第33話 2等星冒険者

「僕はヒロって言います。一応冒険者です」

作ったばかりの冒険者カードをその男に見せた。

男はカードを受け取ると、驚いたようにこちらを向いてきた。


「お前、6等星じゃねえか。なんでこのミッションに参加してるんだよ」

よくわからない単語が出てきた。

ミッションとは何だ?


「あの、ミッションってなんですか?」

「はあ?何言ってるんだお前」

呆れたような表情をする男は、めんどくさそうに語った。


「このアルティア古代遺跡の調査っていう、超級ミッションだろうが」

信じられない。

自分は古代遺跡の中をずっと彷徨っていたのだ。

それも、超級というとても危険なミッションのだ。


「・・・知らなかったです」

「はあ?そんなわけねえだろ。じゃどうやってきたんだよ」

ヒロは薬草取りをしていた時に起こったことを説明した。

ただ、”煙”が様々な場面で見えたことは黙っていた。

男は説明を聞いて驚きながらも、こちらを見てニヤニヤと笑ってきた。


「なるほどな、そりゃお前災難だったな。にしても、よくここまで生き延びれたもんだ」

そう言いながら、男はヒロの肩をどんっと叩いてきた。

痛がっている彼の様子を、またニヤニヤと見ている。

ヒロは、この男は人の不幸が好きな類のやつだと確信した。


「あの、あなたは?」

「ん?ああ、俺はブル、2等星だ」

2等星か。

どおりであんな雰囲気を醸し出せるわけだ。

ふと、女の方を見ると、腹を手で触りよろめきながらも立ち上がっているのが見えた。


「あちらの方は?」

「ああ、あいつは俺の荷物持ち兼お守りだ。名前はなんだっけな。あ、そうだ、イライザだ」

ヒロはイライザと言う名前の女性の方を改めて見た。

彼女はヒロと目が合うと顔を伏せて視線を外した。

その様子にも気になったが、まずはイライザの紹介の中で気になった部分をブルに尋ねた。


「お守り、というのは?」

「ああ、あいつ運がいいんだわ。あいつがいるとダンジョンでいいもんが見つかるって冒険者の間では有名なのよ」

そういう”恩恵”を彼女は持っているのだろうか。

ただ、もののように扱われているイライザが不憫に思えてならない。


「だけどよ、お前本当にここまで生きてこられたよな。凶暴な奴らがうじゃうじゃいるのによ」

疑うような視線をブルが向けてきたので、ヒロはヨウちゃんの”恩恵”について話した。

試しに地面に生えている植物を動かしてみると、ブルは驚きながらも納得してくれた。


「おおこりゃすげえや。ここにぴったりの力だな」

ブルはそういうと悔しそうな顔をして、チッと舌打ちをした


「お前ともっと前に会ってりゃ、こいつを使う必要なかったのかよ」

そういうとブルが取り出したのは1つの球体だった。

ヒロは、その球体から赤黒い”煙”が出ているのが見えた。

嫌な色だ、と思った。


「それは、なんですか?」

恐る恐る聞いた。

ブルは自慢げにその兵器について語った。


「これはな、火炎玉、っていうんだよ。投げて何かに当たると、そりゃすげえ爆炎が飛び出るんだ。くそっ、これ高いのによ」

爆炎、という言葉に心臓が締め付けられた。

炎によって燃える、あの肉食植物の姿が思い出される。

ブルはそんなヒロの気持ちなど知る由もなくグチをこぼした。


「草風情が生意気なんだよ。しかも炎、すぐに消されたしよ。すごかったんだぜ、植物の怪物たちがでっけえ草の器を持ってきてよ、そんなかの水をかけてたんだよ炎に。まあそのおかげで逃げられたんだけどな」


こいつだったんだ。

あの火災を起こしたのは。

胸が締め付けられ、目頭が熱くなっていく。


笑っていたブルは、ヒロの方をみると急に真剣な顔になり、そして睨みつけてきた。

「何睨んでるんだお前」

いつの間にか自分も彼を睨んでいたらしい。


「あ?なんだお前、草野郎に同情してんのか?もしかして、あの草の器つくったのお前か?」

ブルが拳を作りながら距離をつめる。

しかしその時、ヒロは怖くなかった。

ブルに自分の気持ちを言いたくてたまらなかった。


「そうだ、あれは僕がつくった。植物たちは泣いてたんだ。ダンジョンとか知らないけど、ここでは僕たちが部外者なんだ。彼らの世界を脅かしてはいけない!」


そう言い終わると同時に、強烈なパンチがヒロの頭を揺らした。

身体は衝撃に任せて、勢いよく飛んでいく。


「うるせえよ。知らねえよ草のことなんか。つかよくあの炎消してくれたなあ、おいっ!ここにいるやつらが跡形もなく燃え尽きるのが見たかったのによぉ!」

ヒロは必死に草木に”煙”を送る。

しかし、器作りに体力のほとんどを使ってしまった上、今のヒロはあまりにも草木を動かす技量が足りなかった。

ヒョロヒョロとなんとか動かした茎も、2等星冒険者に恥じない俊敏さでブルを捉えることはできなかった。

理不尽な怒りに燃えるその顔がだんだんと近づいてくる。


しかし、突然ブルの注意がヒロからそれた。

彼が見ていたのは、地図だった。

殴られた時に手から離れてしまったのだ。


「あ?なんだこれ」

そう言って彼は地図を広げると、驚いた様子を浮かべた。

そしてヒロの方を睨み、近づいてくる。


「お前、これここの地図じゃねえか。どうやって見つけた?つか、なんで俺に黙ってたんだ、おい!」

ヒロは身体を起こしながら、睨みつけた。




「別に、隠してたわけじゃない。ただ、言うタイミングが、なかっただけだ」

「てめえ、言い返してんじゃねえよっ!」

ブルの強烈なキックがヒロの腹に入り、身体が”く”の字になる。

身体に力が入らなくなり、呼吸もできなくなる。


「お前、今から俺の荷物持ち兼案内係な。この地図で俺を案内しろ。何にもなかったらぶっ殺す」

地面に倒れるヒロを見下ろしながら、ブルは命令した。


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