第12話 クラン『リベレーター』

 翌日、昼を過ぎしばらく経ったあと衛兵が到着し検分を行ったが、指名手配中の賊ではないということで懸賞金は無かった。

 ただ、元B級冒険者が率いる人攫いから村を救ったということで金一封はあるかもしれないとのお達しだった。


 その査定は、町に帰ったあとにギルドで行われる。

 戦利品については通例により総取りでよいとの話だったが、ラグたちは持ち帰れる装備品で欲しい物だけをもらい、残りは村が冒険者ギルドで換金を行いその半分を村の復興に使い、余りを今回の報酬とすることに決めた。

 総取りを半分にするというのには、これから大変になる村への配慮だった。

 これはヨーコの強い要望であったが、村の人たちも十分に戦っていたので冒険者の面々から異論はでなかった。


 要望どおり、ラグはゾソルの刀を手に入れ他の面々もサブウェポンや魔輪を手に入れるなか、タキトスは何もしていないからと報酬を辞退している。

 このことは、ラグ以外の冒険者の心証を良い方向にもっていった。



 今はこのあとのことを話し合うために、冒険者の五人とヨーコにアンナも入り集会所に集まっていた。

 首都に帰るにあったって、ヨーコとアンナも一緒に来た道で帰り、長く休んでしまった仕事に早く復帰したいと二人から申し出があった。


 そのなかでタキトスからも提案がでる。


「君たちはそれぞれ前衛、後衛の攻撃陣だ。そこに回復をやれる後衛の私が入ればバランスの取れたパーティーになると思うのだが」


「それはタキトスもパーティーを組んで、一緒に帰るって話?」


 フォルはタキトスが、集団行動をあまり好まないタイプにみえていたので、意外そうな顔になる。


「そうだ。そしてもしパーティーとして上手く立ち回れたら、そのあともこの五人で一緒にやらないか?」


「五人パーティーか……」「悪くないな」「ついに冒険が……」


 タキトスの提案に、ラグ以外の三人は固定パーティーでまともな活動ができると前向きな反応だった。


「槍の扱いはうまいようだが、実戦で戦えるのか? 始めたばかりなんだろ?」


 ラグの皮肉が効いたかえしも、想定済みかのようにタキトスは口を歪めて笑う。


「このゲームは始めたばかりだが、ほかのフルダイブゲームは結構やっていた。こう見えて長物の扱いは得意だ。試してみるか?」


 杖をつくように持っていたクォータースタッフで、地面を二回叩いて鳴らす。


「ちょっと! いきなり喧嘩はやめてよ。帰りのモンスターとの戦闘で試せばいいでしょう?」


 喧嘩腰の二人をみて、争いごとに敏感なヨーコが固い表情になる。

 そんな彼女の様子を気遣うアンナと、周りの雰囲気からも浮いた態度だったことに気付く。


「……済まない。確かにつっかかり過ぎたかもしれない」


「君との出会いは、私にとっても最悪なタイミングだったが、ほかに思うところは無い。これからの評価はパーティーへの貢献度で決めてくれないか?」


「……分かった」


 返事をしつつもタキトスの持ちかけに、その真意を探るように表情を見ていたラグだった。


「やっとまともな、冒険ができそうだな!」


 五人のなかでは一番嬉しそうに、ジュライがはしゃいでいる。


「冒険なんて、まともな野営ができてからいいなさい。帰りは特訓だからね」


「何も言えねー」


 ヨーコのツッコミに、ジュライの叫びがコダマする。

 そんな様子をみて一同が笑顔になった。




「この度は、本当にお世話になりました。戦利品の件も大変助かります。すぐに元通りというわけにはいきませんが、またアンナが帰郷の際にでも一緒にいらしてください。歓迎します」


 村を出発する際、村長やアンナの家族が見送りに出てきていた。


「アンナしっかりやるんだよ。ヨーコさん、みなさんも助けてくれて本当にありがとうね」


 ノンナがアンナの両腕を掴みながら励ましている。ハンナも隣で声をかけていた。


「うん、行ってくるね。お母さんもお姉ちゃんも体には気をつけてね」


「お元気で、私もアンナと一緒にお店で頑張ります」


 別れに少し涙ぐむアンナの隣で、ヨーコもつられて瞳を潤ませる。


「暫くは大変でしょうが、頑張って下さい。またアンナと一緒に来ます」


 帰還組を代表してフォルが挨拶をする。

 それぞれが別れの言葉を送り合っているなか、ラグのもとにバリンがやってきた。


「母ちゃんとベルデは来れなかったけど、俺がバラン家代表して見送りに来た」

 

