第27話 古代遺跡
どのくらい経ったかはわからない。
立ち上がり歩き始めるまでに、かなりの時間を要したと思う。
最初は今起こったことを信じられなかった。
残虐な生き物が人を喰い殺していた。
しかし、その生き物の異様にでかい目が脳裏に鮮明に焼きついている。
必死に心を落ち着かせると、次に現状を確認した。
この通路には人間と、それを狙うハンターがいる。
予想だと、ハンターはこの暗闇の中で音を頼りに狩りを行っている。
しかし、この暗闇でどうして道を正確に認識できているかはわからなかった。
そしてこれからすべきことを考えた。
ここで待つ方が聡明な気もするが、現状人の気配は全くない。
加えて、あのハンターの凶暴さを目の当たりにすると、救助の希望は薄いように思えた。
ヒロは疲れと恐怖で重くなっている身体をなんとか立ち上がらせ、出口を探し始めた。
かなり歩いたが、ずっと同じ景色だった。
四方を岩の壁に囲まれ、先に広がる空間に向かって歩いていくだけだ。
そして時折、あの生き物の足音や息遣いの音を聞いて、身体をこわばらせた。
そのせいで体力がどんどんと消耗されていく。
ガリアの人たちからもらったバックに食料と飲み物が少し入っていたのが幸運だった。
これではらちが明かないと思い、通路にものを落としていったり、頭に地図を思い描いたり、といろいろ試した。
しかし、そんなことは無意味だった。
ゆっくり物音を立てずに歩いていたある時、突然通路が振動した。
壁が揺れ始め、亀裂が入った。
崩れてくると絶望したが岩の下敷きになることはなかった。
しかし現状は同じくらい深刻だった。
壁が移動して、通路の形が変化した。
それまで直線に伸びていた前方の通路に突然曲がり角が現れた。
どんどん深刻さをましていく現状に、から笑いをしながら、なんとなく来た道の方を向いた。
確か角を曲がったばかりだ。
しかし直線に道が伸びている。
その先に、闇に溶け込んだ目が2つ見えた。
あいつだ。
ゆっくりと後ずさりをし、距離を取る。
幸いまだこちらには気づいていない様子だった。
このままいけば逃げ切れる、そう思った。
しかし、新しくできた曲がり角は予想以上に近かった。
後ろへ下がる足が壁にぶつかり、思わず体勢を崩してしまった。
ブーツが地面を勢いよく擦る。
慌てて前をみると、ハンターは勢いよくこちらへと走ってきた。
ついに音を出したと喜んでいるかのように、こちらをみている。
ヒロは急いで起き上がり、角を曲がった。
しかし、その先はどこまでも続く一直線だった。
曲がり角は全く見えない。
絶望感に打ちひしがれながらも、身体は直線を全速力で走っていた。
みるみるうちに距離が近くなる。
地面を蹴る音がどんどんと近くなる。
薬草はもうない。
頭がぼうっとしてくる。
身体はもう限界だ。
苦しい。
悔しい。
ふと、霞む視界の先で何かが光った。
みると、そこに十字路があった。
まだ希望がある。
最後の力を振り絞って、脚を全力で回転させる。
それはまさに火事場の馬鹿力だった。
ハンターとの距離が狭まる速度がゆるまる。
十字路に近づくにつれ、見覚えがある光景が現れた。
ほのかに銀色の”煙”が十字路の合流点で漂っている。
ここに自分を連れてきたものと一緒の色だ。
危険かもしれない。
しかし、身体を止められなかった。
ハンターはもう、直ぐ後ろにいる!
ヒロは十字路に差し掛かると、足で踏ん張り進む向きを変えようとした。
しかし、速度を落とすことはできず、曲がった先の通路の壁に激突してしまった。
地面に倒れ込んだ身体はもう動かなかった。
死を悟った。
しかし、いつまで経ってもその生き物はヒロを襲ってこなかった。
恐る恐る来た方を見ると、その生き物は十字路に入ってくることなく、じっとこちらをみていた。
ヒロは座り込んだまま、息をすることすら忘れ、その生き物の方をじっと見ていた。
しばらくすると、その生き物は来た道を引き返していった。
訳がわからなかったが、恐怖と助かった安堵で目頭がじんじんと熱くなった。
必死に声を押し殺しながら、壁にもたれかかった。
気持ちが落ち着き、改めて今の状況を確認した。
まずはなぜ助かったのか。
よくはわからないが、この銀色の”煙”が漂う通路が関係しているかもしれない。
そしてこの通路はずっと続いていた。
ヒロは、この銀色の通路を信じてみようと思い先へと進んだ。
しばらく歩くと、目の前に開けた空間が広がった。
ドーム状の形で、天井は通ってきた通路と比べて遥かに高い。
ゆっくりと中へ進んでいくと、そこには黒い毛で覆われたあの生き物が複数倒れていた。
一瞬身構えたが、どうやら死んでいるらしい。
そして、その生き物たちと戦ったであろう人の死体がいくつか見えた。
四肢が全て繋がっている人はおらず、思わず吐き気を催した。
反対を見ると、銀色の”煙”が続く先に下へと降りる階段があるのが見えた。
入り口へ来ると、かなり長い階段であることがわかった。
降りるのをためらっていると、銀色の”煙”が、ふっと消えた。
それと同時に、何かの雄叫びが来た道から響き渡ってきた。
ためらっている時間はない、と悟り、ヒロは下へと降りていった。
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