第10話 ヤウリ村決戦2

 ラグたちが行動を起こそうとしていたまさにその時、外から喧噪が聞こえてくる。


「くそっ、村人がおっぱじめったか!?」


「まだ、騒ぎ起こしてないけどさっきの?」


「ああ、女の人が逃げた騒ぎで動いたみたいだな」


 ハンゾウが焦りだし、フォルの推測にラグが頷く。


「もうやるしかない。俺はゾソルに突っ込むから二人は村の人たちをフォローしてくれ。赤髪の刀使いで賊と戦っているヤツがいたらそれが仲間のジュライだ」


「分かった。やろう」


 フォルが言い終わる前にハンゾウは、押っ取り刀で飛び出していく。

 それに続き、ラグとフォルも篝火に照らし出される広場に向かって飛び出していった。

 ハンゾウは目に付いた村民の戦いに参戦していく、フォルはそれを見て人が一番多く集まっている村長の家に向かった。




 ラグがゾソルの居ると目される家を目指していると、その家の扉が開き男が姿を現す。

 男はヒューラで体格と防具はラグと大差はなかった。肩まではない癖のない黒髪を真ん中で分け無精髭を生やしており、腰には雰囲気だけでも業物だと見分けがつく刀を差し、時代劇に出てくる中年の浪人を思わせた。


