第47話 リーシャ
「本当にいいんですか?」
「だからいいんだって。ほら入って」
ヒロは今、リーシャの部屋の前にいる。
一人歩くヒロをリーシャは見つけに戻った。
そして、半ば強引にヒロをここまで連れてきた。
「何してんの?入らないの?!」
ヒロが戸惑っていると、リーシャはを睨みながら声をかけてきた。
「は、入りますっ!」
ヒロは中に入るとゆっくりと扉を閉めた。
そして身体の向きを変えると、中の様子が視界に入った。
部屋には必要最低限の家具は備わっていた。
しかし、内装や小物からは女性っぽさは感じられない。
「ここで待ってて。ご飯作るから」
そういうとリーシャは部屋の一角に向かった。
そこには大きめの机と大きめのカゴがあった。
彼女はまずはじめに、その大きなカゴを開けた。
すると、中から肉らしき食材と野菜をいくつか取り出した。
その時、ヒロは気がついた。
これは冷蔵庫だ。
そのカゴがわずかに薄い青色の煙をまとっているのが見えた。
改めて部屋の中を見渡した。
すると、いくつかの家具が”煙”をまとっているのに気がついた。
すごい
神たちの”恩恵”がこうも身近にあるなんて。
「君、名前は?」
リーシャは食材を切りながら、ヒロに尋ねた。
「あ、ヒロって言います」
「そうだ、思い出した!冒険者カードに書いてあったわ」
彼女が少し笑っているのが見えた。
「あの、お名前は?」
「リーシャよ。よろしく」
「あ、お願いします。リーシャさん」
会話が途切れてしまった。
気まずい。
そうヒロが新しい話題はないか考えていると、リーシャが再び質問してきた。
「いくつ?」
「えっ?」
「年よ年。年齢」
「ああ、16です」
「16?!やっぱりそんくらいだと思った」
そういうとリーシャは手を止め、ヒロの方を向いてきた。
「その年で、なんで冒険者やってるの?」
リーシャの真剣な顔つきから、ヒロを心配してくれているのがわかった。
嘘をつくことに申し訳なさを感じながら、彼は記憶喪失の作り話を語った。
擦っている話だけあってどんどん話すのが上手くなっていく。
リーシャはヒロの話を聞き終えると、ただ一言「そう」とつぶやいた。
数秒間何も話さないリーシャは、慎重に言葉を選んでいるように見えた。
ヒロの中で、リーシャの印象がだんだんと変わっていく。
初めは少し怖い印象を持っていたが、姉御気質の優しい人だと気づき始めた。
「冒険者は楽しい?」
リーシャはようやく尋ねてきた。
「生きていることを実感します」
「ふふっ、何それ」
彼女は少し笑うと、食材の方へ身体を戻した。
ヒロは、その質問に彼女なりの気遣いがあるように思えた。
その後しばらくは、包丁の切る音と、食材が煮込まれる音だけが響いた。
ただ、それが心地よかった。
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