第11話 ヤウリ村
――時は、少し前に遡る。
村長の家から離れたところで、ジュライと別れたあとのヨーコとアンナは、しばらく林のなかで待っていたが村の人たちが逃げてくることはなかった。
ジュライが勝手口で助けた男は、そのあとの戦いで犠牲者となり、林に逃がすという伝言は誰にも伝わらないままになっていた。
しびれを切らしたアンナがヨーコの静止を振り切って村に向かおうとしたとき、村から一際大きい喧噪が聞こえて静かになる。
ヨーコたちが村に恐る恐る近づくと、賊が広場に集められているところだった。
アンナは急いで集会所に向かう、勝手口は開いており中から歓声が漏れ出している。
中に入ると別々に軟禁されていた子どもと母親たちが、再開を果たしお互いに喜び合っていた。子どものなかには泣き出す子もいて、周りは騒々しかった。
そんななか、聞き知った声が聞こえる。
「アンナ!」
「お母さん!」
周りの母親たちと喜び合っていたノンナだったが、アンナを見つけると一目散に駆け寄り抱きついた。
「おまえ、無事だったんだね! あのあとすぐに騒ぎになったから気が気じゃなかったんだよ?」
「大丈夫よ。ヨーコが助けに来てくれていたの」
アンナは抱きすくめられながら、ヨーコのほうを見る。
「あんたがヨーコさん? 本当にありがとう。いくら感謝してもしきれないよ」
ノンナは抱きつくのをやめて、ヨーコの手を両の手で取って笑みを浮かべた。
「いえ、私だけではないんです。仲間も一緒にきてくれて村の解放を手伝ってくれました」
「そうだったのかい。そりゃその人たちにもお礼を言わないとね」
「でも、村の人にも犠牲者が出てしまったようなのでこれでよかったのか……」
ヨーコは集会所に入る前、広場に村人と思われる男が明らかに息をしていない状態で横たわっているのを見ていた。
「運悪く死んじまった人もいる。今ごろその家族は外で対面してるところだろ。それでも村人全員が奴隷になっちまうよりかはマシさね。死んだ男たちもそのために命張ったんだ」
「そうですね……でも、やるせないですね」
「そうだね。でも稼ぎ頭が死んじまった家族を、生き残った私らが支え合って生きていくしかないさ。これまでもそうだったし、この先も変わらないのさ」
ここに生きる人たちは、村の外に獣やモンスターが普通にいて、同じ人類でさえ襲われる厳しい生活を送っている。
ヨーコは、この世界に生きる人の強かさを見たような気がした。
「私は回復魔術が使えます。誰か重症の方はいませんか?」
ヨーコは自分にもできることをやろうと、周りを見ながら確認するが集会所内には負傷者は見当たらなかった。
するとノンナが心配そうに広場の方をみている。
「集会所と村長の家にいた子に怪我をした者はいないから、外の男たちのところへ行ってくれないかい?」
「分かりました。行ってくるわ」
「お願いねヨーコ。私も薬を探してすぐ行くわ」
倒れるまで魔術をかけると意気込んでヨーコはアンナを見る、アンナも薬による救護活動をすると決めお互いに目を合わせて頷き怪我人を見て回ったのだった。
ラグたちを出迎えたのは、ヒューラで初老の男だった。
「私はこの村の村長を務めますナオクと申す者です。この度は、ヤウリ村を救っていただき、ありがとうございました」
ナオクは、作戦の顛末を聞いていたらしくラグに向かって深々と頭を下げた。
ラグは自分に向かって頭を下げられたことに驚いて、隣にいるジュライやフォルのほうをみるが二人とも黙り村長に挨拶しろと、顎で無言の圧力をかけてきた。
「ゾソルとは戦ったけど、この村を取り戻せたのはあなた達の力です……あの、彼の名前を教えてもらえますか?」
ラグは遠慮がちに答え、帰らぬ人となったあの村人を見た。
