第25話 閑話 女性たちの煩悩

私はロマンチストだった。


小さい時にお母さんから聞いた御伽話を、いつまでも覚えている。


悪い神様によって呪いをかけられたお姫様を、王子様が救うお話だ。

道中には悪い山賊や様々な罠が仕掛けられていたが、王子様は進むことをやめなかった。

そして最後には、王子様のキスによってお姫様は目を覚ます。


私はずっと、この話のお姫様になりたかった。

目を覚まし、私を助けてくれる王子様といつか出会いたいと思っていた。


だからどんなに容姿が整っている人に出会っても、どんなにお金持ちな人に言い寄られても、心は動かなかった。

性にかなりの関心があってもだ。


ある時、突然私は意識がなくなった。

長い時間寝ている感覚はあった。

しばらくして目が覚めると、いつも一緒に遊んでいたメイドが泣き崩れていた。


そして何があったのかをお父さんに聞いた時、私は胸がときめいた。

ついに王子様が来たんだ!


私は次の日、その人と対面した。

ヒョロヒョロした身体つきで、いい服も着ていない。顔なんか腫れてあざが出来ている。

そんな人に私は胸が踊った。

鼓動が早くなった。


確かにキスでは目が覚めなかった。山賊っぽい人はいたけど罠はなかった。

だけど私はその人を王子様だと思った。

これまで会ったどんな男性よりも魅力的に思えた。


私は決めた。

この人と一緒になると。

そして・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その方を初めてみた時、天使かと思った。

一目惚れだった。


だんだんと打ち解け、一緒に遊ぶようになると、さらに心惹かれた。

私に向けられる笑顔のあまりの可愛さに涙を流すこともあった。


昔は一緒に寝たこともあった。

ご主人様の言いつけを破って、夜遅くまで布団の中で話し込んでいた。

いつの間にかその方が眠ってしまい、私はどうしたものかと考えた。

何をしようかと。


その方の寝顔を至近距離で見た時、頭がくらくらした。

布団の中で息苦しかったのもあるかもしれない。

息が荒くなり、身体がうずく。


しかしこれ以上はいられないと理性が働き、その時は涙ながらベッドから抜け出した。


そんな愛しの方が突然倒れた。

意識は戻らず、私の気持ちも沈みっぱなしだった。


しかし、私が掃除をしている時ついにその方は目が覚めた。

私を見て微笑んでいた。

泣きながら領主様を呼びに行き、一緒にその方の部屋に向かった。


夢ではなかった。

その方は目を覚ましていた!

私の気持ちが届いたのだと思った。


しかし、これが悲劇の始まりだった。

その方は自分がなぜ助かったのかを知ると、これまで見せたことのない表情を浮かべていた。

それは私がその方に向ける表情と同じ。

恋をしてしまった。その方はついに恋を知ってしまった。


男が来ると、その方は平然と接していたが、私はその方の赤らめた表情の変化を見逃したりはしなかった。

その方の心が高鳴っていることは手に取るようにわかった。


そして今日だ。

その方は大胆にも、その男の膝にいやらしく乗り、一緒に住もうと誘っていた。

そして、こともあろうかその申し出について、私の意見を聞いてきた。

答えるのが本当に辛かった。


さらに腹立たしいのは、その男が申し出を断ったことだ。

羨ましく、妬ましい。

ただ少しほっとした。


その男が帰ると、その方は少し寂しそうだった。

サリ様と話している時も、どことなく上の空だ。


許せない、あの男。

お嬢様をこんなに苦しめて。

くそぅ、


エレカお嬢様を一番想っているのは私なんだからっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る