 家族が来ないところは申し訳なさげだったが、代表のくだりでは胸をはっていい顔をする。


「ありがとう。もうバラン家の顔だな」


「うん。俺が父ちゃんの分も二人を守っていく」


「頑張れよ。冒険者の手が借りたくなったら、いつでもきてくれ」


「分かった。村を助けてくれてありがとうな。兄ちゃん!」


 ラグたちに思うところもあるであろう少年が、それでも礼を言える思いやりにラグは驚きとともに改めてこの世界の人間は彼らだという認識を強くした。


 

 村長たちに見送られて帰還の途についた一行は、道中の想定外なトラブルもなく遭遇するモンスター相手にパーティーでの連携を試す。


 夜はヨーコとアンナによるアウトドア講座が開かれ野外活動の経験が乏しい男性陣は、漏れなくダメ出しをされながら野営の特訓を受けるのだった。


 懸念されていた反りの合わない二人の衝突だったが、自身で言っていたとおりタキトスの戦闘での立ち回りは上手く、回復役としては優秀な部類だったのでラグも特に何もいうことはなかった。




 首都に帰りつき冒険者ギルドに寄り、今回の顛末を話すと後日呼び出すとのことだったので今日のところはギルドの一角にある酒場にきていた。

 そろそろ日が暮れてくるので、今日の冒険を終えた者たちが集まり賑わい始めている。ちなみに、ヨーコとアンナは勤務先の魔具店に向かい今はいない。

 注文を済ませ、飲み物がきて互いに一息ついているとフォルが切り出す。


「さてと、帰りのパーティープレイの感想はどうだった? 僕はいいパーティーになると思ったけど」


「みんなとタキトスの動きも合っていたし、いけるだろ」


「あれなら、十分やっていけるって! 固定組もうぜ!」


「三人の意見に異論はない」


「…………」


 四人は、タキトスの提案にあった固定パーティーの話に前向きなようで、一人黙っているラグに視線が集中する。


「……分かったよ。バランスもよかったし俺も異論はないよ」


 ラグは終始タキトスの様子を気にかけていたが、ジュライたちを見て軽く笑った。


「よっしゃー! これからデカイ依頼も受けれるな!」


 ジュライの喜びが爆発する。

 今、酒場のなかでも最も盛り上がっているこのテーブルに声をかける者があった。


「みんなでパーティー組むの決まったの?」


 声のヌシはヨーコで、ラグたちのいるテーブルに近づいてくるところだった。


「おう! ラグも首を縦に振ったからなら!」


「早いね。もうお店の方はいいのかい?」


 女性陣は、店への報告をしたあとに酒場で打ち上げをするために合流することになっていた。


「よかったわね、ジュライ」


 ジュライのはしゃぎ振りに、ヨーコは笑っている。

 彼女は一度自宅に戻ったのか旅装束ではなく、町娘の恰好に変わっていた。


「ありがとう、フォル。大丈夫よ。アンナはさすがに疲れたみたいだったから休ませ

 たわ」


 ヨーコが席につく。


「そうか。NPCである彼女は一般人で、私たちとは体力的にも違うということか」


 なるほどと、タキトスが頷いている。

 タキトスの、NPCという発言が気になったヨーコだったが話を続けた。


「師匠も事情を話したらお店を休んでいたことは不問にしてくれるって、あなたたちが店に来たら弟子を助けてくれたお礼に、サービスするって言ってたわよ」


「それは楽しみだね。いい杖とかないかなぁ」


「一番高い物たかるなんて、えげつないな」


「たかりとは失礼な。ちゃんと交渉するよ」


「ハハハハ」


 フォルの物欲全開発言にラグが突っ込み、ヨーコが乾いた笑いを浮かべる。


「それと、ジュライ」


「ん? なんだ?」


 不意にヨーコに呼ばれ、エールのジョッキを空けていたジュライが振り向く。


「アンナが助けてくれたお礼をしたいらしいから、今度時間とってあげなさい」


 ラグとフォルが隅に置けませんなと、ささやき合っている。


「なんだよそれ、別に依頼でやっただけだし助けたのは俺だけじゃないだろ」


 茶化されたこともあり、気恥ずかしさで少し声が固くなった。


「あなたあれが最初の殺生だったんでしょ? アンナはそれを気にしているのよ」


 あえて人殺しという単語を避けてヨーコは告げる。


「それは……」


「…………」


 図星をつかれ言い淀むジュライを、また興味深げに見ていたタキトスが口を開く。


「折角だから行ってくるといい。女の気遣いを受け入れるのも男の甲斐性らしいぞ」


