第46話 硬貨

ヨウちゃんとおじいさんが隣にいる。

三人で森の中を歩いている。


「ちょっときのみとってくる!」

そう言ってヨウちゃんが森の奥へ走って行った。


「私も行ってくる。ヒロはここで待っててくれ」

おじいさんも森の奥へ入っていく。


僕もついて行きたいのに、どうしてか身体が動かない。


「待って」

か細い声が耳に入ってくる。


ザザザザ

二人が走って行った方向の茂みが揺れている。


帰ってきたんだ

僕はほっと胸を撫で下ろした。


しかし、出てきたのは植物の太いツタだった。


驚きで身体のバランスが崩れそうになったが、身体はやはりびくともしなかった。

その時自分の身体がツタに巻かれていることに気がついた。


茂みから伸びてきたツタは、すでに顔の前まで来ていた。

ツタの持ち主も茂みからその巨体を出していた。


2枚の葉がまるでからかうように笑う口のような形になっている。

そしてツタが、僕の頬を叩き出した。


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「いたぃ、痛いっ!」

「おおっ!」


ヒロは飛び起きた。

そして周りの様子を見て、あの肉食植物がいないことを確認すると、自分が寝ていたことを悟った。


しかし頬を触ってみると、なぜか少しヒリヒリする。

そして次に、起きた直後自分以外の誰かの声がしたことに気がついた。


疲れ切った身体をなんとか立ち上がらせ、周りを見渡す。

いない


気のせいかと思いながら、ふと自分の後ろをみた。


「うわあっ?!」

今度は確かに身体のバランスを崩し、後ろへと下がった。

そこには一人の女性がいた。


「何よ、そんなに怖がって」

ヒロが後ろに逃げたことが不満だったらしく、むすっとした顔をしている。


「すみません。。あっ!」

ヒロは彼女の顔に見覚えがあった。


「受付の。。」

「覚えてたのね」

彼女は気まずそうに視線を逸らした。


「で、何してるの君」

再び目線を合わせると、彼女は尋ねた。

ヒロは寝起きで頭が回っていなかった。


「えっと、寝てました」

「見れば分かるって!なんでこんなところで寝てるのよ」

そう言われ、手に持った薬草を見ながらヒロは理由を説明し始めた。


「ああ、宿代を稼ぐため、です。夕方換金した分では少し足りなくて。。」

そして帰り道で疲れ切って寝てしまったのだ。


「君そんなお金ないの?」

彼女の驚いたような呆れ果てたような声が、ヒロをさらに虚しくさせた。


「はい、持ち物全部無くしちゃいました」

全て、遺跡の中に置いてきてしまった。

彼女はその場で足踏みを数回すると、フッと頭を下ろした。

そして、自分のバックから何かを取り出し、ヒロに渡してきた。


「はい、これ」

それは硬貨だった。

それも宿代を払ってもお釣りが来るほど、しっかりとした金額だ。


「え、どうして・・?」

いきなり手渡しされた硬貨に、ヒロはただただ困惑した。


「まあ、夕方のお詫びよ。嫌な態度取っちゃった」

彼女は、少し言いづらそうにしながらも話した。


「今日は慣れない仕事が多くて、ちょっとイライラしてたのよ。だから、悪かったわ。それで宿を取って」

そう言って彼女は、去っていった。


「あ、ありがとうございます!」

ヒロは彼女の後ろ姿を眺めていた。

そして彼女が離れると、改めて手のひらにあるお金を見た。

その重みを感じながら、強く握りしめた。


よし、早く宿に行って寝よう。



「全て埋まっております」

「空いてないよ」

「申し訳ありません」

「そんなぁ」

遺跡に関心を持った冒険者が全国から集まっていたらしい。

そのせいで、この街にある3つの宿が全て満員だった。


夜道をトボトボ一人で歩く。

もう、ガリアの村かセレシドに頼らざるを得ない。


いやだな。

一人で、整理したかった。

この数日で起こったことを。

そしてこの気持ちを。

今、彼らに会ってしまったら何かが崩れてしまう気がする。


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リーシャは自身の中にあった罪悪感がなくなったことが嬉しかった。

自然と足取りが軽くなる。

しかし、自分の宿舎が見えた時、気がついてしまった。


「今日、宿埋まっちゃってるじゃん」

ギルドで受付をしている時に数人の冒険者がぐちをこぼしているのを聞いていた。


そして、その気づきは否応にもあの少年のことを思い出させた。

一気に足取りが重くなった。


気づかないふりはできる。

しかし、彼女の中に広がる罪悪感は取り除けなかった。


「ああっ、もう!」

リーシャは踵を返した。

その時、彼女はあの少年に関わらないことを諦めた。


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「ここにいたっ!」

「うわっ!」

突然ヒロの肩を誰かが掴んできた。

反射的に身体が再びのけぞった。


「だから、なんでそんなに驚くのよ・・」

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