「あんたが、ゾソルか?」


 男との間合いの外ギリギリまで近づいたラグが、慎重に声をかける。

 男はラグを見て、差している刀を確認するとニヤリと笑う。


「最近つまらないことばかりでな……道すがらの旅人を狙えだとか、田舎の農村を襲えだとか本当につまらないことばかりだが……お前は俺を楽しませてくれるのか?」


「……期待に応える気もないが、あんたのことは嫌いになれそうだ」


「悪くない返事だ。名は?」


「ラグ」


「俺がゾソル・モナガード……いや、ただのゾソルだ」


 久しぶりの名のりに、ついかつての名前がでたが直ぐに言いなおす。その言葉尻を濁すような言い方が気になったラグだったが、すぐにゾソルから放たれる殺気に我に返る。

 周りには見張りや起きた賊も数人居たのだが、ゾソルから放たれる殺気からか誰も近づく者はいなかった。



 互いに右手をだらりと垂らし、左手をいつでも鯉口を切れる状態から、細かい摺り足にて間合いを計りだす。

 本来なら抜刀状態から戦うのが普通であるが、ゾソルの挑発に乗せられる形でラグも納刀状態からの抜き打ち勝負に持ち込まれている。


 あまりの集中に時間間隔が曖昧になるなか、ラグは自分の間合いに入るや否や無心で刀を抜く。

 ラグはこのゲームが始まり約一カ月間、刀の扱いを修練してきた。

 アバターの身体能力が高いこともあり、自分では上手くなっている実感はあった。

 だが、やはり高だか一カ月である。

 ゾソルの間合いもラグと一緒だったようで二人が抜刀したのはほぼ同時であったが、ゾソルの剣速はラグのそれを上回っていた。


「!!」


 咄嗟にラグは体を後ろに引きながら、首への一撃を刀で防御する。

 辛うじて一撃目を防ぐことはできたが、上体が後ろに反って受けていたため体勢を崩され、二撃目の袈裟切りを刀で受けるものの耐えきれず押し切られ左肩に受けてしまう。

 革鎧で覆われていたが、たやすく引き裂かれ生身を削られる。


「ぐっ……」


「こんなものか?」


 左肩から感じるゾリッとした不快な感触が声を出させた。さらに、ギシリギシリと互いの刀が唸りを上げるなか、覗き込むようにゾソルの挑発が浴びせられる。

 その言葉に今までの修練を馬鹿にされたように感じ憤り、ラグは力任せに相手を追い返す。

 余裕からか、ゾソルもそれに抗うことはせずに距離を取りなおした。


「お前、飲んでいるのか?」


 篝火の光では顔色で判断できなかったが鍔迫り合いで挑発されたとき、ゾソルの呼気から強いアルコールの匂いを感じ取っていた。


「そりゃこんなつまらん世の中じゃ、飲まなきゃやってられん。お前程度の相手ならこれくらいの枷がないとな。つまらんだろ?」


「そうか……なら付き合ってもうぞ」


 とことん挑発してくるゾソルに対してラグは対応を決めた。

 左肩の傷は深く出血も止まっていない、力が入りづらく左腕単独では長く構え続けることもできない状態である。

 振りかぶりは右腕で無理やり持っていくしかない。

 負傷してそれに加えゾソルがラグより格上ということがわかったいま、やれることは出血多量で動けなくなる前に、飲酒による弊害に付け込む短期決戦しかない。


(手が使えないなら足を使うだけだ!)


 ラグは死地へ飛び込んで行く。




 一方、ジュライはヨーコとアンナを残し村長の家に迫っていた、そこはすでに賊と村人たちが争っていて倒れている人も見受けられた。

 アンナが出ていった勝手口の前で争っている男二人を見つけ、ジュライに背を向けもみ合っている賊を斬った。


「大丈夫か?」


「あ、あんた誰だ?」


 村人は突然現れた知らない男に、助けられたことよりも警戒心が勝り身を固くする。


「俺は、アンナに頼まれてきた冒険者だ。中は無事なのか?」


 ジュライが集会所の方を見ながら言うと、アンナという言葉に安心したのか男は現状を語りだした。


「中はまだ無事だが、賊どもがどんどん起き出してこっちに来てるからいつまでもつか分からん」


 こうしている間にも表の方で喧騒が大きくなっている。


「俺は表にでる。賊の数が減ってきたら中の人たちを逃がせ。このまま真っすぐ行った林でアンナが仲間と待ってる」


 ジュライが後ろを指し説明を終えると、返事も聞かず表に駆け出して行った。


「わ、わかった」


 男の返事がジュライに追いつくことは無かった。

 ジュライが表にでると目を引く光景にであう。

 右手でワンドを振るい賊を寄せ付けず、左手で刻印を描いて魔術を放つという器用な立ち回りをしているハロマルの男を目にした。

 新しく視界に入ってきたジュライに、そのハロマルはワンドを振るおうとするがその髪色と刀を見てやめる。また、違う賊にワンドを振るいながら声を上げた。


「君がジュライかい?」


「そうだ! あんたがフォルか? 加勢する!」


「フォルだ! 助かるよ! 守りながらは流石にキツイ」


 戦況は、村長の家の周りに村の男たちが集まり向かってくる賊と戦っている。

 戦うと言っても賊は刃物で武装しているが、村の男たちはよくて手斧で殆どの者が薪を手に応戦していた。

 そのためすでに犠牲者もでている状態で、ジュライとフォルは村人と争っている賊を中心に、向かってくる賊も相手をせねばならず厳しい戦いを強いられていた。




 ハンゾウのほうも、アンナを救出しにいった五人と行動を共にしており、村人を護衛しながら向かってくる賊の相手をしていたが、村から少し離れたのでやっと途切れたところだった。


「くそ、賊は二十人くらいと聞いてたが、それより数が多くないか!?」


「明日、モナードに引き上げるので仲間を集めていたようです」


 村人とはすでにアンナの護衛だった、ということで話は通っていた。


「タイミング悪すぎだろ!? いや、今日しかなかった訳だが……」


 一人突っ込みをしていると、先行していた村人が驚いた声を上げる。


「賊が死んでます!」


 ハンゾウが確認すると三人の男が、鋭利な刃物で切られた痕を残し絶命していた。


「……三人か、見事にバッサリやられてるな。多分応援に来たジュライというヤツの仕業だろう。この分なら逃げた女の人は保護されてるはずだ。あんたたちもこのまま脱出するといい」


