第20話 大切な人
リカや後々合流したシアに、ヒロは神様と話せること、そして”恩恵”をもらうと彼らに触れることができることを話した。
シアも半信半疑だったが、ヨウちゃんが実際に力を使ってみせると、納得せざるを得ない様子だった。
「だけど、ヒロさん、どうして私たちも神様のことが見えるようになったのでしょうか」
最初はヒロ自身もここに関してはあまりわかっていない。
しかし、ヨウちゃんが彼から離れた際に、この謎がなんとなく解けた。
二人が離れた瞬間、リカはヨウちゃんのことが見えなくなった。
原理としては、ヨウちゃんを運んだ際の葉っぱや、ガリちゃんが届けてくれた薬の容器と同じようなことが起きているのだと思う。
ただ、それならばヒロが彼らの次元にいくわけなので、”ヒロが見えなくなる”のが妥当だ。
だけど、今回はその逆のことが起こった。
なので、リカの質問にはこう答えた。
「僕にもわかりません。ただ、神様と触れている時だけ、皆さんにも彼らのことが見えるようになるみたいです」
二人は、理屈がわからず戸惑いはあったが、それよりも彼らにとって重要なことがあった。
「ヒロ、そしたら俺らもさ、ガリアの神も見えるっていうことだよな。見せてもらうことはできないか」
ガリアの神は、彼らにとっては存在することは知っているが見ることは決してできない崇高な存在、広場にある像のみが彼らの真実であった。
しかし・・
ガリちゃんの方に視線を落とすと、彼はヒロの視線に気づき慌てて話しかけてきた。
「絶対に俺に触るなよヒロ、そして俺の本当の姿も言わないでくれ」
ゆっくりとヒロとの距離を開けながら警戒をしているガリちゃんが面白かった。
いじわるな気持ちにもなったが、”恩恵”をもらった手前彼の要望に応えた。
「ごめん、姿を現すことはできない、って言ってる」
「そうか」
納得はしているが残念そうだ。
「お姿はどうだ、広場の像と同じか」
もう一度ガリちゃんの方を見る。
ヒロの方を睨んで、”ダメダメ”と小声でずっと言っている。
「全然違う」
「えっそうなのか?」
「おいっ!」
リカとシア、そしてガリちゃんがそれぞれ違う驚き方をした。
「全然違うよ。広場の像よりもっと大きくて、もっと凛々しいお姿をされてる」
「おお!それは拝見したかったなあ」
ガリちゃんの方を見ると、深くて長い一息を置いていた。
「あ、だけどみんなが思っている以上にみんなのことを大切に想っている優しい神様だよ」
それを聞いて、リカとシアは嬉しそうに、ガリちゃんは恥ずかしそうに笑った。
「そうなのですね、それをお聞きすることができて本当に嬉しいです」
宴の翌日は、村でゆっくりと時間を過ごした。
身体を休ませるのも目的だが、明日の旅立ちの前に村のことをもっと知っておきたかった。
彼らの食事は意外とバランスが取れていて、山の幸も肉と同程度食べるらしい。
中にはダイエットをしている人もいるそうだ。
子供達はボールを使った遊びが好きらしい。
ヒロが小さい頃やっていたサッカーのルールを身振り手振りで教えてみた。
飲み込みが早く、さらに持ち前の運動神経ですぐに子供達は上手くなった。
彼も少しだけ加わったが、全く歯が立たなかった。
住居も見せてもらった。
壁は草を編んで家の壁を作っているらしいが、頑丈かつ網目が大変細かく風で壊れることはなく、雨漏りもしないらしい。
この技術を用いて特産品を作っているらしい。
確かに住居の中には、草で編まれている家具がいくつか見られた。
ヒロがつけていたベルトも、実はこの技術で作られていた。
夜はヒロの送別会、ということで豪華な食事を用意してくれた。
ガリア族は、祝い事となると広場に全員が集まり一緒に食事を楽しむそうだ。
少し照れながらも、みんなからのおもてなしに感謝しながら最後の夜を楽しんだ。
最初に吊るされていた場所、というのはすっかり忘れていた。
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宴会の余韻に浸りながら、ガリちゃんの寝床で横になっている。
「ヒロ起きてる?」
小さな声でヨウちゃんが声をかけてきた。
「うん起きてるよ」
「そっかよかった」
そういうとヨウちゃんは横に寝て、ヒロの身体に顔をうずめた。
「ヒロずっと一緒にいて」
その声は少し震えていた。
思わず彼女との楽しい時間を思い出したが、自分に言い聞かせるように話した。
「ヨウちゃん、君は僕にとって本当に大切な友達だよ。君とずっといるのも楽しいと思う。だけど、僕はどうしてもこの世界を見てまわりたいという思いを無くせないんだ」
「・・なんでそんなに旅をしたいの?」
この子だけにはしっかりと自身のことを話さないといけないと思った。
ヒロはこの世界に来て初めて、かつて自分が盲目だったことを話した。
彼女はひどく動揺していたが、彼の気持ちとの関係を理解した様子だった。
「わかった。だけどヒロ、あたしのこと忘れないでね」
上目遣いで聞いてくる彼女は不安そうな顔をしていた。
「絶対忘れない。草木を見るたびヨウちゃんのことを思い出すよ」
「えへへ、よかった」
納得してくれてよかった。
ヨウちゃんの温もりを感じながら、ヒロは瞼を閉じた。
ボフッ
何かが頭の上に乗ってきた。
手で触ると、柔らかい感触が戻ってきた。
ヒロはそれが何であるか察しはついていた。
その狼の首周りの皮を掴むと向こうへ放り投げた。
「なんだよ、せっかく寝てるのに」
「こっちのセリフだよガリちゃん」
二人とも疲れており、それ以上の会話はなかった。
ただ、ガリちゃんはヒロのそばへ近寄り身体を丸めて寝息をたてはじめた。
窮屈さを感じながらも、二柱の温もりを感じられる幸せな夜だった。
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