第28話 第二層
この大陸には随所に古代文明の跡が残っている。
平野に佇んでいるものもあれば、山脈や谷底に造られたものもある。
建造物も地方によって様々な造られ方があり、多様な文明が存在していることがわかる。
そして、それら建造物の共通点は、内部がダンジョンと化していることだ。
多くの罠が仕掛けられており、侵入者の行く手を阻む。
昔の人の仕掛けだと侮ることはできない。
現代でも再現できない技術やこの世界には存在しない生き物によって守られているからだ。
特に大陸の端にある”花の塔”と呼ばれるダンジョンは、この世界で最も有名なダンジョンにもかかわらず、人類はまだ制覇することができていない。
そんなダンジョンに冒険者が日々挑戦する理由は、ロマンだ。
現代の加工技術では再現できない装飾品は、高値で取引される。
歴史学的な意味でも、ダンジョンは古代文明の謎を解明する上で意義は大きい。
しかし、それらは以前の目的だ。
今、ダンジョンに求めるのは、古代技術によって生み出された武器だ。
約50年前に起こった戦争で、神の力を付与した武器が使われ戦争の形を大きく変えてしまった。
神の”恩恵”を賜っていない国々は、それらに対抗するために古代文明の技術に未来を賭けた。
そしてその戦争から約20年後、あるダンジョンの最奥で古代の武器が見つかった。
その武器を見つけたのは、隣国からの侵攻に怯えている小さな村に住む冒険者だった。
彼はその武器を使い、攻めてくる兵を圧倒的な力で倒した。
そして、その村にはいつしか人々が集まり、今では街となった。
したがって、現在においてダンジョン攻略は、国の存亡を賭けた最重要項目となった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
階段を降り、その先に広がる世界をみた。
「なんだこれは」
そこには広大な自然が広がっていた。
小さなものから見上げるほど大きい多種多様な草花があるのが見えた。
しかし何より一番驚いたのは、様々な種類の花が光り輝いていたことだ。
花びらが照らされ赤や紫、黄色と、色鮮やかに自然を彩っている。
しかし、巨大な青色の花も光を発しているため、全体的に青色に染められている。
幻想的な光景に心奪われていると、階段の上から何かが降りてくる音が聞こえた。
現実に戻され、ヒロは急いで階段を離れ草花の中を走った。
まもなく階段を降りてきた、あの生き物の姿を確認した。
異常なまでに大きい目と耳を持った黒のハンター。
それはヒロを見ると、草の地面を勢いよく蹴り上げ彼の方へと走った。
また追われる、という絶望感はあったが、以前よりは小さい。
死角も多く、さらに植物に囲まれているため、逃げ切る希望が沸いたからだ。
あわよくば倒すこともできるかもしれない。
そんなことを思いながら走っていると、突然地面の揺れを感じた。
通路での経験から、またこの景色が変わるのでは、と一瞬思ったが、すぐそうではないとわかった。
ハンターの近くに生えている巨大な草花が揺れているのが見えた。
何かが近くにいる。
そう思った瞬間、ハンターより二回りほど大きい生物が現れ、大きな手でハンターを捕まえると、思いっきり地面に叩きつけた。
その衝撃は空気と地面を伝ってヒロにも届いた。
新たに現れたその生物は猿のような姿をしていた。
しかし体毛はなく、青い光に照らされた地肌がとても不気味に見えた。
そして何より腕がものすごく長い。
今はその長い腕を器用に畳み、頭が潰れている餌をむしゃむしゃと食べている。
幸か不幸かは何とも言えないが、逃げることをやめてはいけないと直感した。
そう思い背を向けた瞬間、今度は文字にできない何かの雄叫びが後ろから聞こえた。
もう一度そちらを向くと、ツタが猿みたいな生物の手と脚に絡んでいるのが見えた。
そのツタを目で追っていくと、なんとヒロの近くまで繋がっていた。
その生物はツタに地面を引きずられながら、こちらへと近づいてくる。
近くの植物を掴もうと長い腕を伸ばして必死にもがいているが、引きずられる速度は変わらない。
しばらく引きずられると、その生物の身体が地面から離れ、どんどんと宙に浮いていく。
ヒロはその生物の姿を目で追っていき、そして行き着く先であろう場所を見て思わず息を呑んだ。
口のように重なった二枚葉を持つ巨大な植物がそこにいた。
ツタはこの植物のものだった。
葉の内側にあるいくつもの大きな棘は、植物には不相応なほど立派な牙のように見えた。
その植物は器用にツタを動かし、口のように広げた二枚葉の上に猿のような生物を持っていくと、ツタをほどいた。
それはどうしようもなく、ただただ葉の中へと落ちて行った。
ヒロはなんとなく、この世界のことがわかった。
この世界において食物連鎖の頂点は植物だ。
この世界では植物こそが主役。
動物は住まわせてもらっている存在なのだ。
ヒロはそのことに気づくと、肉食植物から距離を取るため身体の方向を変えようとした。
突然、先ほど巨大生物を丸呑みにした二枚葉がヒロの方をみた。
目はない、ただ感覚的に、この植物に見られていると確信した。
太いツタが伸びてくる。
ムチのように波打ちながら、こちらへとものすごい速度で迫ってくる。
逃げても無駄だと直感した。
ふと、1つの事実に気がついた。
もしかしたら、ヨウちゃんの”恩恵”を使えるのではないか。
なぜなら、相手は植物だ。
ヒロは近づくツタに焦点を当てた。
”煙”を移動させるようなイメージだ。
そんな中、重要な誤りを思い出してしまった。
この力は小さな草花しか操れない。
だけど、諦める時間すら残されていなかった。
小さな奇跡を信じて、ヒロはヨウちゃんの”恩恵”を使った。
目の前まで迫っていたツタは、ピタッと止まった。
やった、うまくいったんだ!
