第54話 新たな場所へ
「オルカンティノ山脈はこの大陸の中央に位置し、南北に連なっている。山脈から水とともに流れてくる養分で、麓では生態系が発達し作物もよく取れる。海に流れることで海の幸も豊富だ。だから、麓の地域は多くの種族によって魅力的なんだ」
「そしてその一つの地域で争いが起こっているわけだ」
「そうゆうわけだ」
ガリちゃんはヒロが理解したのを確認すると、話を進めた。
「行き方は簡単だ。森を抜けたら東へ行くだけだ。ただ遠い。ここからだと歩いて一日はかかる」
「じゃあすぐに出ないと」
「ちょっと待て。お前、あのガキに会わなくていいのか?」
ヒロは表情を明らかに曇らせた。
街を出た時はもちろんそのつもりだった。
会いたいなあ。
しかしヒロは、急を要する現状を知ってしまった。
「うん、ヨウちゃんとはまたすぐに会える。だけど、今行かないとイライザたちとはもしかしたら会えなくなっちゃうかもしれないから」
「・・÷そうか。わかった。そしたら準備をしよう。そういえはお前荷物どうした?」
「・・・無くしちゃった」
「はぁ?!まったく世話が焼けるなぁ。じゃあリカからまたもらっとけ。俺が話すから」
「ありがとうガリちゃん」
「おう」
テントの外で話していたリカは、ガリちゃんから事情を知ると心優しくヒロの準備を手伝った。
村の出口では、サリが待っていた。
「もう行くの?身体休まった?」
ヒロの村での滞在時間は1時間ほどだけだ。
しかし、ヒロは自身の身体はとても軽くなったのを感じた。
「うん大丈夫。充分なくらい」
「それならよかった。じゃあ行ってらっしゃい。またすぐにね」
「行ってきます。またすぐに」
2人は親指を突き合わせ、ヒロのよい旅路を願った。
村から1分ほど歩いた時、後ろからガリちゃんが追いかけてきた。
「必要ないと思ったが、一応念のためだ。ヒロ手を出してくれ」
ヒロは言われるがまま、右手を出した。
すると、ガリちゃんが指をぺろっと舐めた。
その瞬間、ヒロの身体から黄色の"煙"が溢れてきた。
「俺の恩恵の力を強めた。今のヒロだったら使いこなせるはずだ」
「ありがとうガリちゃん」
「おう。終わったら返せよ」
そういうと、ガリちゃんはタタタッと走っていった。
ヒロも背を向け、山脈へと歩き出した。
森を抜けると、ヒロはひたすら草原の一本道を走っていた。
なるべく早く着きたい、というのはもちろんだが、同時にガリちゃんの"恩恵"を試したかった。
明らかに力が強くなっている。
身体の軽さ、脚の回転、体力、全てが以前より一回り以上上のレベルにいる感覚だ。
風を切る気持ちよさに思わず頬が綻びそうになっているとき、道の脇の原っぱに人影があるのに気がついた。
向こうは気がついていないようだが、ヒロが近づくと、突然寝そべっていた身体を起こし、ヒロの方を見た。
その男は、身長が高く顔立ちが整っているなかなかのイケメンだ。ただ、ボサボサになった金髪が全て台無しにしている。
男はヒロから目線を逸らさないまま立ち上がった。
「なっ、なんだお前!やんのか!」
そう言った男の顔は、言葉に反しえらく緊張していた。
あ、やばい奴だ。
ヒロはそう察し、さっさと行こうとした。
しかしそれを良しとしたのか、男はこう続けた。
「へっ、ガッ、ガキが!逃げやがったぜ」
ヒロは立ち止まった。
別に怒ってない、ただちょっと、ちょっとだけ気になっただけ。
そう自分に言い聞かせながら、ヒロは全力で言い返した。
「お前みたいな寝癖つけたヒョロヒョロに構ってられねえんだよっ!」
「ギャアアッ!」
その男は絶叫しながら、頭を地面に伏せた。
そしてそのまま動かなくなった。
少し不安になりヒロが近づくと、男はぶつぶつ何かを言っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
その男はずっと謝っていた。
流石に不憫に思い、ヒロは男に声をかけた。
「こちらこそすみません大声あげて。頭あげてください」
男はようやく顔を上げたが、ヒロを見て再び顔を落とした。
「あ、悪魔っ・・・」
この世界にも、悪魔っていう概念はあるのか。
そんな気づきを得ながらも、ヒロはなんとか男を立たせようと肩に触れようとした。
しかし、その手は男の肩に触れず空を切った。
「えっ?まさか・・・」
その臆病な神様はしまいには泣き始めた。
ヒロはどうすることもできず、休憩がてら彼の横に座った。
しばらくして、神様は泣き止んだ。
「ふう、いったい君はなんなんだ?」
神様は深呼吸するとヒロの方を見た。
「ただの冒険者です」
「いや、そんなわけないだろ」
「・・・あなたは誰なんですか?」
「ただのどうしようもない神だ」
男はそういうと、また俯き始めた。
「じゃあそろそろ・・」
そういうと、ヒロは腰を上げた。
「ちょっと待ってくれ。もうちょっと話をしよう。久しぶりに誰かと話すんだ」
そういうと、その神様はひたすらに愚痴をこぼした。
他の神様に嫌われている、とか、
どこかの国の王家に"恩恵"を与えているが、彼らの権力争いに嫌気がさして逃げてきた、とか。
饒舌なその神様の話を、ヒロは機械的に頷きながら聞いていた。
そして一通り話し終わると、その神様はふう、と呼吸を整えると勝手に心穏やかな表情になった。
「・・・満足した?」
「ああ、満足だ」
なんなんだ全く。
小さくため息をつくと、ヒロは改めて腰を上げた。
「じゃあな、少年。また遊びに来いよー」
その満足そうな笑顔のために一方的に精力を吸い取られたヒロは、異様な疲れを感じながらその場を後にした。
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