第13話 奇跡のような必然
エレカに近づくと、彼女の容態がはっきりとわかった。
まさしく奇病だった。
彼女の身体は黄金色に輝いていた。
まるで人の形に型取られた金塊のようだ。
「・・ヨウちゃん、どう?」
ふと彼女の方を見ると、顔が強張っていた。
「あたし知ってる、知ってるよこの症状」
「本当に?!」
「うん、ずっと昔に小さな村があって、そこでは時々子供がこの子みたいに金色に輝くことが起こっていたんだ。だけど、その村の人たちはその症状を神からの寵愛だと考えてむしろありがたいことだと思っていた」
確かに金色というのは人を魅了する色だ。
そう思っても不思議ではない。
「だけどやっぱり、時代が経つごとにこのことに疑問を持つ村人たちが現れたんだ。そんな時あたしが”恩恵”をあげた人がその村を訪れた」
唯一の人か。
ヒロは興味が沸いたが彼女の話に口を挟むことはしなかった。
「その人に村人は金色に輝く子供を助けて欲しいとお願いをしたの、今みたいに。それからあたしもその村に行って、あたしたちはかなり長い時間その村で過ごし治療法を探した。そしてついに治療薬を作り出してその子供を治したの」
「治ったの?!すごい!」
本当に治療法があった。
これで”金色の花”を使わずに済む。
しかしどうしてかヨウちゃんの表情はさらに険しくなった。
「どうしたのヨウちゃん、薬の作り方知ってるんだよね?」
「うん、知ってる、知ってるよ。その薬を作るには二種類の花が必要なの。一つはガリアの森にもある花。だけど・・」
彼女の口は震えていた。
「もう一つの花はこの近くで見たことがない。それに花をすりつぶす器も特別なの。あたしの力を込めた器じゃないとダメ。それを作るのにもかなり時間がかかったんだ。明日までには絶対に作れない」
そんな、猶予は明日までなのに。
「領主様!ガリア族にあてた伝言の猶予を伸ばすことはできませんか?」
思わずセレシドに聞いてしまった。
ヒロの必死な様子に何かを察してしまったらしい。
「いや、すまないがそれは無理だ。君も知っている通りエレカの命はもう長くはない。医者がそう言っていた。一日待つのがやっとなんだ」
セレシドは苦しそうに話した。
「うん、彼がいうようにこの子はもう長くない。ヒロ、もうどうしようにも・・」
何かあるはずだ、何か。
絶対に諦められない。二つの陣営の頭と会ってきて共通していることがある。
それは二人ともとても優しく、誰かを大切にしたい、守りたい、という思いを強く持っていることだ。
この二人を戦わせたくない。きっとどちらにも消えない傷がずっと残ってしまう。
何かないか、何か。
ふと、目線をあげると部屋に置かれている品々が視界に入った。
「ヨウちゃん、あそこにないかな、その二つ」
自分に言い聞かせるように、そして最後の希望を込めて彼女の方を見た。
ヨウちゃんも最後の希望を見出し顔が綻んだように見えた。
「うん、見てくる!」
そういうと花の方へ向かった。
ヒロもそちらへ向かおうとしたが、ふともう一角、不思議な置物が所狭しと並んでいる方で、何かが動いたように見えた。
近づいてみると、奥の方に小さな器が置かれていた。
入り口では他の置物に隠れて見えなかったらしい。
その器から、ほんのわずかに緑色の”煙”が出ていた。
まさか、これは。
器を手に取ると急いでヨウちゃんの方へ向かった。
「あった!あったよヒロ!」
ヒロちゃんは白い花を手にとってヒロの方へ走ってきた。
「ヨウちゃん、これ。。」
彼女はヒロが手に持つ小さな器に気づき立ち止まった。
そして鼻を啜る音がしたかと思うと、涙が断つひまなく頬を流れ落ちた。
「それっ、それっ、あたしの作った・・」
言葉にできない胸の高まりで身体が熱くなっていく。
こんな奇跡があっていいんだろうか。いやこれは奇跡じゃない。
セレシドが大陸全土から、様々なものを集めてくれたからだ。
彼がどんなものを犠牲にしようともエレカを救いたい、という想いがあったからこそだった。
「ヒロくん」
突然大声で一人話し始め、そして器を持って興奮しているヒロの様子に驚いたのだろう、セレシドが話しかけてきた。
「すみません. ただ嬉しくて。あなたの公女様を想う気持ちが決して無駄ではなかったと知れて」
ヒロは目頭を拭うと一呼吸置いてから話を進めた。
「領主様。治ります、公女様は治ります!あなたが集めてくれたこの花とこの器があれば」
きっとヒロが言っていることはあまりわかっていなかっただろう。ただ”治る”という言葉を聞いて身体の緊張が取れたらしくセレシドはゆっくりと地面に膝をついた。
「本当か、本当にエレカは治るのか?!」
「はい、治ります!」
確信をもったヒロの言葉にセレシドの目元が緩んでいった。
「僕は急いで残りの薬草をとってきます」
「ああ、よろしく頼む。それと私が言えることではないがガリア族には注意してくれ。今猿人を見たら何をするかわからない」
今日の昼に危うく処刑されそうになりました、そんなことはおくびにも出さない。
「はい、気をつけます。そしたらすぐに戻ってきます」
そういうと屋敷を飛び出し街を出て森へと続く一本道へと向かった。
エレカの容体、そして伝言の猶予は残りわずかだ。
ヒロはヨウちゃんに置いていかれないように必死で走った。
日はすでに沈みかけており、あたりは暗くなっていた。
だからヒロは自分のあとをつける人影に気づくことはできなかった。
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