島からの眺め

孤島の崖の上で、男は一人で住んでいる。

海に出る人を沢山見た事あるが、一度たりとも海から戻る人を見ていない。

だからか、周りの皆は海の事をあまり意識したくない。自分の居る場所がただの小さな島である事を思い出させる潮風も嫌い。しかしいくら拒否しようとしても、実際水に囲まれている。いくら忘れようとしても、いずれ海が全てを飲み込むだろう。その事実だけは変わらない。


一人、また一人と海へ向かう。島の人間は大抵、泣き叫んで引き留めようとする。

崖の上の男は違う。磯の匂いや波の音を感じる度に向こうを覗いてみる。海がある。その存在は圧倒的にして絶対的。その広さも深さも測りきれず、もはや人間には正しく認識出来る事すら不可能。得体を決して知らせない性質こそが海の優しさだと男は思っている。無限の青いキャンバスを前に、大抵の人は「恐怖」を描く。しかしそれは勿体無い。浸食の運命にある陸より、過去も未来も姿を持たない海には「自由」を描ければいいのにと、男は思う。島が嫌いだからではない。侵食される定めにあるその儚さを理解してなおそれに縋るのが馬鹿馬鹿しいと思っているだけ。


海に入ってしまった人は、必ず泣き止む。必ず静かになる。周りの涙を男が理解出来ないのと同じように、男の海への憧れも周りに理解されない。だがそれでも男は孤独を感じない。

彼の断末魔は波が拾ってくれると知っているから。

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