第2話 ウイルスによる進化

「はあ~、君はトコトン無茶をするね。鋼くん?」


場所は変わって、C区病棟。シュロム第三学園の特別施設だ。

その診察室には椅子に腰かけた人物が二人。


一人は鋼。もう一人は、20代前半ほどの真っ黒な長髪の女性だ。


Yシャツの上に白衣を着て、下半身はストッキングにスリットの入ったミニスカート。刺激の強い格好に、鋼も頬を染めながら視線を逸らす。


「そんなこと言ったって……僕にはアレしかありませんし……」

「『硬化レアリティ・アイアン』。確かに君しか出来ない所業だね。私達、【人智を超えた死者リビング・オーバー】の中でも、唯一無二の力」


人智を超えた死者リビング・オーバー】。


そう呼ばれる者は、ウィルスに奇跡的に適性を持つ者のことだ。


ウィルスは暴走するだけではなく、適合する人間を一度仮死状態にし、その間に身体能力を向上させ、過去の記憶から能力に目覚るのだ。


「君が連れてきた青年。能力は『氷像生成アイス・メイキング』と呼ばれていて、氷で様々な物を作り出せる能力だ」

「あの……無月さん」

「朱里で構わないよ。私と君の中だ」

「……無月さん」


女性、朱里の言葉を無視し話を進めようとすると、不満そうに微笑んだものの静かに耳を貸す。


「その…殺されるんですか?」


深刻な趣でそういうと、朱里は「ふむ」と頷き、デスクPCに向き直る。


「心配することはない。処分、というのは抵抗して我々を傷つける可能性があったから。君が連れてきたおかげで、現在治療中だ」


朱里のその言葉に、鋼はほっと息を吐く。


「まあ、感染度70%はかなり危険だ。軽減の薬を打ってからは、しばらくリハビリが必要だね」


言い終わると、デスクPCの画面を落とし、鋼と目を合わせた。


人智を超えた死者リビング・オーバー】も、感染度が高くなればなるほど、感染者として意識を奪われていく。70%は、感染者になりかけであり自我はあるが能力だけが暴走を起こしたり、自暴自棄などの精神的に不安定な状態になってしまう。


80%であれば自我はほぼ無くなり、感染者として処理しても罪には咎められない。

90%以上は目に見えるもの全てを破壊し、自身の特殊能力も暴走する。

90%を超えることだけは避けねばならない。


「さて、他に質問はあるかね?」

「…例の薬はどうですか?」


これまでと違う表情に朱里も顔を正し、机に向き直る。


「妹君のこともあるし、現在の状況を伝えよう。失敗だ」

「そんな…」


鋼の絶望した顔と同時にがっくりと肩を落とす。

すると朱里は「だが」と言葉を続けた。


「本来の目的の薬は出来なかった。しかし、その真逆の効果を持つ薬ができたんだ」

「真逆、ですか?」

「本部には連絡済みだ。近々実験があるだろう。大変危険だ、君にも手を貸してもらうかもしれないね」

「…わかりました。それがあの子の為なら」

「うむ。効果が逆とはいえ、研究すれば本来の方も進展があり得る。頼むよ」


肩を叩かれ、キーボードを叩いて作業に戻ってしまう。


「妹さんも心配するだろう。報酬は明日届くだろうから今日は帰り給え。『肉壁くん』」

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