第4話 八百万の神々

もちろんおじいさんの話はすぐに理解できるものではない。

別の次元に生きている?八百万の神?

ヒロの頭の中にはてなマークがいくつも浮かんでいる。


「ここまでで質問はあるかい?」

「あの、何も分からなかったです。突拍子もなくて」

「そうだね、じゃあ最初に次元について答えていこう。んーどうやって説明しようかな。あ、そしたら私の身体に触ってごらん」

そういうと、おじいさんは自分の右手をヒロの方に伸ばした。

彼は恐る恐るおじいさんの腕を指でついてみる。


「ううぉっ?!」

なんとヒロの指はおじいさんの腕で止まることなく、そのままふっと中に入ってしまった。

ヒロは驚いてすぐに指を引っ込めた。

二人はそんな僕の反応を見て、にんまり顔を決めている。


「ど、どういうことですか?!何かに触れた感触もありませんでした」

「そう、まさしく異なる次元とはそういうことなんだ。二つの次元は決して交わらない。だから普通はそちらの世界の人々は私たちのことを見ることも話したりすることもできない。触れるなんて全くできない。だけどなぜか君だけは違う。もしかしたら君なら私に触れられるかも、と思ったがそこまでではなかったようだね」

ヒロはまだ信じられなかった。

なぜならこんなに二人のことが鮮明に見えているからだ。


「そしたら、二人はいつもはこことは違う世界で生活しているのですか?」

「いや、住んでいる世界は一緒だよ。んーもっと簡単にいうと私たちもアルカモア、この惑星の上で生活しているんだ」

「そうすると、一つの世界に二つの次元が共存しているってことですか?」

「そうだね共存だね」

「・・なるほど。正直完璧には理解できていないんですけど、なんとなくはわかったと思います」

「うん、時間をかけて慣れていけばいいよ」


おじいさんは話を続ける。


「そしたら二つ目の質問だね。”八百万の神”とは何か。この世界ではね、あらゆる物事や生物に”神様”と呼ばれる存在がいる」

「僕の世界にも同じ考え方がありました。ただ信じる人は少なかったと思いますが」

「そうなんだね、ただ、この世界には本当にいるんだよ。そして私たち二人も八百万の神なんだ」

そう聞いてヒロは改めて二人を見た。

まさか本当に神様というのがいるなんて。

しかも彼らと話してしまっている。

さらには女の子の方にはタメ口で。


「ごめんなさい、タメ口で話してしまって」

ヒロはおじいさんの横で暇そうに寝転がってる女の子に謝った。


「んん、全然大丈夫だよ。むしろ楽しい」

そういいながら女の子は起き上がった。


「あたしじいちゃんとばっか話すからこれまで友達とかいなくて。だから楽しいよヒロと喋るの」

照れくさそうに話す女の子の笑顔は少し寂しそうだった。

ヒロはほっとすると同時に、少し同情した。

彼も友達は決して多くなかったからだ。


「よかった、ありがとう。そしたら僕でよければ友達になるよ」

その瞬間、女の子の目線がヒロを捉え、顔がパッと明るくなった。


「ほんと?!ありがとう!やった、やったあ!」

女の子は飛び跳ねながら原っぱを走り始めた。


その様子を微笑ましく見ているおじいさんはヒロの方を向き直した。

「ありがとう、ヒロ。あの子は子供だからね、私はいたけど、今までもきっと寂しかったんだと思う」

「僕の方こそ、この世界で友達ができて嬉しいです」

「そうか、それならよかった。よしそしたら話を戻そう。私たちが”八百万の神”と呼ばれているのは、異なる次元に住んでいる、という他に確固たる理由があるからなんだ。おーい、こっちに来なさい」

向こうで転げ回っていた女の子は呼ばれていることに気づき、帰ってきた。


「なに、じいちゃん?」

「ん、ヒロにお前の力を見せてみなさい」

「うん、わかった!」

そういうと女の子はヒロに向かって笑顔を向けてきた。


「みててね」


ヒロが最初に感じたのはちょっとした違和感だった。

芝生に置いている両手が妙にくすぐったい。

何かいると思い地面を見ても、そこには草しかない。

しかし、その草たちがクネクネと動いている。


いや違う!

成長しているんだ、普通ではない速度で!


ヒロは思わず立ち上がり周りを見渡す。

すると周りの草がどんどんと伸びている光景が目に映った。

そして10秒にも満たない時間で手の厚さほどの短さであった草が、膝の高さまで伸びた。

我にかえって女の子の方を見ると、ヒロの反応に満足したのか、ドヤ顔で腕組みをしていた。


「これは・・・」

声に出なかったヒロの質問におじいさんは答えた。


「これは、この子の力。まだ若かったり小さな草木を自在に操ることができる。人はこの子のことを”幼木の神”と呼ぶ。ちなみに私は”大樹の神”だ。今この子がやったように樹木を操ることができる」

初めて見た現実的ではないその光景に、ヒロはただただ度肝を抜かれていた。


「どうヒロ、あたしすごいでしょ?」

「ああ、すごいよ、めちゃくちゃすごい!」

女の子は草を操って様々な形を作っている。

円柱だったものが、すぐさま階段のような形に変わっている。


「八百万の神はそれぞれ異なる力を持っているんだ。これが私たちが神と呼ばれる大きな理由だね」

驚きに満たされながらも、ヒロはしばらく彼女の力を見ている中で1つの疑問が生じた。


「だけど、こんなすごいならその力を使って何かしようとした神様はいなかったんですか?もしくは、この力を利用しようとした人類は?」

その問いかけにおじいさんは面白そうに反応した。


「鋭いね。まず、神が力を使って直接君たち人間に危害をを及ぼすことはない、いや正しくはできないんだ」

「できない?」

「そう、かつて自分の力でこの世界を牛耳ることを掲げた神がいて人間を見境なく殺したんだ。だけどそれに怒った創造主が彼を倒し、そして二度とこのようなことがないように、残りの神に呪いをかけたんだ。この世界の人間たちに危害を加えることができないようにする呪いをね」

創造主?八百万の神よりも上位の存在がいるのか?

ヒロはそう尋ねようとすると、おじいさんは彼の気持ちを悟ったらしく話を続けた。


「という伝説が残っているんだ。私個人としては、私たちが人間に危害を加えられない、という事実を無理やり説明するために作り出した話だと考えているがね」

「なるほど、おとぎ話のようなものですか」

「そう、そして私たちは事実人間に危害は加えず、むしろこの力を使って様々な恵みを与えているんだ。だから人は私たちのことを恵みをもたらす存在として崇めてくれているわけだ。ただね、神の中には、抜け道を見つけてこの世界に災いをもたらしている存在もいるんだ」

「災い?」

「そう、そしてそれを説明するためにはこの世界がどのような世界なのかを知る必要がある」


そしてヒロは、この世界が完璧ではないことを知った。

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