「おぉ、あれはバランです。今回はあいつがあなたと会っていたとか」
「そうです。彼なくしては、村を取り戻すことはできなかったと思います」
確信を持ってそう伝えると、ナオクは少し驚いた顔になった。
「バランはやさしい男でしたが気が小さいところがあったので、最初に聞いたときには信じられなかったのですが」
「彼はとても勇敢でした。当初は冒険者の人数が少なかったので、私が救出を迷っていたときに、彼が自分の村は自分たちで守ると力強く言ってくれたので、決心できました」
「そうでしたか……バランは村の誇りですな。今回の件で犠牲者が出てしまったのは残念ですが生きている者で、残された家族を支えていきます」
ラグはナオクの言葉に、どこか安心したのか少し気が抜ける感じがして意識が遠のきかけ膝を付き座り込んでしまう。
「ラグ!?」
村人の治療を終え集まってきていたヨーコが、慌てて駆け寄ってくる。
「あなた、ポーション飲んでなかったの!?」
「忘てた……」
戦闘が終わり、肩の傷からの血は止まりかけていたが失われた血が返ってくるわけもなく、左腕もひび割れたままフラフラしていたラグにヨーコは呆れていた。
「痛みを感じないからって、放っておいたらダメじゃない。せっかくアンナも助けられたのにあなたに死に戻られたら締まらないわ」
ヨーコは愚痴を言いながら、左手を取りながら【ヒール】をラグにかける。すると、たちまち左腕も肩にも違和感はなくなり、気分も多少スッキリしてくる。
「悪かったよ。そうか、アンナさん助けられたんだな。よかったよ」
依頼が果たせたのを安堵していると、アンナが近寄ってくる。
「あなたがラグね。アンナよ。ヨーコと一緒に助けにきてくれてありがとう」
座り込んでいたままのラグに、アンナも膝を付きヨーコの手に重ねるようにラグの左手に自分の右手を添えた。
「さっきも言ったけど、助けられたのは村の人たちのおかげだよ。俺は結局一人の相手しかしていないわけだし」
同じ目線で礼を言われラグは面映ゆくなり、ついはぐらかすような受け答えになる。
「謙遜しすぎるのも、嫌味になっちゃうよ? 僕たちを解放してくれたのも君なんだ
からね」
「そうだ、あんたは重要な役目を果たしたんだ。もっと誇っていい」
遠慮がちに謙遜するラグに、フォルとハンゾウが笑っている。
「フォルとハンゾウもありがとうね。こんな事件に巻き込んでしまってごめんね」
アンナが久しぶりに会う旅の仲間にすまなそうにしている。
「それはこっちのセリフだよ。もともと護衛の仕事だったのに一緒に捕まってしまってごめんね」
「そうだな、あの時は本当に不甲斐なかった。すまん!」
フォルとハンゾウも、奇襲を受けたとはいえ一度は盛り返した戦闘をゾソルによりひっくり返されたのを悔やんでいた。
結局、一同が互いに謝罪し合っていると、やり取りを眺めていたジュライが痺れを切らす。
「はぁ~、どいつもこいつも謝ってばっかりで辛気くせぇなぁ。今は助かったことを素直に喜びゃいいじゃねぇか!」
しめっぽい雰囲気に耐えかねてジュライがわめく。
「私もその意見に賛成だ」
突然話に割って入ってきた声の主は、ゾソルに止めを刺したあの男だった。
「お? オッサン話が分かるねぇ」
賛同者を得られたと、ジュライが喜ぶ。
「私は、タキトスだ。『教会の冒険者』で今回ギルトの依頼でヤウリ村にきたのだが運悪く捕まってしまってね。ひどい目にあったよ」
改めて見るタキトスと名乗った男は、中年に見え長身のヒューラで灰色のローブ姿
に肩まであった長髪も今は整えられ首の後ろでまとめられており、どこにでもいるような凡庸な顔立ちをしている。
「ギルドの依頼?」
