第6話 ジュライとラグ

 オーディナリーライフが始まって間もない頃、ラグこと遠野誠とジュライは出会っていた。

 遠野は、今までにもフルダイブゲームには触れてきていたので、かなり勝手は違ったが直ぐに順応しモンスターを狩りまくっていた。


 日本刀に魅せられて部活は剣道をやってみたものの、どうせなら抜刀術を習った方が理にかなっていたと後悔したが後の祭りで、その反動もあり好んで刀を使うようになっていた。

 結局、剣術と剣道の違いをネットで調べて、握りから構えから体捌きに至るまで違い愕然となっていたのは、ラグと似た境遇の者にとってはよくある話なのだろう。

 付け加えるならモンスター相手では、人間相手前提の剣術も基礎にはなったが自己流で考えながら戦うしかなかった。


 このオーディナリーライフには、レベルの観念がない。

 戦いや鍛錬を続けることによって、筋肉が付くのを実感でき筋肉痛も発生しなかった。

 最初苦労して倒していたモンスターも、一撃で両断することも可能になる。

 筋力に頼らなくても周辺環境や部位破壊による戦術的な撃破も可能で、その奥深さから戦闘にのめり込む者も少なくない。


 βテストが始まってそろそろ一週間になるが、ラグは一人で狩りをしている。

 いつものように、町から徒歩で数時間ほど離れた森の際で小中型のモンスターを狩っていた。

 

「結構狩ったな。一人だとこんなもんかな……別に寂しいわけじゃないし」


 テストが始まると、大人数オンラインゲームの代名詞ともいえる初期狩場の争奪戦は例に漏れず熾烈を極め、夢中になっている間にほかのプレイヤーとのファーストコンタクトを逃し今に至る。

 言い訳がましい独り言を呟いていると、少し離れた森の中から叫び声が聞こえてきた。


「しぬ――――!」


 ラグが木の間から漏れ聞こえる叫びに目をやると、一人の男がフォレストドックの群れに襲われ逃げている。

 セラナティア大陸の野犬は総じて大きく、現実世界の大型犬をさらに一回り大きくした位あった。

 この森はフォレストドックの縄張りで群れをなして行動する習性があり、二匹三匹ならソロでもなんとか対応できるが、四匹五匹ともなると話は変わってくる。

 このことからソロの場合は森に入らないというのが最近のスタンダードになってきていたのだが、この男は無知か過信か仲間とはぐれてしまったのか一人で五匹の群れを相手していた。

 見てしまった以上、放っておくのも気が引ける。あと、自分と同じ境遇かもしれない男に興味を持って、ラグは助ける事にした。

 逃げている男と距離を取りつつ並走する。


「おーい! 一緒にやるなら手伝うぞ?」


「た、たのむー!」


 助け船に、男はラグの方に近づきながら必死の形相で叫んだ。


「合図で左右に分かれて、付いてきたヤツやる感じで!」


 初対面の相手では連携もできないと考えて、分散して攻撃する事にした。

 その提案に、男は必死に何度も頷いている。


「やるぞ!」


 合図とともに、二人は左右に分かれる。野犬も増えた獲物を取り逃がすまいとラグに二匹、男に三匹が付いていく。


 少し走ったところで、ラグは右手で抜刀しつつ時計回りに後ろを振り向く瞬間、左手で鞘に納めてある小柄を早打ちのガンマンのような手捌きで投擲する。

 黒く塗られた小柄は木々の陰に溶け光を反射しない、相対するスピードも相まって先頭を走る野犬が飛来に気づくと同時に左眼を直撃する。

 眼に当たったのは偶然だが、先頭の野犬は悲鳴を上げながらバランスを崩して転倒し、二匹目の野犬がそれに気を取られている隙をラグは見逃さなかった。

 右下段構えから踏み込み、野犬が敵の接近気づいた時には首に刃が侵入し、次の瞬間には首が飛んでいた。


 ラグの攻撃は止まらない。

 右足を一歩前へ出し先頭だった野犬との距離を詰めると先の斬撃で切り上げられた刀をそのまま上段に持っていき、転倒から体勢を立て直そうとしている野犬に向かって更に左足で踏み込む。

