第1部 最終話 運命の悪戯
水江も琴音も呆然と立ち尽くしたままだった
「お姉さん……川崎先生が行ってしまった。どうする、お姉さん・・・」
「そうね、私は渡辺さんの家を知っているのよ。もしかしたら、帰っているかもしれない。行きましょう。」
「そうなの?」
「以前ね、忘れ物を届けに行ったことがあるの。」
「そうなんだ。」
「うん。」
水江も琴音も辛かったがそうする選択肢しか残されていなかった。
それから、以前に行った渡辺の家に向かった。
そして川崎家へ到着したが二人は複雑なだった。
「こんにちは。」
「あら、あなたは?」
「はい、以前お伺いした水江といいます。雄二さんは、いらっしゃいますか?」
「ごめんね、雄二は急いで出て行ってしまったよ。」
「なんとか、連絡を取ることができませんか。」
「そうね、渡辺家へ養子にいったことだし……」
「母さん、ギリシャの住所を教えてあげたらどうかね。」
「でも、あなた……」
「そうか、迷惑がかかるな……すまない、雄二はいろいろ事情があってな。」
「お父様ですね?」
「ああ、そうだ。」
「あら、水江さんのお隣のお嬢さんは?」
「妹です。」
「私は川崎先生にピアノを習っていました。」
「そう、可愛らしいね。実は家にも……」
何か事情があるのだろうか?
「お前、もう言わないと言ったじゃないか……」
「そうでしたね、申し訳ありませんがお引き取り下さい。」
「わかりました……」
「そういえば、雄二がピアノの楽譜を2冊置き忘れていったから、一冊は妹さんにあげようかしら。」
「ありがとうございます。大事にします。」
嘘は許すことができなかった
実は渡辺は実家にいたのだった。
「母さん、ごめんね。さっきは、下手な芝居までさせて。」
「いいのよ、雄二が言ったとおり、ちゃんと楽譜を渡したから。」
「ありがとう」
「でも、どうして楽譜なんて。」
「いや、気にしないでくれ。」
「わかったわよ。」
琴音の自宅にて渡辺のお母さんから頂いた楽譜を見て練習をしようとした。
「さっそく、家で練習してみよう。川崎さんを想って。よし。あれ、何か紙が……お姉さん。」
「どうしたの?琴音。」
「川崎さんの楽譜から紙が。」
「外国語で書かれているわね。もしかして、末尾に数字が書いてあるから、住所じゃないかしら?」
「そうかも、お姉さん。私は川崎さんに手紙を書く。」
渡辺は悩んでいた。しかし、本来教えるべきでないギリシャの住所を何らかの形で琴音と水江に知らせたかったのだった。
「私も書いてみる。そういえば、琴美も私も同じ人に恋をしているのね。」
「うん。でも、お姉さんは私のお姉さんだからね……」
「そうよ、琴美も私の可愛い妹よ。でも、雄二さんは私のことが好きだったみたいなの。」
「嘘をつかないで……」
「川崎さんは私に可愛いっていってくれて、他の生徒さんより長い時間、ピアノを教えてくれていたのよ。」
「それは、琴美が妹みたいに思っていたからよ。」
「ちがう、お姉さんこそ。」
「会社で一緒に働いていて、川崎さんは優しかったから勘違いしているのよ。」
琴音は渡辺が水江を愛していることは知る由もなかった。
それは、水江も同様であった。単なる渡辺の優しさであったのだろうと思っていたのだ。
「そうかもね……でも……」
「うん……」
「琴音、忘れよう。」
「うん。」
「琴音、泣かないで……」
「私も泣きたくなるでしょ。」
渡辺に記憶の波が帰ってくる。
「雄二、もう少しゆっくりしていったらどうだ。」
「ちょっと、寄って行きたいところがあって、また、帰ってくるから。でも、明日にはギリシャに帰らないといけないな。そうだ、今日の夜は前に野原でメザシを食べたよね。あそこで一緒に夕ご飯を食べよう。」
「そうだな、あの時は楽しかったな。雄二。」
あそこの野原とは何処で何があったのだろうか?
