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2人の鉄オタは隣の寝室に入った。この簡易宿泊所の寝室は寝台電車の583系で、3段ベッドだ。3段ベッドは窮屈だが、安い事や、夜行列車の雰囲気を楽しめるとあって、大好評だ。
「おじさん、鉄道好きなの?」
「そうだよ」
そこには達也もいる。達也はまだ寝ずにしばらくここで鉄オタの話を聞いていようと思っているようだ。
「俺、小幌駅で一夜を過ごした事があるんだよ」
小幌駅は室蘭本線にある駅で、しばしば日本一の秘境駅と言われている。トンネルに挟まれた場所にあり、徒歩ですら到達困難だ。だが、そこに降り立つ人や、あるいはそこで駅寝をする人もいるという。
「小幌駅?」
達也は小幌駅の事を全く知らなかった。達也はこれほどマニアックな鉄道の話を聞いた事がない。
「徒歩ですら到達困難な秘境駅なんだ。秘境駅のランキングがあって、小幌駅はその第1位なんだよ」
第1位? そう聞くだけでもワクワクしてくる。どんな所だろう。興味が湧いてきた。
「そうなんだ。行ってみたいな」
達也は笑みを浮かべた。僕も行ってみたいな。きっとそれはいい記念になるだろう。
「そっか。大変だぞ」
「本当に?」
達也は驚いた。どこが大変なんだろう。魅力的な駅なのに。
「だって、駅以外、何もないんだもん」
この小幌駅には周囲に何もない。ホームと待合室があるぐらいだ。それに、マムシやスズメバチ、クマも出るのでとても危ない。
「寒いの?」
「もちろんさ。それに、特急とかが高速で通過するから、危ないんだよ」
室蘭本線は特急北斗や貨物列車が高速で通過する。両端がトンネルに囲まれているので、とても危ない。
「行ってみたくなっちゃったな」
それでも達也は興味を持った。こんなにも魅力的な駅があるなんて。またいつか行ってみたいな。
翌朝、2人の鉄オタは簡易宿泊所をチェックアウトした。鉄オタはこの後、日本最北の地、稚内へ向かうらしい。
達也と瑞穂と宗也も見送っている。2人の鉄オタは笑みを浮かべている。まさか、オーナー子供や親戚に迎えてもらうとは。それに、ただ泊まるだけではなく、ここの歴史を知る事ができた。いろんな意味で大満足だ。
「昨日はありがとうね」
「またお越しくださいませ」
2人は軽自動車に乗り込んだ。軽自動車の中には、いくつかなキャリーケースが載せられている。着替えなどが入っていると思われる。
「じゃあね!」
「お気を付けて!」
2人は簡易宿泊所を後にした。5人はそれを見送っている。これからの道中の安全を祈りながら。
2月になり、徐々に春の足音が近づいてきた。だが、幌鞠の春はまだまだ遠い。深い雪に閉ざされ、まだまだ寒い日々が続いている。
転校して1ヶ月ぐらいが経ち、徐々に新しい学校にも慣れてきた。そして、すっかり多くの友達ができた。徐々に達也は、ここでの生活もいいなと思い始めてきた。
休み時間、生徒たちは教室に集まっていた。ここの生徒たちはまるで1つの大家族のように仲良しで、笑い声が絶えない。
「ねーねー、明日は雪まつりに行こっか」
突然、4年生の池田北斗(いけだほくと)は提案した。北海道の札幌では雪まつりが開催されている。道内はもちろん、道外からも多くの観光客がやって来るという。
「うん。いいけど」
宗也は乗り気だ。去年も行った。雪像が毎年異なっているので、毎年行っても飽きがこない。今年も行きたいな。
「雪まつりってあの? テレビで見た事ある! まさか生で見られるなんて!」
達也はその祭りの事をよく知っている。まさか、生で見るとは。雪まつりはニュースでしか見た事がない。いつか北海道旅行で雪まつりを見たいなと思っていた。
「いいでしょ?」
「うん」
達也も乗り気だ。ぜひ、テレビではなく、生で雪まつりを見たいな。
「なになに? どうしたの?」
達也は振り向いた。そこには瑞穂がいる。瑞穂もその話に乗り気だ。