「……俺も賛成だな。この世界の人を知れるいい機会だろ」


 ラグも同意見で不本意そうにみえたが、感情だけ意見を曲げるほど子どもでもない。


「分かったよ。行けばいいんだろ、行けば」


 師匠であるラグと、ここまで接点の多かった年上であろうタキトスに言われて流されるジュライだった。

 一方、タキトスはラグが、賛成したことにも興味を引いたようでジュライだけでなく彼のことも顎を触りながら眺めている。


 その後も酒宴は続き、誰も聞いてもいないフォルのハロマル談義が流れるなかハンゾウとジュライ、ヨーコによる酒戦が始まりヨーコが圧勝していた。


 そんな面々を笑って見ていたラグだったが、タキトスの何も言わず酒を片手にメンバーを観察するような目つきが気になっていた。


「なあ。なんであんたは、俺たちに絡んできたんだ?」


「絡んでくるのは、主に君じゃないか」


「…………」


 話しかけてきたラグに軽く返したタキトスだったが、黙り込み見返してくる彼の態度に、真面目に聞いてきていると察した。


「単純に興味が湧いたのだよ。NPCである彼らに人間のように接する君たちにね。誤解しないで欲しいんだが、私もAIである彼らを感情の無い物として扱うことには反対だよ。ただ、どうしても割り切れない部分というものはあるものだろ? そこを君たちは飛び越えてきているように見える」


「確かに、俺たちは一カ月近く彼らと接触しているからな、最近始めたあんたには珍しく見えるのかもしれないな」


「職業柄、気になることは追求したくなってしまうタイプでね。君たちの行動に興味がでてしまった訳だ」


 なんの職業か気になったラグだったが、二十一世紀も終わりの今も変わらず、リアルの情報を根掘り葉掘り聞かないというのがネットのマナーであったので、それ以上を聞くことはなかった。


「分かった。ただ、今後は短気を控えてくれよ?」


「短気? …………あぁ。そうだな、今後は気を付けるとしよう」


「君たちを見て勉強させてもらうよ。私としてもこちらの人間とは仲良くし

 たいからね」


 ゾソルを殺害したことだと気づくまでの間が気になったラグだったが、ジュライたちを見ながら話すタキトスの横顔からは何も読み取れなかった。




 ヤウリ村の一件から一カ月ほどたった。

 町から離れた森の中で、軽トラックほどもあるクマと戦っている一団がいる。


「よし! だいぶ動きが鈍ってきたぞ」


 ここまでハンゾウは派出な動きでクマの注意を引き、サイドからラグとジュライが前後の足を重点的に狙いダメージを重ねてきたが、クマの動きが緩慢になってきたのでとどめに入ろうとしていたところだった。


「次のラッシュのあと、魔術で決めよう!」


 正面で対峙しているハンゾウの掛け声にフォルが答えるのと同時に、嬉しくない報告が周囲を警戒していたタキトスから入る。


「待て、八時方向から新手だ」


「チッ、野犬か! 数がいると厄介だぞ」


「野犬は俺とタキトスでやる。そっちは任せた!」


「「了解」」


 チラリと新手を確認して舌打ちするジュライに、ラグがタキトスを見ながら野犬のいる方へ走り出した。

 ラグとタキトスが駆け付けた先には、数匹のフォレストドックが待ち受けていた。


「八匹か、多いな」


「時間が惜しい。群れのボスを倒したら引くかもしれない」


「そうだな……で、どれがボスなんだ?」


「……ワカラン」


「…………」


 ボスの撃破を提案したラグに、タキトスの視線が刺さる。


「まずは、戦ってみてソレらしいのを見つけるしかないだろ!?」


「……了解だ」


 ラグとタキトスは、互いに背中を預ける形で戦闘を始める。

 タキトスは身長と同じ位の長さのクォータースタッフを操り、ラグが刀で斬り込む隙を狙って攻撃してくるフォレストドックを迎撃していた。


「あいつ、後ろで見てるヤツ怪しいな」


 野犬たちとの攻防を繰り広げながらラグが言った。

 彼の指摘どおり、一匹だけ後方で戦いを監視するかのようなフォレストドックがいる。


「よし、魔術で道を作る」


 タキトスは右手で器用にスタッフを操り野犬を追い払いながら、左手で印を描く準備をする。


「【アクセプト】」


 魔術起動呪文を唱えると、刻印を描く。


「【ゲイルファング】」


 描き切って即座に手元から放たれた初級風魔術であるソレは、五十センチほどの圧縮空気で出来たリングで高速に回転しながら、群れのボスであろうフォレストドックに向かって飛翔する。


