第22話 冒険者ギルド

街の中はいつもと変わらず賑やかだった。

色々な種族が商売を通して交流を楽しんでいる。

この世界では種族間での優劣はないそうだ。

あるのは”恩恵”の有無だけ。


「サリ、僕は早速冒険者登録してこようと思うんだけど、君はどうする?」

彼女の目的はエレカに会いに行くことだ。


「ううん、あたしもついていくよ。ギルド入ってみたいし、それにヒロもあとで屋敷に行くでしょ。一緒でいいよ」

そういうわけでヒロは彼女と一緒にギルドを目指した。


ギルドは街の中央にある大きな広場にあった。

広場の正面に陣取っている四階建ての建物は街の中でも一際大きい。


中へ入ると、広いエントランスに多くの冒険者がいた。

思い思いの格好をしている様々な人種の冒険者たちが談笑している。


エントランスを入り口から眺めていると、奥に受付のような場所を見つけた。

他の冒険者の雰囲気に圧倒されながら、彼らの隙間を縫うようにして受付に着いた。


「ようこそ冒険者ギルドへ。どのようなご用件でしょうか?」

受付の兎のような女性がヒロに気づいたようで話しかけてくれた。


「あの、冒険者登録をしたいんですけど」

「冒険者登録ですね。そうしましたらいくつか質問をさせていただきます」

ヒロは急いでリカからもらったものを取り出した。


「あの、推薦状をもらっているんですけど」

バックから取り出し彼女に渡す。


「推薦状ですか。ええっと推薦者は・・まさかガリア族のの推薦状ですか?」

「はい、そうです」

「少々お待ちください」

驚いた様子の受付嬢は、早歩きで2階に上がっていった。


「ヒロ、終わった?」

ギルドの中を見て歩いていたサリが合流した。


「いや、ちょっと待っててほしいって言われた」

「ふぅん」

するとドタドタと誰かが慌てた様子で階段を降りる音が聞こえた。

みると、身長は低いが身体つきは良い、正方形のような体型の男性が降りてきた。

多分猿人だ。


「君か、ガリア族から推薦状をもらったのは!」

彼の声がギルド内に響きわたり、他の冒険者たちが一斉にこちらを向いてきた。

彼はヒロの方へ歩いてくると、隣にいたサリにも気づいたようで、驚いた様子だった。


「おお!これはサリ様、お久しぶりでございます」

「久しぶり、オレク」

彼の名前らしい。


「サリ様と一緒っていうことは本当らしいな。まあ、とにかくついてきてくれ」

そういうとオレクは2階にある一室に案内した。

中にあったソファに向かい合わせで座った。


「いやあ信じられんな。ガリア族が他種族の人間に推薦状を書くなんて」

どうやらシアが言ってたように、推薦状は貴重なものらしい。

オレクはじっくりと推薦状の内容を見ている。


「すまない、自己紹介が遅れた。俺はオレク、このギルド長だ。よろしく。ええと、君は”ヒロ”か。ふむふむ、”勇敢で優しい方です。彼に多くの恩義があります”か。君は、彼らとどういうことをしてたんだ?」

多分だが、言わないほうがいいだろう。

特にセレシドのためにも。


「ごめんねオレク、それは言えない」

ヒロが困惑していると、サリが代わりに答えてくれた。

やはりサリも胸の内に留めておきたいらしい。


「いやいや、こちらこそいらぬことを聞いてしまった。とりあえずヒロくん、この推薦状があればおおかたの申請は改めてする必要はないだろう」

「ありがとうございます」

リカには感謝しないといけない。


「あとは一応の確認だけなんだが、神から”恩恵”を賜ってたりするか?いや興味本位なんだが、持ってないのが当然だからな、ぜんぜん・・・」

「持ってるよ」

オレクが驚きの表情を浮かべた。

ヒロも驚いてサリの方をみた。

なんで君が言うの?