 上段から繰り出された切っ先は半弧を描き野犬の頭に吸い込まれた。




 男は、逃げながら追いつかれる寸前、振り返りざまに右手に持つロングソードで迫ってくる先頭にいる野犬の顔を薙ぐ、刃は右頬に当たり悲鳴を上げて怯むが、二匹目の野犬が男の首を狙い飛び込んでくる。

 野犬が飛び込んでくる瞬間、スローモーションのように時間の感覚が麻痺するなか、死を運ぶ咢越しにラグの姿がジュライの瞳に映り見入る。

 その姿は瞬きの間に一匹目の首を跳ね飛ばし、二匹目の頭に刀を振り落とそうとしていた。



 野犬に飛びつかれ我に返り、必死に左手に持つ小型の盾で防ぐが、衝突の反動で野犬に押し倒され、その拍子に右手の剣を手放してしまう。

 盾で野犬の噛みつかれるのを何とか防いではいるが、三匹目の野犬が追いつき右足首に喰い付いて頭を激しく振りだす。


「うおあぁ!?」


 ゲームの仕様で痛みは無いはずだが、足を襲う激しい揺さ振りと不快な感覚に加え、目の前では大柄な野犬が荒れ狂っている現状に男はパニック状態に陥る。


「しっかりしろ!」


 パニックになる男の耳に叱咤が届くと同時に、足の揺さ振りが治まる。

 ラグが回収した小柄を投擲し、足に喰いついている野犬の右腿に突き立て、フォレストドックは、たまらず悲鳴を上げて口を足から離していた。

 ラグの声に男は正気にもどり、盾で攻撃を防ぎながら意を決したように右拳で野犬の顔を打ち据える。

 それでも野犬は怯まず右手に喰い付こうとしたところを、今度は盾の金属製の縁で殴り偶然にも鼻の横面を捉えた。

 これには野犬も怯み後退する。この隙に剣を取り、片膝を付きながら体勢を立て直す。


 ラグの方は、男に顔を切られ未だに立ち直れていない野犬よりも、小柄で動きを止めた方を相手に決めて迫る。

 負傷して動きの悪い時には、揺さ振る攻撃が効くことをここ一週間の経験で身に染みていたので、先手を取り突きのフェイントを放ち、野犬が釣られて回避動作をするが負傷により姿勢を崩したところを、突き仕留めた。


 周囲を見渡し不利を悟ったのか、男を襲っていた野犬と顔を切られた野犬は、こちらを警戒しつつそれぞれ森の影に紛れるように消えて行った。


「行ったようだな。大丈夫か?」


「あぁ、足をやられたけどポーションで大丈夫そうだ」


 男は、しりもちをついて返事をしつつ腰のポーチからポーションを出し足にかけている。


「あんた強いな。それ刀か?」


「そうだな、値は張ったけど俺には合ってるみたいだ。こっちでは発祥の地名にちなんで暁日刀ともいうらしいな」


 セラナティア大陸の東にある島国を暁日国といい、刀はそこの発祥ということになっている。

 言うまでもなく日本がモデルなのは間違いがない、βテスト段階では設定だけで暁日国は実装されていない。




 ラグは少し思案したあと、ためらいがちに切り出す。


「あー俺は、ラグっていう。テスト始まってこっち、わき目の振らずモンスター狩りまくってたら、いつの間にかソロになってたって感じだ」


「……俺は、ジュライだ。まぁ状況はあんたと大差ないな」


 ラグのいきなりの独白のような挨拶に、虚をつかれていたが自分も同じだと半笑いで答えた。


「さっきは助かった。全ロスで破産するとこだった。サ、サンキューな」


 赤髪のミディアムの前髪をイジリながら照れ気味の男を、ラグは改めてよく見る。

 ジュライと名乗ったヒューラの男は、垢抜けなさが残る顔つきなど少年と青年の間といった多感な雰囲気を醸しだしていて、革の軽装とロングソード、バックラーといったいかにも駆け出し冒険者という風体をしていた。


 ラグはジュライとパーティーを組む事を考えていた。

 これから先ソロでは厳しい面がでてくるは明らかだし、別に人嫌いという訳でもない。

 ジュライもソロのようだったし今回の件もあるので、組む話にも乗ってくるのではないか?