ヒロはそう思い、まずはこちらへと伸びているツタを地面に落とそうとした。
しかし、ツタは全く動かなかった。
困惑している中、ツタは再び動き出してヒロの手足にまとわりついてきた。
しかし、キツく締めあげられることはなく、どちらかといえば検査している様子だった。
ふと上を見上げると、ツタの持ち主であるその肉食植物はこちらをじっと見ていた。
目はないが、じっと見られていた。
そして検査は完了したみたいで、ツタが戻っていく。
しかし、その中の一本がヒロの顔へと近づき、そしてなぜか頬を軽く叩いた。
突然のことに驚き、叩かれた頬を触りながらその植物の方を見上げた。
植物は二枚葉を閉じ、踵を返してどこかへ行った。
なんとなく、葉の形がニヤッとした口元のように見えた。
ヒロはその時2つのことを思った。
1つはこの植物は絶対に自分を下に見ている!
確証はない。
ただ何となくそう思った。
そしてもう1つは、
「あいつ動けんのかよ」
この大陸には随所に古代文明の跡が残っている。
平野に佇んでいるものもあれば、山脈や谷底に造られたものもある。
建造物も地方によって様々な造られ方があり、多様な文明が存在していることがわかる。
そして、それら建造物の共通点は、内部がダンジョンと化していることだ。
多くの罠が仕掛けられており、侵入者の行く手を阻む。
昔の人の仕掛けだと侮ることはできない。
現代でも再現できない技術やこの世界には存在しない生き物によって守られているからだ。
特に大陸の端にある”花の塔”と呼ばれるダンジョンは、この世界で最も有名なダンジョンにもかかわらず、人類はまだ制覇することができていない。
そんなダンジョンに冒険者が日々挑戦する理由は、ロマンだ。
現代の加工技術では再現できない装飾品は、高値で取引される。
歴史学的な意味でも、ダンジョンは古代文明の謎を解明する上で意義は大きい。
しかし、それらは以前の目的だ。
今、ダンジョンに求めるのは、古代技術によって生み出された武器だ。
約50年前に起こった戦争で、神の力を付与した武器が使われ戦争の形を大きく変えてしまった。
神の”恩恵”を賜っていない国々は、それらに対抗するために古代文明の技術に未来を賭けた。
そしてその戦争から約20年後、あるダンジョンの最奥で古代の武器が見つかった。
その武器を見つけたのは、隣国からの侵攻に怯えている小さな村に住む冒険者だった。
彼はその武器を使い、攻めてくる兵を圧倒的な力で倒した。
そして、その村にはいつしか人々が集まり、今では街となった。
したがって、現在においてダンジョン攻略は、国の存亡を賭けた最重要項目となった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
階段を降り、その先に広がる世界をみた。
「なんだこれは」
そこには広大な自然が広がっていた。
小さなものから見上げるほど大きい多種多様な草花があるのが見えた。
しかし何より一番驚いたのは、様々な種類の花が光り輝いていたことだ。
花びらが照らされ赤や紫、黄色と、色鮮やかに自然を彩っている。
しかし、巨大な青色の花も光を発しているため、全体的に青色に染められている。
幻想的な光景に心奪われていると、階段の上から何かが降りてくる音が聞こえた。
現実に戻され、ヒロは急いで階段を離れ草花の中を走った。
まもなく階段を降りてきた、あの生き物の姿を確認した。
異常なまでに大きい目と耳を持った黒のハンター。
それはヒロを見ると、草の地面を勢いよく蹴り上げ彼の方へと走った。
また追われる、という絶望感はあったが、以前よりは小さい。
死角も多く、さらに植物に囲まれているため、逃げ切る希望が沸いたからだ。
あわよくば倒すこともできるかもしれない。
そんなことを思いながら走っていると、突然地面の揺れを感じた。
通路での経験から、またこの景色が変わるのでは、と一瞬思ったが、すぐそうではないとわかった。