「そういう訳にはいかねぇ、ここは俺たちの村だ。自分で守らないといけねぇ」


 このまま守りながらの戦闘は難しいと思い、脱出を勧めたが意思の固そうな男たちを見てハンゾウは説得を諦めた。


「なら、そいつらの武器を拾って少しでも武装するといい。俺も暴れさせてもらう」


 武器を取った村人たちはハンゾウと村に戻っていく、そこで見たものは村長の家に群がる賊とそれを迎え撃つ村人に奮闘する二人の冒険者だった。

 そして、広場では二人の男が他の介入を許さないほどの激しい戦いを繰り広げている。


「ゾソルはアイツに任せておくしかないな。俺たちは残ってる賊をやるぞ!」


 ハンゾウ自身でも付け入る隙がない戦いに口惜しさを感じつつ、作戦通り先にほかの賊を無力化させるため村長の家に向かうのだった。




 広場ではラグのヒットアンドアウェイを基本戦術とした機動戦闘が行われていた。


 ラグは足を使い正面を避け側面から攻撃をしかけ、二合ほど打ち合い違う方角へ引き、今度はそれを追ってゾソルが斬り込んでくるのを受け二、三合打ち合い、またラグが違う方角に引くのを繰り返し、広場を切り結びながら移動する。

 打ち込み合いが二十を超えてきたところで、連打戦に変化が発生してくる。

 明らかにゾソルの息が上がり足も止まり始め、自分からラグにしかけることが少なくなっていた。


「ちょこまかと……逃げ回るしか脳がないのか?」


 ゾソルは離れると、一旦足を止め話しかけくるが時間稼ぎなのは一目瞭然だった。


「…………」


 ラグは休む時間を与えるハズも無く何も言わずまた足を使い打ち合いを始めるが、ラグの方も出血多量の表現効果として視界が時折ぼやけ始め、肢体のレスポンスも低下し始めていた。


(ジュライたちを待っている時間はなさそうだ、そろそろ決めないとマズイ)


「クソがぁ!」


 ゾソルが悪態を突きながらも、四方から揺さ振る攻撃をいなしている。

 打ち合いのさなかラグは、ゾソルに一番近い篝火に目星を付ける。


(ここで決める!)


 篝火とゾソルの間は一メートルほど空いていた。ラグは打ち合いから引いて篝火の後ろに回り、篝火を挟んでゾソルと対峙する形を取ったかと思うと、篝火を蹴り出し火のついた薪と火の粉がゾソルに襲い掛かる。

 ゾソルはラグが篝火の後ろを取った時点で、倒れてくる篝火に紛れての奇襲だと勘づいていた。しかも、ラグにとって悪手といえたのは篝火とゾソルの間が一メートルも離れていたことだった。

 これだけ離れていればゾソルなら左右どちらにでも躱しながら、蹴りで体勢が不安なラグに打ち込むことは造作もなかった。

 真夜中の暗闇のなか、篝火の薪が火の粉をまき散らしながらゾソルに迫る。ラグは蹴りを放った体勢から戻る途中だった。


(馬鹿が! 遅いわ!)


