第19話 身体能力

「そしたらまずは俺の”恩恵”の説明をするぞ」

「はい、お願いします!」

ガリちゃんからもらった”恩恵”は、シアたちと同じものだ。

”煙”の色が彼女らと同じだった。


「俺の”恩恵”をもらった者は、”身体能力を向上させる”ことができる。ガリア族は元々身体能力が優れている種族だが、俺の”恩恵”を持つやつは比較にならないほど速く動き、そして力も強くなる」

シアのあの速さはこの”恩恵”を使ったのだろう。

そう考えると閃光のように移動したシアの元々の身体能力もかなりすごそうだ。


「よし、ヒロとりあえず走ってみろ」

「え、いきなり?どうやって”恩恵”を使うの?」

「そうだな、普通のやつはある程度の慣れが必要なんだが、ヒロの場合は”煙”を意識すればいいと思うぞ」

なるほど、まあ考えてもわからないからとりあえずやってみよう。

ヒロは身体から黄色の”煙が出るのを意識してみる。


「いい感じだ。”煙”が濃くなっているぞ」

自分の身体を見てみると、確かに黄色の”煙”が濃くなっているのがわかった。


「そしたら”煙”を脚へ集めてみろ」

「わかった」

言われた通り、”煙”を脚の方へと集めてみる。

ただ、集まったのはわずかでほとんどは分散したり消滅した。

それでも脚に温かみを感じる。


「まあ最初にしては上出来だろう。そしたら走ってみろ」

自然に脚に力が入る。

新しい自分の姿を見られると思うと期待が膨らむ。

ヒロは少し先に見える木に向かって走り始めた。


走っている時の世界はなんとも気持ちよかった。

前方のものがあっという間に横を通り過ぎる。

まるで自分が風になったかのようにスイスイと走れる。

この世界に来てから、何回か走ったが確実に今の方が速い。


数秒もせず目標の木に追いつき、ガリちゃんの元へ帰った。

すると、なぜかガリちゃんは呆然とヒロの方を見ていた。

もしかして速すぎたかしら。


「ヒロ、お前、身体能力なさすぎだろ」

「えっ?」

想定していた内容とは真逆だった。


「お前、今の速さだとガリアの奴ら、いや走るのがちょっと速い普通の猿人にも負けるぞ。確かにこれが初めてだっただろうけど、それでもこれはひどいな」

ガリちゃんはヒロをバカにすることすら忘れて、むしろ憐みの表情を浮かべている。


「シアやリカと同程度の力を与えているんだ。ヒロ、もっと運動した方がいいぞ。基礎能力はこれからも養えるからな」

宝の持ち腐れとはこのことだろう。

描いた理想の姿が崩れ落ちる音がした。


「そんな落ち込まないで、ヒロ。あたしの”恩恵”もあるんだから」

「うん、ありがとうヨウちゃん」

よし、切り替えて頑張ろう。


「じゃあさっきと同じように、あたしの”恩恵”の”煙”を意識してみて」

ヨウちゃんからもらった力の”煙”の色は黄緑だ。

薬を作った時の器からは緑色の”煙”が出ていたと思ったが、自分の身体からはっきり出る”煙”を見ると黄色がかっていることがわかった。

先ほどと同様に”煙”を意識する。

今回は”煙”が濃くなっていくのがなんとなくわかった。


「いいよヒロ。そしたらその”煙”を足裏に持っていってみて」

これも先ほどよりも多くの”煙”を一箇所に集めることができた。


「そしたら、近くの草を見てみて」

足元に視線を移し、とりあえず近くに生えている雑草に焦点を合わせた。


「これが最後だよ。その草に地面を通して”煙”を伝わせてみて」

んん、いきなり難易度が高まったような気がする。

足元の”煙”の感覚を保ちながら、雑草の方を見る。

すると、”煙”が足元を飛び出し、ゆっくりと草の方へ移動していった。


「いい感じ!頑張って」

ただ”煙”はだんだんと分散していき、雑草の元へ届いたのはほんのわずかだった。

ほんの少しの”煙”が届いた雑草は、ぴょこんぴょこんと小さく左右に揺れた。


「すごいよヒロ、一発で草を動かせるようになるなんて」

普通に見る分には全くわからない変化だったがヨウちゃんは笑顔で褒めてくれた。


「ああ、確かにすごいな。他のものに影響を与える”恩恵”は自分の身体で完結する”恩恵”よりもかなり難易度が高い」

「ほんと?!嬉しいなあ」

落ちるところまで落ちていた自己評価が少し改善された。


「練習すればもっと色々なことができるようになるよ。それよりもヒロ、ご飯食べようご飯」

「そうだね、食べよう!」

ヒロは地面に座って食べかけだった魚料理を口に運ぶ。

するとヨウちゃんは、彼のあぐらの上に座ってきた。

なんか新しく妹ができたみたいだなあ。

そんな束の間の幸せに浸っていると、向こうからリカがこちらへと歩いてくる。


「あの、ヒロさん」

「はい、どうしました?」

「そちらの女の子はどなたですか?」

思わず口に含んでいた飲み物がふき出た。


「もしかして、この子が見えるんですか?!」

この世界へ来た時に何回も聞かれた質問を、今度はヒロ自身がしていた。


「はい、見えていますけど」

きっと変なことを聞くなあ、と思っているのだろう。


「ヨウちゃん、話してもいい?」

念の為に本人に聞いてみた。

なぜならヨウちゃんもかなり戸惑ってる様子だからだ。

少し悩んでいたが、意を決したような表情になった。


「うん、大丈夫」

「わかった。リカ」

ヒロはゆっくりと告げた。


「この子は、幼木の神様です」

リカは突拍子もない告白に最初は理解できていない様子だったが、だんだんと驚きのあまり目が見開いていった。


「えっ、そんなわけ、だって神様は見え、ほんとですか?」

「ほんとです」

そう聞くと、突然リカは仰向けに寝た。

後々聞くと、ガリア族の中で最大級の敬意のポーズだそうだ。

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