第49話 因縁

「おい、お前!」

突然後ろから大きな声が聞こえてきた。

ヒロは構わず歩き続けようとしたが、声の持ち主が自分の方に近づいてくるのを感じた。


ヒロは立ち止まり、後ろを振り返った。

そこには会いたくなかった人がいた。

顔は引き攣っていく。


「やっぱりか」

熊人の冒険者ブルも、一瞬驚いたような顔をした。

しかし、すぐにヒロを睨み始めた。

そこからいくつも質問をしてきた。


「どうやって帰ってきた?」

「何を見てきた?」

「何か話したか?」


しかし、ヒロは答えなかった。

話したくもなかったし、何より心のざわめきを抑えるためだ。

黙って目も合わせようとしないヒロの様子に、ブルはだんだんとイライラを募らせた。


「聞いてんのか、てめえ!」

怒りに任せ振るわれたブルの拳が、ヒロの腹に命中した。

身体は吹っ飛ばされ地面に仰向けになった。


ブルが近づくと、ヒロの髪をつかみ無理やり身体を起こした。


「てめえ、何も言うんじゃねえぞ。俺のことも、お前自身のことも全てだ。何か言ったら、殺す」

そう言い残すと、ブルは歩き去っていく。


ヒロは、なぜかすでに痛みを感じない身体を起こすと、ブルに問いかけた。


「1ついいか」

ブルが立ち止まり、こちらを振り返る。

周りには人だかりができていた。


「イライザのこと、何か知ってるか?」

ブルは何も言わず、渋い顔をした。

しかし数秒後、突然ゲラゲラと笑い出した。


「ああ、あいつか!お前一緒じゃねえのか。そうか、一度に一人しか帰れねえもんな」

ニヤニヤしながら近づいてくる。


「もしかして、お前も見捨てたんじゃねえのか?だったらよ、俺と一緒じゃねえか」

愉快そうに歪めている獣臭い顔をヒロに近づけてきた。


「俺が知るかよ。この街には帰ってきてない。お前のせいでな」


バンッ

突然ブルの顔がめり込み、その衝撃で頭に引っ張られるようにして身体が倒れた。


「っったああああ!!」

顔をさすっている手の隙間からのぞかせるその瞳には、少しの驚きと漏れ出そうなほどの怒りが宿っている。


「お前と一緒にするな」

ヒロは拳を解き、ブルの方へ歩き始めた。


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何やら外が騒がしい。

書類の整理をしていたリーシャは、異変に気がついた。

冒険者たちがどんどんと、ギルドの外に出ていく。

リーシャは同僚に話しかけた。


「ねえ何事?」

「なんかね、ブルが暴れてるらしいよ」

ブルはこの街では有名な冒険者だ。

その恵まれた体格を武器に、カーストを登ってきた。

さらにアルティア古代遺跡の一件で、彼の名前はさらに広まった。

ただそのせいで、元々身勝手だった性格にさらに拍車がかかった。


「だけど、それはいつも通りでしょ」

リーシャはすでに興味が薄れかけていた。

返答を聞くまでは。


「いや、それが相手がヒョロヒョロの猿人の男の子なんだって」

「えっ」

書類に戻しかけた顔を上げ同僚をみた。


「だけどその男の子が、っておーい」

リーシャはすでにギルドの入り口へと向かっていた。


よりによってなんでブルと。

助けないと。

ヒロっ!


「通してっ!」

冒険者たちの間を縫って、道の真ん中へと向かう。

進む間にも、少年が屈強な冒険者に蹂躙されている様を想像してしまう。

ようやく野次馬の壁を抜けると同時に、リーシャは叫んだ。


「ヒロっ!・・えっ」

彼女は何が起こっているのか一瞬では理解できなかった。

それはあまりに想像とかけ離れていた。


「グハッっ!」

その瞬間、白い羽を持つ少年が、ブルの腹に強烈な一撃をお見舞いしていた。


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