第38話 神々の性格

イライザの背中から広がるその白い翼は、ゆっくりと大きく動き始めた。


「おおっ!」

ヒロの足が地面から離れ、どんどんと上昇している。

そして砂の山は二人の下を通り過ぎた。


ふう

本当に危ないところだった。

それにしても、この羽は・・


「イライザ、もしかしてそれが君の”恩恵”?」

「はい、、そうです・・」

そう答えた彼女の声は震えていて、どこか苦しそうだった。

顔を見ると、渋い顔になっていた。

ヒロは自分のせいで負荷をかけていることに気がついた。


「ごめん!もう降ろして大丈夫!」

「あ、ありがとうございます」

イライザはゆっくりとヒロを地面に降ろした。


「すみません、これまで誰かを運んだ事がなくて」

イライザの呼吸は少し荒くなっていた。


「そんな事ないよ、ありがとう助けてくれて。そういえば、あの砂の山なんだったんだろう」

ヒロたちは向こうへと進んでいく砂の山の方を見ていた。


すると突然、砂の山が一気に盛り上がった。

次の瞬間、巨大な何かが砂の中から現れた。


それはミミズのような見た目をしていた。

その生物は、前を逃げていた小さい動物めがけて、身体の先端部分を倒していき、そして獲物とともに砂の中へと消えていった。


自分たち追っていたものの正体が分かり、思わず身の毛がよだった。

横を見るとイライザも驚いているようで、口を開けたままその巨大生物の方をじっと見ていた。


「ちょっと、何してんの。早く急ぎましょ」

リリーの声で現実に引き戻されると、二人は向こうに見える建造物の方へと歩いていった。


道中では、イライザの”恩恵”についての話になった。

「私、あまり体力がないので、ちょっとしか”恩恵”を使えないんです。こんな事ならもっと練習すればよかった」

落ち込みながら、イライザはそうつぶやいた。


「僕も最初はそうだったよ。体力がなくてほとんど何もできなかった」

意外だったようで、イライザがこっちをみた。


「そうだったんですか。そしたらこれまですごく練習されたんですね。私もあの草の器、見てましたよ」

イライザの尊敬の眼差しに申し訳なさを感じ、ヒロは種明かしをした。


「いや、僕も体力はあまりないんだよ。実はね、もう1つ恩恵をもらってるんだ」

予想外の言葉に、彼女は言葉を失った。


「僕がもらったのは、身体能力を上げる”恩恵”なんだ。ちょっと見てて」

ヒロは少し離れると、まず普通にジャンプした。

体力がついてきたとはいえ、平均的な垂直跳びの記録よりは低いだろう。


「次は”恩恵”を使った時」

”煙”を纏うことを意識して、全力でジャンプした。

すると、自分でも驚くほど高く飛ぶ事ができた。

決して低くはないイライザの身長より、高く飛んでいた。


「この”恩恵”を使って自分の体力を無理やりあげながら、草の器を作ってたんだ。って、聞いてる?」

イライザは、ただただ目を見開きながら静かに僕の方をみていた。

しばらくして、彼女はゆっくりと口を開いた。


「信じられません、本当に2つの”恩恵”を持っている人がいるなんて」

彼女の反応をみて、ヒロは常々疑問に思っていたことを思い出した。


「なんで、2つ以上の”恩恵”を持っている人がそんなに貴重なの?」

「それはね」

リリーは突然会話に入ってくると、説明を始めた。


「神は独占欲が強いからよ。私たちが”恩恵”を与えるのは、大抵自分が気に入った人間によ。他の神が寄りつかないように、言うなればマーキングをしてるのね」

「なるほど。だけど、他の神もその人間が気に入れば後から”恩恵”を与える事ができるんじゃない?」

ヒロの意見を聞くと、リリーは空中で一回転しながらくすくすと笑った。


「そうはいかないのよね。なぜなら”恩恵”を与えるような神は一様にプライドが高いから。すでにマーキングされている人間に後からすることは理性が許さないのよね。それをしてしまえば、最初に”恩恵”を与えた神の人選がよかったことを認めてしまうようなもんだからね」

頭がこんがらがってきた。

どうしてそれがいけないのだろうか。


その疑問はリリーが続けざまに語った内容によって解消された。


「神は、あなたたち人間を使って代理戦争をしているのよ。自分の”恩恵”がいかに素晴らしく、いかに優秀な人材を見出せたかを神同士で威張りあっているの」

神様は、この世界に干渉する事ができない。

その反動で、そのようなことをしているのかもしれない。


ただ、ゲームの駒のように人間を使って楽しんでいる神様たちに腹立たしさを感じた。


「もちろん、そんなこと考えずに”恩恵”を与える神もいる。私みたいに好きな人と純粋に仲良くなりたいと思って”恩恵”を与えている神もいるわ」

リリーはそう言い終わると、自分の失言に気づいたようで、イライザの方をみた。

友達の突然の告白に、イライザは照れながらニヤニヤ笑っていた。


「いい友達だね」

「はい!」

「うるさいわよっ!」


リリーは、一呼吸置くと話を続けた。


「そんなわけで、これが”恩恵”を1つだけ持っている人間がほとんどな理由ね。だけど、時折私みたいにプライドを気にしない神や、その人間を相当気に入った神がプライドを通り越して、2つ目の”恩恵”を与える事がある。ちなみに3つ以上持ってる人間は本当に稀で、全世界で指で数えられる程度しかいないわね」

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