 射線に入っていた一匹のフォレストドックの脚を斬り飛ばしながらボスに向かって肉薄する空気の刃、先に仲間の足を斬り飛ばされたとこで気取ったのかボスはギリギリで魔術を躱した直後、浮遊感と共に自分の胴体が上空から見えたところ絶命した。


「ふう、タイミング早いぞ」


 魔術が放たれる直前に、慌ててボスに向かって動いていたラグが軽い溜息をつく。


「甘えだな、やれたじゃないか」


 タキトスは問題ないという顔をしている。

 ラグは【ゲイルファング】の飛んだ後をたどり野犬の包囲を突破し、魔術を避けた無防備なフォレストドックの首を下段から斬って飛ばしたのだった。


「ぐっ、連携はスムーズにだな……」


 甘えと言われ、頭では分かっていても一言いいたくなるラグだった。


「機を逃すより早めの行動だろう。む、ボスで間違いなかったようだな」


 ラグの言葉を聞いている最中に、フォレストドックたちが森の奥に引き始めた。


「回収は後回しにして戻ろう」


「……そうだな」


 言いながら踵を返すラグを見て、戦利品より仲間を案ずるのかとタキトスは思いながら返事をする。



 ラグたちが戻ると、ちょうどフォルの魔術【ストーンブリット】がクマの頭蓋を砕いているところだった。


 【ストーンブリット】は初級土魔術で、二十センチ程の石を手元から三連射し飛ばす魔術で、生身に全弾命中すれば致命傷は免れない術だ。



「終わったのか」


「うん、ラグたちがフォレストドックの相手をしてくれてたおかげで倒せたよ」


「お前たちが抜ける時には、やっこさん詰んでたからな」


「俺の鼻先への一撃が効いたな!」


 少し肩透かしの様子なラグにフォルとハンゾウが笑って、ジュライが手応えのあった攻撃に興奮気味になっている。


「確かにあれで、怯んだから魔術が上手くハマったね」


「しかし、でかいクマだったな。ユニーク個体だけのことはある」


「ジュライが勝手に依頼を受けてきたとには、どうなるかと思ったけどな」


 ハンゾウが倒したクマを見ながら大きさに驚いていると、ラグがジト目でジュライを見た。


「ここ一カ月で連携も取れてきたし、俺たち『リベレーター』のランク上げるにはそろそろ大きい依頼受ける必要あっただろ?」


「そうだな、上を目指すならそろそろ大きい功績が欲しい所ではあったな」


 ジュライがなぜか痛いところ突かれたように少し焦って説明臭いことを言うと、タキトスがランク上げの話に相槌をうつ。


 ラグたちは固定でパーティーを組むにあたり、いっそのことクランを作ろうということになった。

 名前を決めるにあたって、ヤウリ村の一件もあり解放者で『リベレーター』がいいとジュライが主張する。

 少し中二臭が漂うネーミングに、ラグとフォルは乗り気ではなかったが、言い出しっぺのジュライは大いに気に入り、ほかの二人に関しては気にもせず賛成したので多数決により決定したのだった。


「まぁ、だれかさんは恋人にいいところみせたかったんじゃないでしょうかねぇ。フォルさん?」


「そうですねぇ、ラグさん。最近足繁く通っているようですからねぇ」


 二人がジュライを見つつ、ニヤニヤしている。


「なっ! 別にアンナとはそういう関係じゃ……そ、装備の相談に行ってるだけだ!」


 顔を赤らめしどろもどろになるジュライに、全員が笑顔になる。


「誰も、アンナさんとは言ってないけどな」


「――っ、卑怯だぞ!」


 ラグの指摘に、ますます赤くなるジュライだった。


「いいじゃないか、こちらの人間と恋愛関係になるとは興味深いな。ぜひ進展状況を聞かせてくれ」


「タキトスまで、勘弁してくれ!」


 真面目な顔をして聞くタキトスに、ジュライのうんざりした叫びが森にこだまし笑いが広まった。




 ウインディアにある宿屋『銀の羽亭』その食堂の一角に、リベレーターのメンバーが集まり夕食を注文しようとしていると、ハロマルの少女がラグたちのテーブルに近寄ってくる。