 礼も言えるし、ぱっと見た目悪そうな奴にも見えない。

 互いに気に入らなければソロに戻るだけだ。

 ラグはそう考えた末、ジュライに申し出ることを決めた。


「いきなりなんだが。もし良かったら、組まないか? さっきのような場面も二人いれば、うまく対応できると思うし、効率も上がると思うんだが……」


 少し遠慮がちに誘う。


「それは固定パーティーとして、これからさき一緒にやっていくって事か?」


「そうだ」


 からかっていないことを確認するかのように見つめてくるジュライに、ラグは真面目な顔で答える。


「…………いいぜ、ただし条件がある」


「条件?」


「ああ、俺に刀の扱い方を教えてくれよ。気に入った」


 予想外の条件にラグはジュライを見る。

 その顔は決して茶化しているわけではなく、真剣そうに見える。


「教えると言っても剣道を齧ったくらいだし、実戦という意味ではあまり参考にならなかった、そもそも対モンスター戦なんて想定してないからここで通じる道理もない。俺がやってるのは完全に我流で、剣術と言える代物でもないけど?」


「んなことは分かってる。基礎だけでいい、あとは自分でやる」


「そういう事なら了解だ」


「よし! で金貸してくれ!」


「はぁあ!?」


「刀買う金がない!」


 ジュライは気持ちのいい笑顔になる。


「お前……いい根性してるな……」


「だろ?」


「だろ? じゃねぇ! 褒めてねぇわ!」


 結局この後、ジュライにごねられて金を貸すラグだった。




 ラグとジュライが組んで、二週間ほどが経過した。

 あの出会いのあとすぐにジュライは刀を手に入れて、ラグの教えを受けている。

 教えと言っても、刃の抜き方、納め方、握りや振り方など基本的な事を徹底させるだけで、あとは実践あるのみで戦いまくっていた。


 今日も、森に入りジュライには因縁のあるフォレストドックと戦っている。

 ラグが一匹に対し三撃以内で仕留めるに対して、ジュライは三撃以上かかって倒していた。

 本日、最後の狩りが終わったあと、一息ついてラグが感心したようにジュライをみる。


「なかなか、刀の扱いが上手くなってきたな」


「……まだまだだろ」


 ジュライはラグの戦い方を思い出しながら呟いた。


「最初の頃は刃を上手く通せず相手を手負いの獣にして、反撃くらってたのから比べれば成長してるぞ」


「ぐっ、それを言うな」


 顔をしかめるジュライに、ラグは笑っている。


「だけど、ちゃんと毎日素振りも抜刀練習もしてるし正直関心してる」


「それはお前がやってるからだろう! 追いつくのには……」


 いかにも不服そうに言い、語尾が尻つぼみに小さくなっていく。

 少し考えていたジュライが口を開く。


「俺も人の事は言えないけど、お前って依頼系クエストとかやらずに討伐系クエストばっかりやってるのは何でなんだ?」


「あー、くだらない理由だな」


 少しバツが悪そうにしている。


「なんだよ?」


「笑うなよ? 俺はいわゆる正義の味方ってやつに憧れててさ、だけど人助けにしてもこのゲームの依頼系クエストは失敗したらやり直しがきかない。護衛の依頼の場合は最悪、人死にだってありうる。だから、クエストを受けるにしてもこの辺のモンスターだったら問題なく討伐できるくらいには、強くなっていた方がいいだろ?」


「お前……正義の味方って正気か? それにそんなこと言ってたら切りがないぞ? いつまでも依頼受けれないだろ」


「そんなことは分かってる。それに正義も人それぞれだってこともな! だから笑うなって言っただろ」


 的を得た指摘に、ラグは少し不貞腐れた顔になる。


「それに人死にって言っても、NPCだろ?」


「お前も知ってるだろ? あのAIは実際すごい、自我って言われても遜色ない出来だ。しかも、死んでしまえばプレイヤーのように生き返る事もできない。この世界に居る限り彼らが正当な人間で、俺たちが作り物だろ?」


