第6話 旅立ち
翌日も清々しい快晴だった。
そして、いよいよ今日からこの世界での冒険が始まる。
ヒロは昨日のうちに二人と話してこれからどのように生活していくか考えた。
「やっぱり僕はこの世界を見て回ろうと思うよ」
「やだあ!ヒロはずっとあたしと一緒にいてっ!」
泣きそうな顔をしたヨウちゃんがヒロの肩をポカポカと叩いている。
触れられないので身体は痛くはないが、心は辛い。
あ、次は蹴りだした。
「ごめんね、だけど僕はやっぱりいろいろな場所を訪ねていろいろな景色を見たいんだ」
「ううっ」
「ヒロを困らせてはダメだよ、彼には彼の人生があるんだから」
おじいさんもそう言いながら、ヒロに優しく微笑んだ。
「そしたらヒロ、昨日言ってたように、君は冒険者になるのかい」
「そうですね、こっちにつてもありませんし、教育機関にも行っていないので、誰でもなれる冒険者が一番いいかなと思います。それに依頼をかねていろんな場所にいけそうですし」
「そうか、そしたらこの森を抜けた先に小さな街がある。そこで冒険者登録してもらえるから、まずはそこにいくといい」
拠点が世界中の街にあることも、ヒロが冒険者を選んだ理由の一つだ。
「そうなんですね、じゃあまずその街を目指してみます。そしたら具体的な行き方を教えて・・」
「はいっ!あたしが案内するっ!!」
落ち込んでいたヨウちゃんが、突然元気になって名乗りをあげた。
「だけどヨウちゃん、街の中は好きじゃないでしょ?」
神には生活するうえで向き不向きな場所がある。
例えば水に関する神は水場を好み、ヨウちゃんやおじいさんは草木などが元気に育っている場所を好む。
一方で街など人の活気で溢れ自然が少ない場所にはあまり止まることができない。
もちろん逆の環境を好む神もおり、どこでも過ごすことができる神もいる。
「だから森の出口まで!ね、いいでしょ?」
そういいながら、ヨウちゃんは上目遣いでヒロに訴えかける。
うう、そんな目で見ないで・・
思わずヒロはおじいさんの方を向いた。
おじいさんは諦めた様子で、ため息をついてヒロに相談した。
「そうだね、この子にとっては初めてできた友達だからね。ヒロ、もし君が良ければこの子を案内役として森の出口まで連れて行ってくれないか?帰りは一人で帰ってこれるから」
「・・わかりました。そしたらヨウちゃん、森の案内係を頼んでいい?」
そう聞くと、ヨウちゃんは顔をキラキラさせると、姿勢を正し、右手の甲をこちらに見せながら顔の横につけた。
「はい、あたしヨウちゃんは、森の案内係としてヒロを無事街まで送りますっ!!」
どうやらこのポーズが、こっちの世界の”敬礼”らしい。
ヒロもヨウちゃんと同じポーズで応えた。
「どうぞよろしくっ!」
二人は数秒間同じポーズをとった後、笑いながらおじいさんとともに森の方へと歩き始めた。
森の入り口へ近づいていくほど、木々の大きさが見てとれる。
一本一本が高く幹も太い。
森へ入る前にヒロは最後の挨拶をした。
「短い間だったけど二人には本当に助けられました。何も知らない僕にこの世界のことを教えてくれて、そして何より大切な友達になってくれて本当に嬉しかったです。二人のことは絶対に忘れないし、いつか、また戻ってきます」
「ちょっと、あたしはまだ一緒だよ!」
「はは、ごめんね。ついうっかり」
おじいさんは柔らかな笑顔でヒロの方を見た。
「うん、また帰ってらっしゃい。いつでも待っているよ。もうここは君の家だからね」
ヒロの胸にその温かい言葉が染み込んだ。
「はい、ありがとうございます・・行ってきます!」
丘に咲く花の良い匂いが、風に乗せられ運ばれてゆく。
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