「ああ、最近この周辺で人攫いが横行しているようだから、その注意喚起と調査も兼ねて街道からの村を回りつつ終点のこの村に立ち寄ったわけだ」
フォルの問いに、タキトスが淡々と答えていく。
「そんな話ギルドでは出ていなかったぞ? ヤウリ村に向かったアンナさんたちの安否がわからないってヨーコが問い合わせていたのに、なんの反応もなかったんだが?」
ラグが明らかに不信感丸出しに、筋がとおらないと訴える。
「そう言われても五日前に、依頼を受けてきただけだからな」
タキトスはローブの内側から紙を取り出した。それはギルドの依頼書で彼の言うとおりの内容が書かれていた。
その依頼書をみてヨーコがショックを受けている。
「そんな……一言も人攫いについて言ってなかったのに」
「ギルド内で情報の共有が上手くいってないのかもね……」
「まぁ、人のやることだからな。ミスもあるんじゃねぇか?」
フォルの推察に、ジュライが首を傾げている。
「人か……」
「…………」
ギルド職員すなわちNPCを人と呼んだことに、関心を持ったのかタキトスがジュライを見ている。
そして、その様子をラグが無言で見つめていた。
「みなさん、今日のところはお疲れでしょう。お腹が空いた方には軽く食べるものも用意いたしますので朝までお休み下さい」
村を解放したが夜はまだ深く、ナオクの取り計らいで休息をとる。
捕らわれていたフォルとハンゾウは、まともに食事がとれていなかったので村長の好意に甘えることにした。
ちなみに捕らわれていた時は一日一回、見張りの男にパンや干し肉を口にねじ込まれていた。
村の男たちも十分な食事はとれていなかったため、フォルやハンゾウと食事をともにする。
賊の見張りもあるので順番に休息をとるにあたり、まずはジュライとタキトスがペアで見張りにつき、その次がフォルとハンゾウとなった。
ラグも見張りを申し出たが一番の功労者だとタキトスが言いだし、フォルとハンゾウもそれに追従し寝る方向に無理やり持っていかれたのだった。
ラグは、ジュライとタキトスを一緒にさせておくのに漠然とした不安を感じていたが、アバターの体でもゾソルとの戦いのあとでは疲れていたらしく、一旦横になるとあっという間に眠りに落ち朝まで目覚めなかった。
夜が明け犠牲者たちの火葬が行われる。
セラナティアでは死体はゾンビになる可能性があるため、人が亡くなった場合は火葬されるのが常識となっていた。
村から離れた空き地に、普段から火葬に使われている場所があった。
ラグは、バランの火葬に立ち会っている。
今は犠牲となった四人の男たちがそれぞれ薪木で組まれた台の上に寝かせられており、家族と最後の別れをしていた。
バランの家族は妻のベレールと息子のバリン、娘のベルデの三人いる。
兄妹はまだ十歳にもなっていなかった。
ラグがベレールに向かって頭を下げる。
「昨日は挨拶もせずに申し訳ありませんでした。冒険者のラグと言います。バランさんとは村の偵察の際に、知り合い今回の奪還計画を立てました。彼がいなければ村は取り返せなかった。ただ、そのせいでバランさんが亡くなってしまって謝罪の言葉もありません」
「なんで! なんで父ちゃんも助けてくれなかったの? 強い冒険者なんでしょ!?」
ベルデがゆうべから泣きはらした顔で、ラグに強い言葉をぶつける。
「やめな、ベルデ。父ちゃんが死んだのはラグさんのせいじゃないのは、わかっているんだろ? 悪いのは人攫い共だ。その人や父ちゃんが戦わなければ、私らが奴隷になって惨めに死んでいたんだ」
ベレールは自分にも言い聞かせるように、ベルデを後ろからそっと抱いた。
「……すまない」
あのときはゾソルの相手で手一杯だったが、もっと早く倒せていたらと思うと自責の念がラグの口をついてでる。
「村長から父ちゃんが、作戦をやるって決めたと聞いたけど本当なのか?」
バリンも泣きはらした顔をしていたが、ラグの目をみて真剣な面持ちで聞いてきた。
「そうだ。家族は自分たちで取り返してみせると、この村から離れるわけにはいかないという強い信念を感じたよ」
「そうか……父ちゃんはやさしいけど気が小さくてちょっと頼りなさそうって思ってたのに、そんな度胸があったんだな……」
それを聞いていたベレールが、少し意外な様子をみせる。
「おまえ、そんな風に父ちゃんをみてたのかい? あの人はね、結婚するときに頼りなさそうだって私の父ちゃんに許してもらえなくて、何度も通って殴られていたけど決して諦めないで幸せにするって言って、最後には爺ちゃん根負けして許してくれたんだよ」
「え!? あのおっかない爺ちゃんから?」
「そうさ。その根性があるなら大丈夫だろうってね。そのおかげでお前たち二人も生まれて本当に幸せだったよ」
ベレールは二人を優しく抱き寄せた。
「だったら、今からは俺が二人を守る。バランの子として母ちゃんとベルデを幸せにする!」
「わ、わたしもする!」
兄妹の小さな決意を、ラグはただ眩しそうな眼差しで見ていた。
それぞれの家族ともに別れは尽きなかったが、ついに薪木に火がつけられることになり、四つの火柱が上がり晴天を焦がす。
それはバランの魂が盛大に燃えて、互いに抱き合う家族を包み込むように暖かく照らしているようだった。それを見届けラグは火葬場をあとにする。
火葬場から戻ったラグは、今後の方針を話し合うため集会所に呼ばれた。
「夜が明けてから、馬で衛兵のいる村まで使いを出しました。遅くても明後日にはこの村に衛兵が到着すると思います」
村長のナオクが冒険者一同を前に説明している。
「つきましては、みなさまには衛兵がくるまで賊の監視をお願いしたいのです。もちろん事後になりますが、ギルドの依頼として発注いたします。引き受けていただけないでしょうか」
それに対してのラグたちの反応は一致していて、乗り掛かった舟だから最後まで付き合うというものだった。
「ありがとうございます。監視の方法はお任せいたします。我々は村の片づけがありますので何かあればお申し付けください」
そう言うとナオクは去っていた。
「ヨーコはアンナを手伝うとして、賊の監視と遺体の方も気にした方がいいか?」
ラグが集まっている冒険者たちを見渡しながら意見を求める。
「私も監視くらいなら……」
「手は足りてるんだ。ヨーコはアンナを手伝ってきたらいい。ハロマルを小汚い賊と一緒にしておくなんて、神が許しても僕がゆるさないね」
「あー最後のうんぬんは別として、俺も賛成だ。監視はいいから手伝ってこい」
「戦えないんだったら、村の手伝いした方が建設的だろ」
ヨーコが気乗りしない雰囲気だったのを察したフォルとハンゾウが手伝いに賛成する。
続くジュライが憎まれ口を叩くように言うが、ヨーコにもそれが彼の照れ隠しであることは短い付き合いながらわかった。
一方、タキトスはヨーコのことよりもラグのほうが気になるようだった。
「私はニルケルの彼がなぜ仕切っているのか気になるが、彼女のことについては何も言える立場にはないな」
「ここに居る全員と直接、話したことがあるのは俺みたいだったから提案しただけだ。仕切ったつもりはない」
ラグとタキトスは無表情に見つめ合っているなか、残された四人は顔を見合わせていたが、その空気に耐えかねたフォルが口を開く。
「えーと、なんやかんやバタバタしていて互いの名前もちゃんと紹介してなかったね。袖振り合うも他生の縁だし自己紹介しない?」
