最終話 人が人として

「ウア…アアァ」


体がウイルスに耐え切れず、自壊が進行し左腕が、右足が溶ける。顔も半分が流れ出している。


「怨んで下さい。貴方にはその権利がある」


ゆっくりと崩壊する元暴走者…クルスタロに元に近づく。

手の届く距離になり、手を差し出す。

最初にあった時のように。


「貴方の怨みも背負って、感染者全員ぶっ殺してやりますから」


悲しそうな表情の後ろで、太陽が光を差す。

いつの間にか地面の氷は解けていた。


(なんで勝者がそんな顔してんだよ…)


薄れゆく意識の中、手を伸ばす。

だが虚しくも届かず、崩れ落ちてしまった。

もう体は半分も残っていない。溶ける速度は増していく。


「……あばよ」


最後に残った力で放つ、短い別れの言葉。

一瞬だけだが、笑った気がした。


しかし、確認することはできない。

もうそこに、暴走者もクルスタロもいない。


雪に解けたように、形も残らず消えてしまった。

周りは氷漬けにされていた生徒達が復活し、喜びの声に溢れてる。

その中にただ一人無言で立ち尽くす勝者は、またもや繋ぐことができなかった手を握りしめる。


それから3日後。


「君のおかげで大事にはならなかった。心から感謝するよ」

「いえ…無月さんのおかげですから」


またもや病棟。今回は事件の処理の為だ。


「今日で報告書は終わりだ。お疲れ様」

「ありがとうございます」


実は自宅にも帰れていない為。永遠がどうなっているのか気になって仕方ない。


「それと最後に…今回の事件を評価して昇格の話がある。まあ当然だね」

「本当ですか!」


思わず大声が出てしまう。テストの結果では昇格できないと評価されてしまい、絶望していた所に差した光に喜ばずにはいられない。


「研究も今回の結果を加味してくれるそうだ。クルスタロには悪いがね」

「そうですね…」


もちろん、この結果は狙った物ではない。であるならば、クルスタロの死が昇格の為の犠牲になってしまう。彼の意志と共に進むと決めたのだから。


「以上だ。昇格の話は進めておくよ」

「よろしくお願いいたします。失礼します」


立ち上がり、帰ろう扉へ向かう。ドアノブに手をかけたあたりで「ああそうだ」と声が聞こえる。


「Bになれば前線出撃も増える。君は妹の為だけに命をかけるのかい?」

「…もちろん、それは大部分です。Bにもなれば生活が優遇されますし、妹も安心させられます。ですがそれだけでもないです」


思うのは妹のこと、過去の自分の日常、そして崩壊する都市。

人が人を襲う、あってはならない光景。泣き叫ぶ人々。やがて死者は起き上がりさらに人を襲う。銃火器で一方的に射殺される感染者。


世界で今現在も起きている現実。


「僕は…人が人として生きて、人として死ねる世界にしたいんです」


真っ直ぐな瞳。曇り一つない。

本気でそのために一生を費やす覚悟が垣間見える。


「そうかい。立派な夢だ」


お辞儀をして朱里の元を後にする。

扉を閉めると、見たことのある人物が待っていた。


「おにーちゃん!」

「永遠!」


3日ぶりの再会。

元気よく飛び掛かる妹を兄は抱きしめるように受け止める。

確かな温かみ、安心感。自分の妹が元気なことが伝わり、思わず涙が出てしまう。


「おかえりなさい」

「ただいま」

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overd living dead〜死して目覚める異能力〜 とみくろ @to_me_cross

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