「明日は雪まつり行こうかなと思って」
瑞穂はよく宗也と雪まつりに行っている。今年も行こうと思っていたようだ。
「本当? じゃあ、私も一緒に行く!」
まさか、生徒みんなで行くとは。今年の雪まつりは例年より楽しくなりそうだ。
「いいよ。あっ、じゃあ、みんなで行こうよ!」
「それいいねー!」
北斗は笑みを浮かべた。みんなで行けば、もっと楽しいだろうな。
「よし、じゃあ、明日はみんなで雪まつりに行くぞ!」
「やったー!」
達也は、生徒みんなで札幌の雪まつりに行く事にした。生で見られるうえに、こんなにたくさんの人と見に行くなんて。きっと忘れられない雪まつりになるだろうな。
週末、生徒たちは札幌にやって来た。札幌は北海道の県庁所在地で、政令指定都市だ。地下鉄も路面電車もあり、東京ほどではないが都会といった感じだ。
その中心部には大通があり、そこで雪まつりが行われている。その中心駅である札幌駅は北海道を代表する駅で、小樽や北海道医療大学、千歳空港や旭川を結ぶ電車が発着している。また、函館や旭川、網走、釧路、稚内へ向かう特急も発着し、とても賑やかな駅だ。
「ここが札幌?」
「うん」
札幌に降り立ち、達也は生まれ育った東京を思い出した。東京もこんなに賑やかな所だった。あの頃が懐かしいな。大きくなったらまた東京に行きたいな。
「とても賑やかだね」
「だろう」
彼らは歩いて大通に向かった。地下鉄が走っているが、隣の駅だ。1駅だけのために地下鉄を使うのはもったいない。
札幌駅の近くには高いビルが並んでいる。ここも東京のようだ。達也は東京にいた頃を思い出しながら歩いた。だが、東京とは違い、雪がよく積もっていて、とても寒い。
歩いて十数分、彼らは大通にやって来た。大通には多くの人が行き交っている。いつもそうだが、雪まつりの行われているこの時期はより多くの人が訪れている。
達也は感動した。テレビでしか見た事のない雪の芸術が目の前にある。これが雪まつりなんだ。目の前で見ると圧巻で、感動が違う。
「これが雪まつり?」
「うん」
雪まつりには多くの人が来ている。中には東京から来た人もいる。彼らは飛行機で来たんだろうか? それとも電車で来たんだろうか?
「たくさんの人がいるね」
と、北斗は雪のオブジェに目をやった。そこには雪でできたキツネのオブジェがある。
「見て! すごーい」
それを見て、他の生徒もやって来た。彼らもそれに感動しているようだ。
「本当だ!」
達也は驚いた。これが本者なんだ。テレビで見るよりもずっと大きくて、迫力がある。やっぱり、物は間近で見るのが一番だな。
「きれいだね」
と、宗也はその隣にある雪のオブジェに目をやった。それはヒグマの親子のオブジェだ。母の後をついて行く様子はとてもかわいい。
「こっちもきれいだよ!」
宗也の声につられて、達也もそこにやって来た。この芸術もいいな。でも、ここにあるのの多くは今年の世相を表したものも多い。どれを見ても素晴らしいな。
「本当だ! 何日かけてこんなの作ったんだろう」
「そうだね」
と、達也は後ろに目をやった。そこにはテレビ塔がある。テレビ塔は大通の中央に堂々と立っている。
「これがテレビ塔?」
「うん」
達也はテレビ塔にしばらく見とれた。これがテレビ塔なんだ。東京タワーほどじゃないけど、このタワーも素晴らしいな。
「すごいなー」
「東京を思わせる?」
と、横にいた瑞穂は聞いた。東京と幌鞠、どっちが好きなんだろう。幌鞠と言ってくれたら嬉しいな。
「うん。だけど幌鞠が好きだね」
「そっか」
瑞穂は笑みを浮かべた。ここにいるのが好きと言ってくれた。東京ほど豊かじゃないけど、幌鞠の魅力を知ってくれた。
「どうしたの?」
「何でもないよ」
宗也も笑みを浮かべている。宗也も幌鞠が好きと言ってくれて嬉しいようだ。
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