「僕はフォルでβテスト初日から始めて魔術師メインでやってるよ。そこのハンゾウとはゲーム始めたときに、たまたま組んでそれ以来一緒に行動してる感じかな」
「ハンゾウだ。大剣を使う戦士をやってる。あとはフォルの言う通りだな。あと、フォルの紹介にはハロマル狂いが抜けているな」
ハンゾウの言いようにフォルが『狂ってるんじゃない! 神聖なものだ!』と抗議している。
「ヨーコよ。私もテスト始まった時からやってて、今は魔具製作者になるためにウィンダムのお店に務めているわ。二週間ほど前にフォルにナンパされて、彼らと知り合うようになったのよね」
五人がジト目でフォルを見つめるなか、ヨーコの視線だけに反応して喘いでいる。
「うわ、本物だ」「真正ね……」「つける薬なしだな」
と口々に言われても、まったく聞こえていないフォルだった。
「ラグだ。俺もβテストの最初から始めた。刀が性に合うから使っている。そこのジュライとは一カ月前くらいに会って、そこから組んでるな」
「ジュライだ。俺もラグと同じ感じだな。ヨーコとはこの依頼で初めて会ったんだ」
ラグとジュライが無難な自己紹介を終えると、注目は最後の一人に集中する。
「タキトスだ。私はつい最近始めたばかりでね。楽な連絡系の依頼を受けたつもりだったが今回のことに巻き込まれて、この世界もなかなかよくできると感心した次第だよ。ああ、ちなみに回復役をやっている」
「何に感心したんだい?」
「NPCの反応だよ。ここまで人らしいとは思っていなくてね。感情移入をしてしまう人間がいるという話も納得だよ」
フォルの問いにラグとジュライ、ヨーコを見ながら得心がいったと頷いている。
そのことを馬鹿にされていると感じたラグとヨーコだったが、ここは何も言わず抑えていた。フォルとハンゾウもそれを察したが、特に何も言わなかった。
ジュライは、タキトスの物言いには気付かず昨夜のことを思い出す。
「そうだよな、夜見張ってるときタキトスと話したけど、俺と同じでNPCのこと大して意識していなかったけど、あのゾソルに甚振られたとき人の感情を感じたんだってよ」
「それは……大変な目にあったね」
「いや、痛みはないからNPCの観察が捗ったよ。まあ、あの不快な感触をすき好んで受けようとも思わんがね」
フォルの同情に、たいしたことはなかったという素振りをみせたタキトスにラグが突っ込む。
「そのあんたの言う観察をしていた程度のことならなぜゾソルを殺した? あの状態なら無抵抗と同じだったろう」
「またその話か、それこそこちらにも感情はあるのでね。ついカッとなってしまっても仕方ないだろう? それに聞けばあいつはB級の元冒険者だったそうじゃないか、両腕を失ったからといって無抵抗とどうして言える?」
「それは……」
痛いところを突かれたラグは、渋面になり言い淀むしかなかった。
「まぁまぁ、済んでしまったことを言っても始まらないからさ。あーと、今更だけどみんな敬称は要らないよね? ここで知り合ったのも何かの縁だしさ仲良くしようよ」
フォルが語尾に溜息を混ぜ、ラグは渋々といった感じで引き下がり、タキトスは特に動じた様子もみせなかった。
ラグとタキトスのやり取りをみていたジュライとハンゾウだったが、どちらの言い分も理解はできたので特に口を挟むようなことはしなかった。
「じゃあ私はお言葉に甘えて、手伝いにいくわね」
ヨーコはラグの様子が気になったようだったが、後ろ髪を引かれつつ手伝いに向かった。
変な雰囲気になった空気を変えようと、ジュライは目に付いたものを口にした。
「しかし、遺体も検分するから火葬できないなんてな」
「ゾソルくらいになれば、指名手配されてたりするんじゃないか?」
「あー、それはありそうだね」