 ラグが真剣な顔で言っていたので、ジュライも茶化すような真似をせず考え込む。


「まぁ……言いたいことはわかるけどな。しかし、正義の味方っていまどき中坊でも言わないぞ?」


 一転、ラグを見てニヤリと笑う。


「うるせー。そんな仰々しいものじゃなくて、ちょっと困ってる奴に声かけれるくらいでいいんだよ」


 ジュライが、キョトンとした顔をする。


「それなら、もうやってるだろ」


 今度はラグがキョトンとした顔になる。


「やってる?」


「俺を助けただろ?」


「…………」


 ラグは、面食らい口がポカンと開いていた。


「ぶはっはは! おもしれ―顔!!」


 ジュライに盛大に笑われて、ラグは我に返る。


「そうか……そうだったな」


「それでどうするんだ? あんたの主義は達成されていたようだけど、まだ依頼系ク

エスト受ける気にはならないのか? それともまだこの辺のモンスターを――なんて言うのか?」


 面白がって、ラグを煽るかのように笑う。


「そこまで言われたら、やるしかないな」


「しょうがないから、付き合ってやるよ」


「お前『しょうがない』ってなんだよ、それに笑い過ぎだ!」


 まだ、笑いが止まらないジュライをまるで、黒歴史を見られたような気恥ずかしさから非難するラグだった。

 ジュライがひとしきり笑ったあと、二人はフォレストドックの討伐証明である尻尾を切り落し、今日の戦果に加える。

 討伐依頼の十匹を超える十七匹の尻尾を二つに分けて、それぞれ担ぎながらラグが尋ねる。


「今日はここまでだな。明日はどうする? 一日休むか?」


「別に大して疲れてもないし、明日から依頼クエストやろうぜ」


「わかった。じゃあいつも通り七時頃ギルドだな」


「了解だ」


 日が傾きかける前に帰路につく、夜の森はモンスターの独壇場だ。

 本来、野犬も夜行性なので行動が活発になり複数の群れに発見される危険度が増し、木々の影で月明りも届かず闇夜で戦いづらい。

 二人では手に余るので、まだ明るいうちに森を出て町に帰った。




 翌朝、ラグが冒険者ギルドに行くとまだジュライは来ていないようで姿がみえない。

 依頼系クエストの確認でもするかと、依頼が張り出されている掲示板に行こうとするとカウンターで何やら揉めているハロマルの少女が目についた。

 ギルド職員に何やら訴えているようだが対応に困っているようだった。

 気になって近づいてみると少女の切迫した声が聞こえる。


「だから帰還予定の一昨日から帰っていないんです。何かあったに違いないわ!」


「そう言われましてもですね。冒険者の安否をいちいちギルドの方で確認する事はで

きかねます。そういうことでしたら、捜索依頼をクエストとして発行してほかの冒険者に見つけてもらうしかないと思われますが……」


「今から依頼だしてたら、いつ受けてくれるかも分からいじゃない……」


 少女は消え入るように呟き、途方に暮れているようだった。

 ラグは、昨日自分の言った言葉を思い出していた。



『ちょっと困ってる奴に、声かけれるくらいでいいんだよ』



「何かあったのか?」


 ラグは気づけば、口から声がでていた。

 背後から声をかけられて、ハロマルの少女は驚いて振り向いた。


「あー、何か困っているようだったから、どうしたのかと思ってな」


 自分で声をかけたことに、驚きつつそれを隠そうと平静を務める。


「あ! 彼らに依頼してみたらどうですか? フォレストドックを一日で二十匹近く狩る実力のあるパーティーですよ」


 ギルド職員は見知ったラグが声をかけてくるのをみて、ここぞとばかりに厄介事を処理しようと大袈裟な評価で依頼をねじ込もうとしてくる。

 その受け売りを聞いて少女の顔に希望がさす。


「依頼受けてくれるの?」


「それは、内容次第だろ?」


 今度はラグの背後から、最近聞きなれた声がかかる。


「ジュライ……来たか」


「さっそく首突っ込むとはな、驚きの速さだな」


「うるさいぞ」


 ジュライの冷やかしに、返しながらすまなそうにヨーコを見る。


「声をかけておいてすまないが、あいつの言うとおりまずは内容を聞かないと判断できないな。何があったんだ?」


「それはそうね。分かった話すわ」


「あっと、その前に名乗っていなかったわね。私はヨーコよ。魔具店に勤めているわ」


「俺はラグでそっちのが」


「ジュライだ」


「そう、ラグにジュライね。敬称は付けなくていいわよね?」


 一通り自己紹介が終わったあと、場所を移してギルトにある食堂のテーブルについて話を始めた。