 ゾソルはすでに左手側に燃える薪を躱し上段に構えており、ラグの放った右足が地面に着き刀を防御体勢に立て直そうとしているところに渾身の真向斬りを繰り出していた。

 この打ち合いで損耗しているラグの刀なら、自分の持つダンジョンの遺物である業物なら防御ごと叩き折れると信じた一撃であった。


 ラグは賭けをしていた。


 このターニングポイントとなる篝火の攻撃は、ゾソルにとっても決めるチャンスであると、それ故に全力の一撃を上段から放ってくるだろうと――


 ゾソルから頭への一撃が迫る、ラグは必死に刀で受けようと上段に構えているようにが間に合わない。

 渾身の一撃は、ラグの刀ではなく左前腕に吸い込まれていく。

 ゾソルが勝ちを確信したその刹那、ラグの左腕が激しい火花とともに渾身の一撃を受け流した。


「!?」


 ラグは左腕で受け流しつつ、ゾソルの一撃を利用して蹴り出して踏み込んだ形になっていた右足を起点に、独楽のように体ごと反時計回りに力を逃がしながら回転させた。

 受け流しによって前に投げ出す形になっていたゾソルの両腕を、回転の力をそのままに右手の刀で上段から両断した。


「いつの間に……ぐっ」


 斬られたことも構わずゾソルはラグの左腕を確認すると、握られていた刃の厚い片刃の短剣が地面に落ちた。

 この短剣によって刀を受け流されたのだった。

 遅れてきた痛みにゾソルは呻く。


 ラグは篝火を倒すために右足でキックをしていたが、このときにゾソルが左手側に躱すように、あえて少し右手側に薪が飛んでいくように蹴っていた。

 重ねて、ゾソルに対して蹴りの体勢で半身になりながら、悟らせないように腰背面に装備していた短剣を逆手に左手で抜いている。

 あとは刀の柄に左手を添え右腕の力で上段に構え、短剣は左腕と一体に見えるように腕の内側に隠しつつ、打ち込まれる一瞬に手首を返しゾソルの一撃を受け流していた。

 この隠す動作をラグの胴体を盾にして見られないように、ゾソルが左手側に避けるように仕向けたのだった。

 こうして、辺りの暗さも手伝い受け流すことはできたが、強力な一撃に左前腕にはひびが入り握力を奪ったため、ラグは短剣を落とした。


 というのがことの顛末であった。

 そして、それを見届けた瞳がもう一つ、魔術を使い戦っているハロマルのとなりで見惚れている赤毛の青年がいた。




「お前には色々あるらしいからな。衛兵に引き渡す」


 ラグは肩で息をしつつも、剣先をゾソルの首元に持っていき動きを牽制する。


「捨て身の賭けにでるとは、さすが『ゾンビ』様だな」


 ゾソルが上段攻撃をしなければ、ラグが詰んでいたことを馬鹿にしたように、鼻を鳴らしながら悪態をつく。


「お前は単純そうだったからな、少し弱みを見せれば上段で力任せにくると思ってたよ。だけど、次にその呼び名を口にしたら首を飛ばすぞ」


 戦闘の高揚感からゾソルの挑発に乗り怒りをあらわにしたラグは、背後に迫る人の気配に気付けなかった。


 ラグの背後ろから、すぐ横を高速で通過する物体に気付いた次の瞬間には、ゾソルの胸から槍が生えていた。


「!?」


「お……ま……ぇ……」


 ゾソルはそれだけを言い残して、血泡を吹いて動かなくなる。

 ラグが慌てて振り返ると、そこには槍から手を放す男の姿があった。


「何者だ? 何故殺した?」


 男はヒューラの中年でローブを身に纏っている。肩まである黒髪の長髪は乱れており、顔にも痣や傷がついていて暴行を受けていた様子だった。


「冒険者だ。教会のな。そいつには昨夜に捕まって、ずいぶん気に入られたようでさっきまで酒の肴に甚振られていたよ。その分を返させてもらっただけだ」


 そう言う割には、怒った様子もなく淡々とした口ぶりだった。


「悪党でもこの世界の人間だぞ。普通、丸腰のやつを腹いせで殺すか?」


「NPCだぞ? それに人攫いの主犯ならどうせ極刑だ。いま殺しても問題ないだろう」


 ラグの非難も意に介さず自分のやったことを少しも悪いとは思っていないようで、己に【ヒール】をかけ始める。

 男の物言いと行動も気に入らなかったラグが反論しようとしたとき、周りの手下がゾソルの死亡に気付き始める。

 それがパニックを引き起こし、騒然となり始めるとプレイヤーの男が叫んだ。


「ゾソルは死んだぞ! 投降しろ! 大人しくするなら命まではとらない!」


 右往左往し始める手下たちに、今度は手の平を返したように命が惜しいなら従えと大声で喧伝する。

 効果は覿面で、ほとんどの賊がローブの男に従い武装解除をして広場に集められ枷をはめられていった。逃げ出した賊もジュライやハンゾウと村人たちが追い捕まえて戻ってくる。




