第6話 人形の魔女、イネス

 廊下の端に、ドアから光の漏れている部屋があった。

 誰かいたらまずい、と思い、足音を消して歩いていたけど、

「そこに、誰かいるの?」

 気づかれてしまった。

「……はい、新しい家政婦の、ウィルと申します」

「そう、ウィル。部屋へ入ってきてくれない?」

「かしこまりました」

 この館にいるのは、どうも全員が魔女らしい。今度はどんな目に合うかわからないけれど、ご主人様のいうことには従うのが家政婦の役目だ。

部屋に入ると、おびただしい数の人形が出迎えた。

「ウィル、ウィル、お水が飲みたいわ」

「かしこまりました」

 歌うようにぬいぐるみが動いて、喋る。もう僕は驚いたりしなかった。その日一日、ぬいぐるみたちの、クッキーが食べたいだとか、カーテンを開けて頂戴とかいう要望に応えて過ごした。そして一日の最後に、ぬいぐるみからではない声でどこからともなく

「ウィル、ウィル、素敵な子守唄をうたって頂戴、私はこの館で一番寂しい人形の魔女、イネスなの……」

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