ハンゾウがゾソルとの戦いを思い出しながら言うと、フォルも頷く。
村の広場には捕縛され、自分たちで用意した手枷をはめられた賊と遺体が並べてあった。
遺体には
遺体がゾンビ化するなら早く焼いてしまえばいいはずだが、賊の遺体は衛兵が検分する取り決めになっていた。
今回の騒動で賊の死亡者はゾソルを含め十一人に上り、捕縛者は十四人となった。
捕縛された当時、その殆どが骨折や四肢の切断で戦闘不能となっており戦闘の激しさがうかがえたが、今は命に係わる重傷だけヨーコの魔術により治療されていた。
「そういえば、今回の戦利品ってどうなるんだ?」
ジュライが唐突に思いついたように、ゾソルたちが戦利品を集めていた倉庫をみる。
「普通なら討伐したパーティーの総取りだけど、今回は事後で冒険者ギルドが絡むイレギュラー案件だし、被害が大きそうだから治安当局とかギルドで話し合いがありそうだね」
「面倒くさいのは勘弁だな」
「報酬の査定を面倒くさがってたら、足元みられて自分の価値まで落とすことになるよ?」
嫌そうな顔をするラグを、フォルが正論で殴った。
「ぐっ……」
「あはは! 言われてやんの」
ぐうの音もでないラグを、ここぞとばかりにジュライが煽る。
「この村から盗られた物は、村のもんが引き上げたみてぇだから持ち主不明な物は俺らの戦利品になるんじゃないのか?」
ハンゾウが顎を手で触りながら、ギルド規約を思い出そうとしていた。
単純に懐具合が刀を新調するだけの余力がないため、ラグの本音が漏れる。
「ゾソルの刀は欲しいなぁ。俺のは次の戦闘で折れそうだ」
「あいつを倒したのはラグだから異論はないよ。同じ刀使いのジュライはどうか知らないけど」
「いくら俺だって、そこまで面の皮は厚くないぞ」
フォルの指摘に少し憤慨する。
「俺も構わないが、あんな奴の使っていた得物を使うのに抵抗はないのか?」
「道具は道具だろ? 武器は使い方次第で凶器にも、身を守る道具にもなる。自分で戒めていくしかないさ」
「その意見には賛成だ。力は使い方が分かっている者が使うべきだな。私も止めは刺したが異論はない」
ハンゾウとラグの話に、タキトスが乗ってくる。
「それはどうも。その使い方が分かっているようで、分かっていない奴が多いって話でもあるがな」
ラグは、タキトスを見ながらさもお前のことだと言わんばかりの口調で言った。
「お前はどうしていちいち、言いがかりを付けてくる? そんなに止めが刺したかったのかね?」
「そんなことは一言もいってないが? それに初対面のあんたに、お前呼ばわりされる謂れもないが?」
また、対面になり言い争う二人に、フォルとハンゾウは顔を見合わせ溜息をつき、ジュライは何か考え事をしている。
「なんかさ、二人って似たところがあるように思えるんだよなぁ」
ラグとタキトスが無表情のまま対面しているのをみて、考え込んでいたジュライがボソッとこぼした。
「「どこがだ?」」
二人は見事なハモリでジュライを冷たい目で射止める。
「どこがって言われるとよくわからないけど、なんとなくなぁ。雰囲気か?」
睨まれてもどこ吹く風で、うんうん唸りながら考えている。
「会って間もないけど、夜一緒にいたジュライがそう感じたならそうなのかもね」
フォルが、心外だと言わんばかりの顔をしている二人を見て笑う。
このあと、監視のローテーションを三人監視二人休息で一人ずつ入れ替わるように組み、衛兵の到着まで見張ったが大したトラブルは起きなかった。
この間ラグとタキトスが一緒になるタイミングはあったが、特に二人とも喋りもせず三人目になった者が溜息をつくのだった。
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