「何とかなったね」


「そうだな……」


 フォルがラグに話かけるが上の空で、プレイヤーの男を見ていた。


「そんなに気になる? ゾソルに止めを刺したんだって?」


「ああ、あいつはもう無抵抗だったのにだ。これで人攫いの黒幕がわからなくなったかもしれない」


 ゾソルの口ぶりから、背後に誰かがいたのは間違いなかった。


「起きてしまったことをいつまでも悔やんでても始まらないよ。まずは村の人たちの安否確認しないと」


「……そうだな」


 フォルに促され、ラグは頭を切り替える。


「そういえば、君が会って作戦決めた村の人って誰なの?」


「誰って……」


 ラグは、押し黙ってしまう。


「名前、聞いてないの?」


 呆然とフォルを見ながらラグは考えていた。

 なんで自分は名前を聞かなかったのか――

 



 賊の拘束が終わると、犠牲者が広場に並べられていく。

 今回の騒動で、村の犠牲者は四人となった。

 争いのなか、重傷を負う者も多くいたが一命さえ取り留めていれば、ヨーコや例の男の魔術によって死ぬことは無かった。

 それでも、働き手である男の三分の一がいなくなってしまったことになる。

 並べられた遺体の傍には、その家族が寄り添って失意の底に沈むようにただ泣いている。

 そのうちの一つの遺体の前でラグは立ち尽くしていた。その物言わぬ体の主は、偵察で出会ったあの男だった。

 その肩を落とし、沈み切っているラグを見かねて隣に立ったジュライが声をかける。


「その人が偵察で会った?」


「あぁ……」


 ラグの声は消え入るようだった。


「亡くなってしまったのは残念だけど、お前も精一杯やったんだろ? これ以上の結果はだせなかった。だろ?」


「そうだな……だけど、そこじゃないんだ。俺はお前に村の人たちを人間だと言って

おきながら、この人の名前も聞かなかったんだぜ……」


「それは単純に焦っていて忘れただけだろ?」


「そうだとしてもだ。NPCだから軽んじたのか人間だったとしても忘れたのか……わからなくなっちまった」


 ジュライは呆然としているラグの腕を掴み、強引に遺体の置いてある場所から離れた。

 人がいない場所まで引っ張っていき、正面からラグを見据える。


「NPCだとか人間だとかそんなことは関係ねぇ、お前と関わった人が死んだんだ。お前あの人が死んだことはどうでもいいのか?」


「そんなわけないだろ! ただ、本当にわからなくなったんだ」


「俺にはお前のその言いようが、自分のことしか考えてないナルシスト野郎にしか思えないぜ」


「なっ」


「結局、恰好つけて自分に酔っているようにしか思えないね。なにが『わからなくなっちまったぜ』だ。俺に彼らがこの世界の人間だって啖呵を切っておいて、自分もできていなかったことが恥ずかしくなったんだろ?」


 ラグが右手でジュライの胸倉を掴む。


「お? やるか? 本当のことを言われてムカついたか?」


「…………」


 ジュライを睨み一触即発な雰囲気のラグだったが、下をむき大きく息を吐いて手を離した。


「お前に諭されるなんてな……最悪な気分だ」


 実際のところ、ジュライの言ったことは半分だけ当たっていた。

 自分の中ではNPCのことも人間扱いができているのに、名前も聞かなかったということはリアルでも、人間相手に同じことをやってしまうのではないかと焦燥感に駆られていた。

 しかし、その焦燥感はジュライの指摘どおりラグの『恰好のいい正義の味方』を演じた独りよがりな考えである。

 本質は人間だとかNPCだとか云々を抜かして、他者への関心と配慮を欠いていたことを誤魔化す行為であった。


「俺は最高な気分だね。普段お前からは馬鹿にされっぱなしだからな」


 ご満悦な様子のジュライに、ラグがイラっとなる。


「別に鹿にはしていない。お前が本当に鹿なだけだ」


「そういうところだ! そういうことろ!」


 大事なことなので互いに二回言う。


「それに俺は『ぜ』は付けてない『わからなくなっちまった』と言っただけだ」


「細かっ、お前絶対モテないだろ」


 いつの間にか、いつもの調子で言い合いをしているとフォルがやってきた。


「盛り上がってるところ悪いけど、あっちでみんな待ってるから来てくれない?」


 フォルが指し示す先に、ハンゾウやヨーコに村の人々が集まっていた。

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