第40話 ドーム
その街は、中央に行くほど標高が低くなっていく構造だった。
そのためヒロたちがいる壁の部分がもっとも高く、街を見下ろす事ができた。
十何個かの段差で構成されており、1つ1つに多くの家が建てられている。
そしてそれぞれをつなぐ階段が随所に作られている。
大きな街で、反対側へ行くとするとかなりの時間を要するだろう。
ヒロはさらに街をじっくりと見てみる。
上層と比べ、壊れていない建物が多く見受けられた。
それでも、倒壊した建物たちが昔起こった何らかの災いを物語っている。
そして破壊された建物たちの多くは、一本の線上にあった。
1つの強大な力によって刻まれた跡に違いなかった。
ヒロはここで昔、争いが起こったことを確信した。
「これからどうします?」
震えた声でイライザが話しかけてきた。
彼女も昔何が起こったのかを想像したのだろう。
「僕は、あそこ行くべきだと思う」
そう言って指をさしたのは、中央の広場だ。
きっと、住民にとっての交流の場であったに違いない。
その広場には、巨大な建物があった。
天井部分が壊れてしまっているが、残った丸みを帯びている側面部分からドームのような形だったことがわかる。
そしてこれまでの経験上、ドーム状の建物の重要性ははっきりしていた。
転移陣があるとすれば、あそこだ。
「私もあそこに行くべきだと思うわ」
リリーも同意したことで、僕たちは中心部を目指し、ゆっくりと街の中へと入った。
進んでいく中で、この街がかなり発展していた事がわかった。
居住地やお店らしきものがそれぞれ1つの場所に集約されており、また広場のようなものもいくつかあった。
通路も綺麗に整備されており、階段の横には水路らしきものもあった。
建物の中を覗いてみると、見覚えのあるようなものから使い方のわからないものまで、様々な家具が置かれていた。
食器らしきものが卓上に置かれている家もあった。
「ここに住んでいた人たちは、大丈夫だったのでしょうか?」
イライザがポツリとつぶやいた。
ヒロも同じことを考えていた。
街の上から見た惨状は、ここに住む人にとって恐怖の何ものでもなかったに違いない。
しかし見た感じでは、ここで多くの人が亡くなったとは考えづらかった。
なぜなら、ここまで来る中で、人の遺体や骨らしきものは一切なかったからだ。
「うまく逃げたのかもしれないね」
そういうと、イライザは心なしか表情が和らいだように見えた。
一段一段と下っていき、ようやく中央の広場へとたどり着いた。
そこはエレーネの街の市場を彷彿とさせるような場所だった。
かつては屋台だったであろう瓦礫の山が並んでいた。
広場を通り抜けると、いよいよ目的の場所へとたどり着いた。
頂点部分が破壊されているが、その圧倒的な大きさに思わず言葉を飲み込んだ。
ドームの表面は特別な加工がされているらしく、天井から降り注ぐ花の輝きを反射して青く光っている。
ゆっくりと近づくと、ドームの扉が開かれているのに気がついた。
ヒロとイライザは扉の前に来ると、立ち止まり一呼吸おいた。
どんな現実が待っているか不安と期待でいっぱいだった。
「準備はいい?」
ヒロはイライザの方を見て問いかけた。
彼女の手は少し震えていたが、覚悟を決めた目でヒロを見返した。
「はい!」
ヒロも頷いて答えると、二人は扉の中へ入っていった。
ドームの中には、予想通りのものと予想外のものがあった。
予想通りなのは、転移陣だ。
予想外だったのは、まず階段だ。
下へと続く階段が中央にあった。
転移陣は階段の奥にあった。
さらに下があるのか。
そして予想外だったものは他にもあった。
それは階段の両側に置かれた巨像だ。
どちらも肩を組みながら、あぐらをかいて座っている。
まるで入ってきた者を認識するように、顔は正面を向いていた。
ヒロはその2つの巨像を見た瞬間、身体の血の気が引き、鼓動が耳の奥でどんどんと鳴り始めた。
それは野生的な直感だったのかもしれない。
突然、地面から銀色の”煙”が出てきた。
それらはどんどんと地面から噴き出し、そして巨像の中へと入っていく。
「ここから出てっ!」
いち早く危険を察知したリリーが叫んだ。
しかし、遅かった。
ヒロたちが入り口へと身体を向けた時には、地面が盛り上がり入り口を完全に塞ぐ直前だった。
バキッ
背後から何かの音が聞こえた。
恐る恐る後ろを振り返った。
見たのは、先ほどまで組まれていた巨像の腕がゆっくりと解けていく瞬間だった。
そして腕が地面におりると、その巨像はまるで人のように腕で支えながらゆっくりと立ち上がっていく。
青い花の輝きによって照らされていたドームの中は、2つの巨像の影によって薄暗くなっていった。
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