ハンターの近くに生えている巨大な草花が揺れているのが見えた。
何かが近くにいる。
そう思った瞬間、ハンターより二回りほど大きい生物が現れ、大きな手でハンターを捕まえると、思いっきり地面に叩きつけた。
その衝撃は空気と地面を伝ってヒロにも届いた。
新たに現れたその生物は猿のような姿をしていた。
しかし体毛はなく、青い光に照らされた地肌がとても不気味に見えた。
そして何より腕がものすごく長い。
今はその長い腕を器用に畳み、頭が潰れている餌をむしゃむしゃと食べている。
幸か不幸かは何とも言えないが、逃げることをやめてはいけないと直感した。
そう思い背を向けた瞬間、今度は文字にできない何かの雄叫びが後ろから聞こえた。
もう一度そちらを向くと、ツタが猿みたいな生物の手と脚に絡んでいるのが見えた。
そのツタを目で追っていくと、なんとヒロの近くまで繋がっていた。
その生物はツタに地面を引きずられながら、こちらへと近づいてくる。
近くの植物を掴もうと長い腕を伸ばして必死にもがいているが、引きずられる速度は変わらない。
しばらく引きずられると、その生物の身体が地面から離れ、どんどんと宙に浮いていく。
ヒロはその生物の姿を目で追っていき、そして行き着く先であろう場所を見て思わず息を呑んだ。
口のように重なった二枚葉を持つ巨大な植物がそこにいた。
ツタはこの植物のものだった。
葉の内側にあるいくつもの大きな棘は、植物には不相応なほど立派な牙のように見えた。
その植物は器用にツタを動かし、口のように広げた二枚葉の上に猿のような生物を持っていくと、ツタをほどいた。
それはどうしようもなく、ただただ葉の中へと落ちて行った。
ヒロはなんとなく、この世界のことがわかった。
この世界において食物連鎖の頂点は植物だ。
この世界では植物こそが主役。
動物は住まわせてもらっている存在なのだ。
ヒロはそのことに気づくと、肉食植物から距離を取るため身体の方向を変えようとした。
突然、先ほど巨大生物を丸呑みにした二枚葉がヒロの方をみた。
目はない、ただ感覚的に、この植物に見られていると確信した。
太いツタが伸びてくる。
ムチのように波打ちながら、こちらへとものすごい速度で迫ってくる。
逃げても無駄だと直感した。
ふと、1つの事実に気がついた。
もしかしたら、ヨウちゃんの”恩恵”を使えるのではないか。
なぜなら、相手は植物だ。
ヒロは近づくツタに焦点を当てた。
”煙”を移動させるようなイメージだ。
そんな中、重要な誤りを思い出してしまった。
この力は小さな草花しか操れない。
だけど、諦める時間すら残されていなかった。
小さな奇跡を信じて、ヒロはヨウちゃんの”恩恵”を使った。
目の前まで迫っていたツタは、ピタッと止まった。
やった、うまくいったんだ!
ヒロはそう思い、まずはこちらへと伸びているツタを地面に落とそうとした。
しかし、ツタは全く動かなかった。
困惑している中、ツタは再び動き出してヒロの手足にまとわりついてきた。
しかし、キツく締めあげられることはなく、どちらかといえば検査している様子だった。
ふと上を見上げると、ツタの持ち主であるその肉食植物はこちらをじっと見ていた。
目はないが、じっと見られていた。
そして検査は完了したみたいで、ツタが戻っていく。
しかし、その中の一本がヒロの顔へと近づき、そしてなぜか頬を軽く叩いた。
突然のことに驚き、叩かれた頬を触りながらその植物の方を見上げた。
植物は二枚葉を閉じ、踵を返してどこかへ行った。
なんとなく、葉の形がニヤッとした口元のように見えた。
ヒロはその時2つのことを思った。
1つはこの植物は絶対に自分を下に見ている!
確証はない。
ただ何となくそう思った。
そしてもう1つは、
「あいつ動けんのかよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます