第12話 領主セレシド

「ん、お前このガキを知ってるのか?」

一人が橋で会った男に聞いた。


「ああ、こいつ森から出てきたんだよ。監視してる奴が気づいて俺が見に行ったんだ」

まずいな、まさかここで会ってしまうなんて。


「その時、何にも知らないようなフリしてたな。ましてやガリアのことについて聞いてきやがって。白々しいぜまったく。おいこのガキ捕まえるぞ、何か知っているに違いない」

そういうと、男たちは距離を縮めてきた。

こうなったら台本なしのぶっつけ本番だ。


「僕の話を聞いてください!三日前ここに医者が尋ねてきましたよね。実は僕、その人と知り合いなんです。彼女から公女様の症状を聞いて関心を持って訪れたんです」

男たちの動きが一瞬止まった。

ただヒロへの疑いは晴れてはいないようだ。


「そんなこと、お前がガリアの連中と話しているんだったら知ってて当然だ。お前を信じる理由にはならない」

「じゃあ、これを見てください!」

そう言うとヒロはヨウちゃんの方を見て、コクリと頷いた。

実はヨウちゃんと事前に話していた。

”僕が1回頷いたら力を使って、2回頷いたら力を解除してほしい”、と。


ヨウちゃんはヒロの合図に気づくと、周りの草を急成長させ頑丈な足場を作った。

ヒロがそこに乗ると草たちはさらに成長し、ついには男たちの背よりも高くヒロを持ち上げた。


男たちは突然の出来事に唖然としていたが、すぐに最大限の警戒をヒロに向けた。


「これは、僕が幼木の神から賜った”恩恵”です!彼女の力を借りれば、もしかしたら公女様の病気を治す手がかりを見つけられるかもしれません。どうか公女様にお会いさせてください!

そう言うと、ヨウちゃんの方を向いて2回コクリと頷き、地面へと降ろしてもらった。

男たちもヒロを襲い掛かろうとはせず、必死に状況を理解しようとしているようだった。


「まさか、お前が”恩恵人”だったとは。しかもほとんど人と接触してこなかった幼木の神と、か。領主様に報告するべきかもしれん」

よしこのままいけるぞ。ほっと心の中で一息ついた。


「俺はこいつを信用できん!」

そう言ったのは橋で会った男だった。


「こいつは出会った時にガリア族に関して全く知らないふりをしていたんだ。医者と知り合いだったならその場で言えば良いだろう。なぜ嘘をついた?」

他の男たちも彼の指摘で矛盾に気付かされ、ヒロの方へ剣を向けた。


「さあ、言い訳があるなら聞こうじゃないか!」

終わった、そう諦めた時だった。


「剣をおろせお前たち!」

ふと門の方を見ると一人の男性が立っていた。


「領主様!」

男たちは急いで剣をおろし、彼の方へ姿勢を正した。

なんと、彼がこの街の領主らしい。

ただし、矛盾に気づいた橋の男は納得できないようでいた。


「しかし、領主様。この子供は」

「わかっている。途中から聞いていた」

そう言いながら領主はヒロの方へ向かってきた。


「申し訳ないね。私を慕ってくれるが故にいささか頑固なところがあって」

「いえ、そんな」

なかなかいい人のようだ。

物腰も柔らかく優しい雰囲気がある。


「ところで、君が言っていたことだが本当かい?」

彼の目は優しくヒロの方を向いていたが、その奥では彼が信用に足りる人物かを見定めていた。


「はい、本当です。幼木の神は薬草にも精通しています。公女様の症状を見ることができれば、もしかしたら他の方法を見つけられる、と言っています。信じてくれますか?」

ヒロの細かな表情に気をかけていた彼の目は、ほんの少し柔らかくなった。


「・・・そうだな、正直まだ信用はできないが、娘を助けられてガリア族とも争わないで済むならこれ以上ない幸せだ。どうかよろしく頼む」

そう言うと、領主である男性は頭を下げた。


「頭を上げてください!もちろんです。どうか公女様の容体を確認させてください」

「ありがとう、そしたらついてきてくれ」


屋敷に入ると、荘厳なエントランスが視界いっぱいに広がった。

2階へつながる大きな階段が正面にあり、その両脇と左右に廊下が広がっている。

奥行きを見るだけでいかに屋敷が大きいかがわかる。

掃除もよく行き届いている。

しかし、壺や絵画など高価そうな品々で豪華に飾っていることはなく、屋敷の大きさが逆に違和感を感じるほどに内装は質素だ。


エントランスを抜け階段をあがり、廊下を進んでいく。

その間も剣を持った男たちに囲まれていた。

歩きづらかったが、完全には信用されていないので仕方ないと素直に受け入れていた。


「そういえば名前を聞いていなかったね。私はこの街の領主のセレシド=エレーネだ」

どちらが苗字かわからなかったが、この街の名前が”エレーネ”だということを考えれば、セレシドが名前であることは察しがついた。


「僕はヒロといいます」

「そうか、よろしく頼むよヒロくん」

そんな会話をしていると、廊下の先にある一際大きい扉の前に着いた。


「エレカ、入るぞ」

どうやら娘の名前らしい。

中から声はしなかったが、いつものことらしくセレシドは扉を開けた。

ヒロはゆっくりその子の部屋に入った。


部屋の中の様子は、エントランスのような荘厳な雰囲気はなかった。

むしろ、一貫性のないものたちで溢れかえっている雑多な部屋だった。

一角には様々な種類の花で溢れていて、もう一角は幾何学模様の金属品やおかしな顔の木彫りなど不思議な置物が所狭しと並べられていた。

あっけに取られているヒロの様子に気づいたらしく、領主は説明してくれた。


「これらはね、娘の病気が治るように集めたものなんだ。知っての通りエレカはよくなってないけど、どうにも捨てられなくてね」

セレシドは、有り金を叩いて大陸全土から治癒の力があると信じられている品々を集めていた。

その際に、家に飾られていた美術品はほとんど全て売ってしまったらしい。

中には代々継承されてきた家宝もあったようだ。


「公女様のことを本当に大事にされているのですね」

「当たり前だよ。何よりも大切な私の宝物だ。そしたらヒロくん、娘を見てやってくれ」

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