 ヨーコの話によると、友人の里帰りに二人の冒険者を雇って送り出したが、帰還予定の一昨日なっても帰ってこないという。


「あんたってプレイヤーだろ? ほかのやつもプレイヤーなんだろ? 何かあっても死に戻るだけだし、そんなに心配することないんじゃないか?」


 いかにも心配そうなヨーコの様子をみて、ジュライが不思議がる。


「話をちゃんと聞けよ……友人で勘違いしたのか? プレイヤーが里帰りするのかよ?」


「あ」


 NPCとの関わりが薄く、友だちもいないジュライは思い込みをしていた。


「そうよ、アンナは一緒に働いている店の同僚なのよ。この世界の人間なの、今回の

里帰りも私が勧めたのに、もし彼女に何かあったらどうすれば……昨日一日待ってみたけど帰ってきてないの、もう探しにいくしかないわ」


 悲痛な表情に、ラグとジュライにも本気で心配していることが伝わった。



 基本この世界の人間所謂NPCとプレイヤーを見分けるものは無い。が、やはりプレイヤーとNPCは微妙な雰囲気の差があった。

 それはプレイヤーにはどこか垢ぬけている感じがあることから判断でき、たいがいの場合それは当たっていた。



「その里ってどこなんだ?」


「ヤウリ村よ、ここから徒歩で二日の距離ね。街道沿いじゃないから交通手段は徒歩

しかないわ。馬とか持ってるなら別だけど」


「歩きしかないな。経路に村とかあるのか?」


「いいえ、無いわ。ほかの村を経由していくと倍近くの日程になるから、休暇にも限度があるし最短で村へ直行の計画だったわ」


「ということは、野営ありか」


 ラグとヨーコのやり取りを聞いていた、ジュライがやったことの無い野営を意識する。


「冒険者の情報は何かないのか? 信用できそうな奴だったのか?」


 ラグの問いに、ヨーコは考え込む。


「私が感じた限りでは悪人とは思えなかった、私と知り合ったのもフォルという魔術師のハロマル好きが高じて声かけてきたからだし」


「ナンパじゃねぇか、それ大丈夫なのか?」


 ジュライが少し呆れた感じになる。

 ヨーコはフォルとのやり取りを思い出したのか、少しだけ笑った。


「だけど、悪い奴ではないと信じたから依頼したんだけどね、片割れのほうも豪快で信用できそうなハンゾウっていう戦士のおっさんよ。実力の方もあなた達と同じ位じゃないかしら、よくフォレストドックの話をしていたわ」


「なるほどね……その実力のパーティーが死に戻りもせずに行方不明か」


 ラグは依頼の難易度を計りかねていた。


「どう? 受けてもらえる?」


「俺はどっちでもいいぜ」


「……よし、受けよう」


 ほんの少しだけ考え、ラグは依頼を受ける。

 難易度は不透明だったが、初めて受ける依頼が掲示板でなく直接なのも何か惹かれるものがあった。


「ありがとう! じゃあ準備するわね」


「え、あんたも行く気なのか?」


 席を立とうとするヨーコの行動に、ジュライが驚きラグも慌てる。


「そうよ、もう待ってるなんて耐えられないもの。私はプレイヤーだから最悪死んでもこの町に戻るだけよ」


「戦闘経験は?」


「無いわ!」


 ラグの問いにキッパリと言い切った。

 そのある意味潔い返答に、引きつりながらジュライがラグに小声で聞いてくる。


「本当に連れて行くのか?」


 どれだけ本気なのかをはかるかのように、ラグは続けて質問する。


「分かってるのか? 野営するって事はフィールドで日をまたぐってことだ。ゲーム終了時間はいいかもしれないが、開始時間に合うのか?」



 オーディナリーライフは、そのユニークな六時間営業でも注目を集めていた。

 通常ログアウト時にはアバターもこの世界から消えるのだが、それは安全が確保されている町の宿屋やクランハウスのみである。

 そうでない町のなかや、野外のフィールドでログアウトした場合は、アバターが消えずに所持品ごとその場に無防備に残る。

 フィールドで野営する場合は、現実時間の二十四時まで起きて見張りをする必要があり、尚且つ現実時間の十八時のゲームオープン時間に入っていないと何かあった時に対応できない事になる。



「時間なら問題ないわ」


「……決意は固そうだな。なら行くか!」


「マジかよ……」


「大マジよ!」


 決断したラグにジュライが嘆き、ヨーコが胸を張った。

 急いで遠出するための準備を済まして町を出たのは、太陽が空の真上に差し掛かる頃だった。

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