「おつかれさん、ヨーコ。仕事終わったのか?」


「ええ、アンナも誘おうと思ったらジュライと行っちゃったわ」


「お熱いこって……」


 ラグが声をかけると、ヨーコが肩をすくめながら一緒のテーブルにつき、ハンゾウが少し羨ましそうにこぼした。



 βテストが始まって二カ月ほどたっていたが、プレイヤーで個人の持ち家を持っている者は知られていない。

 プレイヤーの多くは宿屋を拠点としていた。

 教会が補助金を出しているらしく、プレイヤーは格安の料金でほとんどの宿屋を利用できている。

 もちろん貴族の泊るような高級店は無理だったが、冒険者御用達の宿なら泊ることができた。



 銀の羽亭は食事の美味しさに定評があり、リベレーターの面々とヨーコもこの宿屋を利用している。

 夕食は大体この食堂を利用し、時間が合えばヨーコも同席している。

 この日もユニーク個体のクマを狩ったあと、夕食をとりに来ていた。


「ジュライはひょっとしたら、初恋なんじゃない?」


 注文を終えたヨーコが口を開く。


「初恋かは分からんが、女と付き合うのは初めてなんじゃないか?」


「あの恥ずかしがりようだと、そうかもね」


 ハンゾウとフォルが森での一件を思い出したのか、微笑ましいじゃないかと笑っている。


「アンナは強気で押しも強いから、あの感じじゃ尻に敷かれるわね」


「ジュライは女の子に弱そうだからなぁ」


「そうだな」


「違いない」


 的を射たヨーコの指摘に、フォル、ラグ、ハンゾウも頷いていた。


「タキトスも居ないわね」


 ヨーコはテーブルに居ない、もう一人の事を気に掛ける。


「用事があるとかで、飯も食わずに出ていったな」


「まぁ、ウチのパーティーは狩り以外、基本自由な感じだから構わないけどね」


 ハンゾウが空席の席をみて、フォルが軽く笑っている。


「また、ラグと喧嘩したのかと思ったわ」


「人聞きの悪いことを言わないでくれよ……」


「最初の印象は中々拭えない。ものでしょ?」


「ぐっ……」


 ヨーコの的確な指摘にラグはしかめ面になる。


「別にそこまで嫌っている訳じぁない、反りの合う合わないはあるだろ?」


 タキトスと出会って一カ月経つが、いまだに胡散臭さを拭えず衝突する事があった。


「そうね、でもラグもいい大人でしょ? それで周りの人間を不快にさせてはダメよ。確かに、タキトスは何を考えているか読めないことが人より多いけど、そんな人は世の中に沢山いるんだから気にしていたら切りがないわよ」


「ラグは、タキトスの何がそんなに気にいらないの? 確かに上から目線なところはあるけど、話は通じるし頭も良さそうだけど」


 ヨーコに続いてフォルも参戦してきた。


「それは……確かに第一印象のことはあるけど、あいつを見ていると何というか直感というか生理的にモヤッとするんだよなぁ。でも、ヨーコの言う通りみんなを不快にさせるのは俺もイヤだからな、表に出さないようにするよ」


「そこで仲良くしようとは、ならないわけだ」


「誰も彼も仲のいいなん奴なんていたら、逆に怪しいだろ?」


 フォルが含み笑うと、ラグは当然だという顔をしている。


「でも、フォルはその傾向があるな。誰とでもすぐ仲良くなってるイメージがある」


「まぁ、僕はなるべく敵を作らないのが処世術だからね」


 マジマジと見てくるハンゾウに、フォルが笑っている。


「確かに……ただフォルからは、モヤッとは感じないんだよなぁ」


「さすがはニルケル、野生の勘ってやつか?」


「レッドカード! 種族差別はマナー違反でーす」


 ハンゾウの獣人系種族をからかう発言に、ヨーコがおどけながら駄目出しをした。


 実際に種族差別はあった。

 プレイヤーの中でも一部の種族を至上とみなし憚る者や、NPCの中には自分とは違う種族を差別的にみている者もいる。


「ハロマル最高! 世の中ハロマルだけになればいいのに!」


「種族至上主義もアウトー!」


 フォルの常軌を逸した様子の宣言に、さらにヨーコの笑いながらのツッコミが入った。

 メンバーと談笑しながらの、いつもの夕食時が過ぎていく。

 ラグたち全員、この日常が続いていくものだと信じて疑わなかった。


 あの日までは……

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