第九話

次は電気だ。

「この蛍光灯は新しいやつですか?」

今度は大家さんに尋ねる。


「ええ、そうですよ。

新しい人が入ることが決まってから取り付けました」


「その時、点灯管てんとうかんも一緒に替えましたか?」


「点灯管?」


「はい。蛍光灯が光るために必要な器具

です。

この点灯管にも寿命があって切れかかると

新しい蛍光灯を取り付けてもチカチカ点滅するんです」


「あら、それは知らなかったわ。

いつもは主人がやってくれるものだから。

その日はたまたま私が取り付けたの」


「そうでしたか。

それではきっと点灯管が切れかかっていて

点滅していたんでしょうね」

怪奇現象だと思っていたことが次々と解明

されていく。

「他は何がありましたか?」


「脱衣所の鏡を見ると自分の後ろに人がいることと血のような跡があるって」


「それでは、脱衣所へ移動しましょう」

みんなで脱衣所へ移動した。

「このガムテープ、剥がしてもいい

ですか?」

警察は黙って首を縦に振った。

ビッシリ貼ってあったガムテープが取り除

かれていく。

「このシミですね。

確かに血の跡のように見えますね。

でも、これはシケと呼ばれていて鏡が腐食

することによって現れるさびです。

色は大体が黒なんですけどね」


錆…あいつは錆を血だと思い込み怯えていたのか。

それじゃ、後ろに立っていた人は何だろうか。


「鏡がだいぶん古いようですが、お風呂場をリフォームしたとき鏡は替えなかったんですか?」


「あ、ええ、鏡は替えずに昔のままなのよ」


「これは定かではないんですが、古くなった鏡は物が二重にじゅうに見えることがあると聞いたことがあります。

でも、いくら調べてもそのようなことは書かれてなかったのでガセかもしれません。

ご友人は確か視力があまり良くありませんでしたよね?」


「そうです。結構悪くて眼鏡外すとほとんど見えないって言ってました」


「もしかしたら乱視がひどくなってたのかな。

最近、眼科などで視力測定をしたという

お話は聞いていませんか?」


「たぶん、してないと思います。

眼鏡があってないかもしれないから診てもらったらとは言いましたが…」


「そうでしたか。

ここからは完全に僕の憶測ですが、乱視が

ひどいと見るものが二重に見えます。

焦点が定まらないんです。

ご友人は眼鏡を外しているときだけ

もしくはお風呂上がりに後ろに人が立っているように見えたんじゃないかな、と。

その後ろに立っているように見えた人は

自分自身が二重に見えていた可能性もあるかと思ったりもするんですが…。

これは完全に憶測で言っています」


あいつはあの時自分自身に怯えていたのか?

もしそうなら俺に見えるはずがない。

そんなことを思っていると突然ミシ…ミシ…

と音が聞こえてきた。

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