第31話 絵と地図

懐かしいね、この子の雰囲気。

ああ、懐かしいね。

あの子は元気にしてるのかな。

ふふ、きっと走り回ってるよ。


植物は当然のことながら会話をすることができない。

しかし、この世界では言葉がなくとも意思疎通できる植物が存在する。


一人の人間を運びながら彼らは昔に思いを馳せていた。


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「ううっ」

目が覚めると、身体のだるさを感じた。


次に炎のことを思い出し、咄嗟に身体が起き上がる。

ただ、炎は消えていたことを記憶の中で見つけ、ほっと一息ついた。


そこで初めて、ヒロは周りを見渡した。


どうやら、植物の壁に囲まれた部屋にいるみたいだ。

天井に橙色に輝く花が咲いており、部屋を照らしてくれている。

壁の所々からも小さく光る鮮やかな花たちが見えた。

部屋の反対側をみると、外へと出られそうな隙間があったので、出られることを察しとりあえず一安心した。


家具もいくつかある。

ツタで覆われている椅子と机、それらの上にある小物たち。

椅子の数と机の大きさからして複数人で住んでいたらしい。

彼が寝ているこれも、植物で覆われているがどうやらベッドのようだ。


ヒロは起き上がって、部屋の中を見て歩く。

この部屋は偶然に作られたものなのだろうか。

それとも造られたものなのか。

どちらにせよ、現在は使われてはいないだろう。


机の方に向かうと、筆記用具らしきものの他に、絵が描かれた紙がいくつか置いてあった。

正直上手ではない。

小さい子供が描いたようなそんな絵だった。


壁の方を見ると、覆っているツタの隙間から後ろにも絵が貼られているのに気がついた。

覆っているツタを操って、退けて見てみる。


花や動物の絵が多く、中にはあの肉食植物の絵があった。

時折人らしき絵もある。


絵の中の人たちはみんなニッコリマークを浮かべていて、ここに住んでいた子の楽しい生活が何となく想像できた。

そして全員、髪が緑色で描かれていた。

思わず、あの二人のことを思い出した。


そこからツタを退かして一通り壁を見ていると、一枚の大きな紙が貼られているのが見えた。


どうやら、それはこの世界の地図のようだった。


その地図には建物や道路のようなものが描かれており、この自然の中で文明を発展させていたことが伺える。

道路は地図の中心から放射状に伸びている主道路とそれらの間をつなぐ小道路で構成されているようで、かなり入り組んでいる。

そして地図の真ん中、つまりこの街の中心に描かれた建物が唯一、地図上で赤色に塗られていた。


もしかしたら、ここが出口かもしれない。

ようやく見つけることができた手がかりに、胸が高鳴った。


しかし、ここまでどうやっていこうか。

これまで過ごしてきて、建物は見当たらなかった。

人工的なものといえば、柱ぐらいだ。


ふと、地図上に小さなマークが描かれているのが見えた。

よくみると、地図の至る所に様々な種類のマークがある。

ヒロは、それらが複雑に入り組む道路の一本一本に重なるように分布していることに気がついた。


それと同時に、彼はもう1つ気がついたことがあった。

地図のマークを眺めていると、1つのマークに目が止まった。


見覚えがある。

どこで見ただろうか、と頭を絞ると、意外にも早く思い出した。


これは、柱の1つに描かれていた模様だ。

すると、柱は道路の場所を示しているのではないか。


ヒロはこの仮説に至ると、次にするべきことが明確になった。


柱を見つけていき、中心部へと繋がる主道路を見つけ出す。


ゆっくりと壁から地図をはがし、それを持ってゆっくりと外へと出た。

そしてまずはじめに、ここはどこかを確認するためにあたりを見渡した。


すると、ヒロが出てきた場所のすぐ横に、あの肉食植物たちがいた。


一瞬、ドキッとしながらも彼らが手助けをしてくれたことを思い出し、走って逃げることはなかった。

彼らは、ヒロに気がついたようで巨体を彼の方へと向けてきた。

そして一体がツタをこちらへと伸ばしてきて、ゆっくりヒロの頭を触ってきた。


その時、彼らが自分をここに運んできてくれたんだ、と気がついた。


「ありがとう」

聞こえはしないと思うが、つい口からこぼれていた。


しかし、彼らは嬉しそうだった。

閉じた二枚葉の両端が偶然にも上がっただけかもしれないが。


彼らが各々散らばっていく様子を見届けると、出てきた方を改めて見た。

見た最初の感想は、歪な形をした小さな山、であった。

しかし、それらが崩れた家だとすぐに気がついた。


やっぱりここに誰かが住んでいたんだ。

植物たちによって外側も内側も完全に覆われており、知らなかったら人工物であることは気がつかないだろう。


ここで何が起こったんだろうか。

昔ここに住んでいた人たちを想像しながら、ヒロは柱探しを始めた。



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