第39話 3つの壁

話しながらしばらく歩いていると、ようやく建造物の元へたどり着いた。


「でかいなあ」

それは大きな岩の壁だった。

天井まで届きそうなほど高い壁が目の前に立ちはだかっていた。


ヒロたちは周りを歩いて入口を探した。


「何かあったわ」

一足早く先に行っていたリリーが、何かを見つけたようで帰ってきた。


「私についてきて」

リリーが進む方へヒロも向かうと、壁の一箇所から銀色の”煙”が出ているのが見えた。

近づくと、壁の中にある1つの岩から”煙”が出ているのがわかった。

触ってみると、わずかにグラグラと動いた。


「ヒロ、これ押してみて。私じゃびくともしなかった」

ヒロは試しに、両手でその岩を押してみた。

確かに、びくともしない。


「よし」

ひと呼吸おくと、ヒロはガリちゃんの”恩恵”を使う準備をした。

”煙”に意識を集中させ、濃くなった”煙”を両手に移動させる。

そして全力で、岩を押した。


「おおっ!」

イライザが喜びの声をあげた。

ゆっくりとだが、岩が壁の中に動いていく。

岩は順調に奥へと入っていき、手首が壁の中に入りそうなところまで進んだ


すると突然、岩が軽くなり壁の中へとスッと入って行った。

軽くなった、というよりは、むしろ岩が自ら奥へと進んでいったような感覚だった。


腕の疲れを感じながら壁をみていると、上の方からパキッという音がした。

ふと見上げると、壁に亀裂が入っているのが見えた。

いくつもの岩が崩れ始め、そしてそのうちの1つは、イライザめがけて落ちていた。


「危ない!」

ヒロはイライザの身体を抱きかかえると、倒れ込みながらその場から離れた。

その直後、彼女がいた場所へ岩が落ちてきた。

落ちてきた衝撃が地面を伝って僕の方まで届いた。


無事を確認しほっと一息つくと、イライザの方を見た。

「大丈夫、イライザ?」


彼女は突然のことに驚きながらも、ヒロの方を見た。

「はい、ありがとうございます。ヒロさん、その・・」

ヒロは、歯切れの悪さから彼女がどこか痛めたのでは、と心配をした。

しかし、頬がみるみる赤くなっていくイライザの様子に、自分が今彼女に何をしているかに気がついた。


「あ、ごめんっ!」

力を入れていた腕を解いて、急いで彼女の身体から離れる。

イライザはゆっくりと身体を起こして、髪を触りながら彼に背を向けた。


やってしまった、と反省していると、ヒロの元へリリーが飛んできた。


「何やってんのよ。それより壁を見てみなさいよ」

その言葉にハッとして、ヒロは壁の方を見た。

すると、壁に先へと進む隙間ができていた。


どうやら亀裂ではなく、単にこの壁が開いただけのようだ。

リリーはすでに隙間の方へと飛んでいっており、二人も急いで向かった。


隙間を通る時、壁の分厚さに驚いた。

10歩ほど歩いて壁をようやく通過する事ができた。


壁をすぎると、目の前にもう1つの壁が立ちはだかっていた。

ただ、その壁にも同様の隙間ができており、通り抜けることは容易だった。


それよりも気になったのは、2つ目の壁の状態だ。

1つ目より明らかに破損している。

壁の至る所に亀裂ができており、落ちてきたであろう岩が大量に地面に落ちている。


さらに、壁に大きな穴が開いていた。

どういう経緯で作られたかはわからないが、その威力は凄まじいものだったらしく、1つ目の壁にも何かが当たってクレーターのようなものができていた。


二人は2つ目の壁を通って先へと進んでいく。

そして、進んだ先には3つ目の壁があった。


ただ、それはもう壁とは言えないほど、原型を止めていなかった。

ほとんどの場所が崩れており、瓦礫の山と化していた。


「何があったんだろう」

イライザが静かにつぶやいた。

誰かに尋ねるわけではなく、ただただ漏れ出た言葉だった。


そして彼らは、その崩れた壁の先に広がる廃れた街を見渡した。

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