第5話 光れ
「さっきもいった通り、私たちは人間に危害を加えることはできない。一方で神々は”恩恵”という形で人間に自分の力を貸しているんだ。ほとんどの神は力を分け与えていなかったり、与えたとしても些細な程度なんだけど、一部の神は限度を知らず、むやみやたらに力をばら撒いている。そしてその力を一部の国や人々が独占し、私益を潤している」
酷い話だ。
ヒロは、その力に頼る他なく事実上従属化にある地域や人たちを思い浮かべた。
「あ、そうだ、さっき言ったことを一部間違えていたよ。普通の人は私たち神のことを見えないし話せない、って言ったけど、実は、中には神と話せる人間がいるんだ。神の”恩恵”を賜った人間は、その力を与えた神と話せるようになるんだ」
「と、言うことは僕は二人の”恩恵”をいただいているのですか?」
「いや、与えていない。君は元から私たちと会話できている」
「そうなんですね」
少し残念だ。
「はは、ごめんねヒロ。だけどそう簡単に”恩恵”を授けることはできないんだ」
「わかっています。だけど、どうして神は特定の国や人にしか力を貸さないんです?膨大な見返りをもらっているとかですか?」
「いや見返りなんてどうだっていいんだよ。彼らはただ、楽しんでいるんだ。そんな状況を。心のなかに抑えるしかない”破壊”の衝動を、人間を代替として解放しているんだ」
そう話すおじいさんの表情はだんだんと暗くなっていった。
「”恩恵”を賜った者を”恩恵人”というんだが、彼らの中にはやはり私利私欲で力を使う者もいる。そのせいで人間だけでなく、動物や私たちの化身である草木も多く死んでしまう。神々が見境なく力を与えているせいで、不適合な人に神の力が渡っているんだ」
「それがこの世界に神々がもたらした”災い”なんですね」
「そう、そういうわけだ」
ヒロは、この世界が決して美しいだけではないと理解した。
日が暮れ始めると、二人はヒロを大樹の枝の分かれ目に作られた小屋へと案内し、晩御飯をご馳走した。
彼らはほとんど森の幸しか食べず、食べられるきのみや山菜などをヒロに教えた。
そしてその他にもこの世界について様々なことを教えた。
例えば、この惑星にはネレウス大陸、つまりこの巨大大陸しかなく、小さな島はあるが、大陸と呼べるほど大きな島を現状まだ見つけられてはいない。
他にも、ヒロが話しているのはマーレ語、通称”人類共通言語”と呼ばれる言語だ。
そして、この世界の生態系と地球とではかなり異なっている。
地球と同じような動物もいるが、中には高度な知能をもち独自の文明を築いている種族もおり、そのような種族は、”○人”と呼ばれている(○には先祖とされる動物の名前が入る。つまり、ヒロは”猿人”に属する)。
お返しにと、ヒロも故郷のことについて様々な話をした。
この世界と共通することもあれば、全く異なる文化もあることを紹介し、それら全てを二人は面白おかしく聞いてくれた。
ただ彼は、自分が盲目であったことは話さなかった。
時間はあっという間に過ぎ、気づいた時には周りは真っ暗になっていた。
小屋の中は、ヨウちゃん(幼木の神の女の子のニックネーム。提案したら友達になった時と同じくらい嬉しそうだった。)が取って来てくれた、暖色に光るきのこによって明るく照らされている。
「ヒロ、夜空を見に行こう」
おじいさんの提案にヒロはあまり乗り気はしなかった。
夜空を見るためにはこの小屋を出て、大樹の葉っぱの下から少し移動する必要があった。
しかし、ヒロは外に広がる暗闇に足を踏み入れる気持ちにはなれなかった。
「早く行こう、ヒロ!」
ヨウちゃんは彼の気持ちなんてお構いなしに、扉の前で飛び跳ねながらヒロを待っている。
意を決して外に歩き出し、太い枝の先端部分まで向かった。
そしてゆっくりと顔を上げた。
「あぁっ」
そこに広がっていたのは、視界を埋め尽くす満天の星だった。
広い空を埋め尽くす輝度や色の違う星たちが黒い背景を煌びやかにし、右上から左下に向かって帯状に流れている天の川が宇宙の壮大さを物語っている。
自然が織りなす美しい天体ショーに目は奪われ、心は踊った。
思い出したくもなかった暗闇の世界が、美しい星たちによって色づけられていく。
いつの間にか流れていた涙は、自分ではどうにも止めることはできなかった。
「どうしたのヒロ、大丈夫?」
ヨウちゃんが心配そうに見上げている。
「ありがとう、僕は大丈夫、もう大丈夫なんだ」
「あ、流れ星だ!」
思わず目を閉じ、お願いを3回呟いてみた。
「何してるの?」
「ん、これはね、おまじない。僕の故郷では流れ星が流れている間に3回願い事を唱えれば、その願いが叶うっていう言い伝えがあるんだよ。まあ迷信だけどね」
「へえー。だけどヒロ、今なんか唱えてた!」
「あはは、聞いてたかぁ。ついね」
「何お願いしたの?」
「ん、そうだね」
「”これからも美しい世界をたくさんみたい”ってね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます