていたら、いつの間にか江藤さんの家に到着した。
白と黒をベースにした綺麗な一軒家で、建築されてからあまり時間が経ってないように見える。
「みんなはもう着いてるの?」
「ああ、俺たちが最後だってよ。チャット見ろよ、チャット」
「あはっ、んじゃ行くか」
僕は、普通じゃない。普通の人間として必要な何かを、僕は欠けている。
でも、ここから先は普通と常識が満ち溢れている空間だ。僕にとっては別世界とも言える、そんな空間。
………いけないな、本当に。
まだ家に入ってすらいないのに、莉玖に会いたいと思うだなんて。
俺も大概、莉玖に狂っているのかもしれない。
<七下 莉玖>
不安が全くないわけじゃない。
でも、兄さんに嫌われたくなかった。兄さんにとってめんどくさい女になりたくなかった。もう散々キレ散らかしておいてこんな風に思うのは、矛盾かもしれないけど……。
「すぅ……はぁあ………」
青と黒の色合いをしている兄さんの部屋で、兄さんのベッドに仰向けになって、兄さんのシャツを両手で抱きしめる。
勉強会……そういえば、もうテスト期間か。兄さんのことで頭がいっぱいになってて、あまり気付かなかったな。
勉強、しないといけないよね……でも、少なくとも今日は勉強に集中できる気がしない。
「……………酷い兄さん」
今日だけじゃない。兄さんは、これからもたくさんの人と繋がって行くのだろう。
その中には女の人も当然混ざっているはずで、私は他の人と関りは持てても元の性格がこんなんだから、たぶん私はこれからも一方的に、兄さんにモヤモヤするはずだ。
限られた世界の中で、私はずっと兄さんが帰ってくることだけを待ち望むだろう。そんな偏った生き方を、私はちっとも変だと思っていない。
でも、兄さんは………兄さんは、私と違う。
「……楽しいですか?兄さん」
捨てられるはずはないと、頭では分かっている。
兄さんの愛は消えない。その愛が冷めることもない。時間が経つにつれて愛の色が変わることはあっても、その熱さは変わらないはずだ。
そして、それを分かっていてもなお、私はどうしても嫉妬深くなってしまう女だった。すぐ近くに温もりがないと、このまま勝手に燃えて消えてしまいそうな女だった。
今のところはまだ大丈夫だけど。ちゃんと、我慢できそうだけど……。兄さんが夜遅くまで帰ってこなかったとしたら、さすがにムッとするかもしれない。
「そういえば……そうですね」
兄さんのシャツに染みついた匂いをもう一度吸って、私は昔あったことを思い返す。
まだ、私たちが付き合ってすらいなかった頃。でも、確かにお互いのことが好きで好きでたまらなくなっていた頃。
指先が微かに触れるだけで、すぐに爆発しそうなほどの繊細さを持っていた頃。
これはまだ、兄さんの性欲処理をする前の出来事。
そう、ちょうど今のようなテスト期間。私は夜中に、兄さんの部屋を訪ねたことがあった。
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