「本当かヒロくん?」

「・・はい」

そう聞くと、オレクは嬉しそうに笑った。


「そうかそうか!それはめでたい!最近は”恩恵”持ちの新人が現れなかったからな。これで一層ギルドが盛り上がるぞ」

短い胴体を揺らしながら喜ぶその姿に既視感を覚えた。

あ、おきあがりこぼし。


「2つ」

「ん?」

唐突にサリが声を発した。

何を言っているのサリさん?


「ヒロはなんと”恩恵”2つ持ってるよ!」

彼女はなぜか胸を張って自信満々に打ち明けた。

オレクは驚きのあまり開いた口が開かなくなっている。


「なんで言うの、サリ?!」

「だって、ヒロが普通と変わらない、みたいな感じだったんだもん。ヒロ、普通じゃないじゃん」

よくわからない理屈を並べられ、それに反論しようとしたが、オレクの方が早かった。


「ヒロくん、2つとはどういうことだ?」

笑顔が消えたその真剣な眼差しに、思わず顔を逸らした。


「えっと、そのまんまの意味です」

驚きのあまり後ろに倒れたそのおきあがりこぼしは、そのまましばらくかえってこなかった。



「まさか2つ”恩恵”を持っているなんて。ほとんど聞かないぞ」

そう言われ、サリが満足げに鼻を鳴らしている。


「ちなみにどなたからもらったんだ?」

「幼木の神と、ガリアの神です」

そう聞くと、さらに驚いた様子だった。


「なんと、それはすごい。ガリアの神はガリア族には”恩恵”を与えるとは聞いているが、幼木の神から”恩恵”を賜った者の存在は聞いたことがなかった」

これまでヨウちゃんはどのような生活を送ってきたんだろう。

もう少し聞きたかったなあ。


「ともかく、ヒロくん、君は超がつく新星だ。1等星になるのも夢ではないぞ」

知らない単語が出てきた。


「あの”一等星”ってなんですか?」

「ああ知らなかったか。冒険者のランクのことで一等星は最高ランクだ。新人は6等星から始める。ヒロくんも6等星からだ」

どうやら依頼をこなしていき、等級を上げていくようだ。

依頼にも難易度があり、初級、中級、上級、超級とあるらしい。


「ちなみに1等星の冒険者はどのような方々なのですか?」

「そうだな、簡単に言うと人を超えた存在だ。圧倒的な力で全てを薙ぎ払う。天性の才能と強力な”恩恵”をもったものだけが届く頂だな。だから世界の中で数える程度しかいない」

その人たちの”煙”を見てみたい気もするが、やはり怖くて会いたくはない。


「そしたらヒロくん、ちょっと待っててくれ。今から冒険者証を作ってくるから」

そう言ってオレクは部屋を出て行った。


等級のことや依頼の難易度も聞いてはみたが、あまりヒロには関係ないことだろう。

冒険者になったのも旅の費用を稼ぐためであって、等級をあげたいわけではない。

初級の依頼をこなしていけばいいだろう。


しばらく待っていると、部屋の扉が勢いよく開いてオレクが入ってきた。


「ほれ、これが冒険者証だ」

そういってヒロに手渡したのは手のひらサイズのカードだ。

自分の名前が真ん中に置かれ、端には誰かのサインが書かれていた。

カード全体の色は茶色っぽく、文字の後ろにうっすらと星らしきイラストが6つ描かれていた。


「それは俺のサインだ。偽物と見分けがつくようにな。それと裏を見てみろ」

裏を見るとよくわからないマークが描かれていた。


「それはガリア族のシンボルだ。ヒロくんとガリア族との友好をギルドが証明した、という証拠だ。色々な場所を訪れた時に、こういうのがあると信頼を得やすいからな」

そのマークをどこかで見たような気がしたが思い出せない。


「ありがとうございます」

「おう、そしたら早速依頼を確認してみろ。エントランスのところにいろいろ貼られているから」


ヒロは新たな冒険にワクワクしながら下へ降りていった。

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