「父さん、やっぱりやめよう……」
「そうだったな……」
それは、川崎家に何があったのだろう。
その後、琴音と水江はどうしても渡辺の事を忘れることができなかった。
「お姉さん、私は川崎さんを忘れるためにお別れに行く。」
「どこに行くの。」
「それは秘密よ。」
「じゃあ、私もお別れに行こうかな。」
「お姉さんは何処に行くの?」
「私も秘密よ。」
一方で雄二は何かを考えていた。
しばらくは日本に帰ってこれないかもしれないから、理恵子に会いに行ってくるかな、
ごめんな理恵子……
あの時に……
会いに行くにはあの海辺を渡って行かないといけないのか。
そういえば、水江さんとここの海で一緒に過ごしたな。
海の前に、馬鹿でかい家も通らないといけないか。
琴音といえば思い出といえば渡辺から優しく教えてもらった大きな屋敷いくつもりだった。
川崎先生、最後のレッスンを受けに行きますね。
いつも習っていたピアノ教室に行ってみる。
そういえば、川崎先生と別れの曲を弾いたのを思い出すな。
私がメロディーを弾いて、川崎先生が伴奏を弾いてくれたよね。
もう、会えないのかな。
本当に別れの曲になっちゃった。
もっと、明るい曲を教えてくれればよかったのに悲しいでしょ。
川崎先生。
そうだ、お弁当を作って教室の玄関に置いていこうかな。
うん、そうしよう。
何を作ろうかな?
卵焼きに梅干し、梅干しは駄目よ、だって簡単だし、のせるだけでしょ。
う~ん、何にしよう?
目玉焼き。
ああ、駄目よ。
同じ卵でしょ。
ゆで卵、ああ、同じ卵じゃない。
よし、何とか作ったかな。
もしかして、運命の出会いで、ばったり教室で川崎先生と会えたりして・・・
私の分と二つ作っていこう。
うん、それがいい。
水江は思い出の海へいくつもりだった。
渡辺さんと海で一緒に過ごしたな。
また、行って、ピンクの貝を海に投げてお別れにしよう。
そうしよう。
雄二は琴音との思い出の教室に着いたのだ。
教室は誰か住んでいるのかな。まだ、住んでいないのか。
ちょっとだけ中に入ってみよう。おお、ピアノが残っているじゃないか。
琴音ちゃんと別れの曲を弾いたな。最後に弾いて、もうここで弾くのはやめよう。
偶然にも琴音は同時に教室に到着した。
あれ、中から別れの曲が、もしかして、川崎先生が弾いていいるの?
中に入ってみよう。
琴音は教室の中に入っていった。
「え、琴音ちゃん。」
「川崎先生。どうして、ここにいるの?」
「琴音ちゃんこそ。」
「先生にお別れに行こうと思って……」
「でも、本当にここでお別れだね。」
「うん、仕方ないです……」
「じゃあ、前に琴音ちゃんと別れの曲を弾いたよね。」
「うん。」
「一緒に、弾いてお別れにしよう。」
「嫌です。先生と別れたくないです。でも、わかりました。」
「よし、弾こう。」
「琴音ちゃん泣かないで僕も辛いじゃないか……それじゃ。一緒に弾いたしね。」
「待って川崎先生。そうだ、先生、お弁当作ってきたから、一緒に食べて。」
「ごめん、これ以上は辛いんだ……」
渡辺には楽しく琴音にレッスンしていた思い出が脳裏によぎったのだった。
そして、思わず家から走り去った。
「川崎先生、行かないで、あっちは海の方だ走って追いかけよう。待って、川崎先生。待って。」
「川崎先生、待って・・・」
はたして、琴音には何が待ち受けていたのだろうか?
よし、ここまで走って来たら、琴音ちゃんも諦めるだろう。
気づけば目の前に海か、ここで、水江さんと一緒に過ごしたな。
もう一度だけ会えないかな……
おや、貝殻が並んでいるじゃないか。
どこまで、続いているんだろう。
もしかして、水江さん。
貝殻をたどっていくと水江がいたのだった。
水江は貝殻を思い出の砂浜に並べていたのだった。
そして、ばったり出会ったのだった。
「渡辺さん……」
「水江さんじゃないか?どうして?」
「渡辺さんにお別れするために来ました。だって、婚約者がいるでしょ。」
「ああ、でも僕が本当に愛しているのは……」
渡辺はそれ以上言うことが出来なかったのだ。しかし、水江にはその気持ちが届いていなかった。
「駄目、それ以上言わないで下さい。悲しくなるから……」
琴音は走り去っていった渡辺を追いかけていった。以前に行った海の方角であったので、海へと向かったのだった。
もうすぐで、海よ、追いついて一緒に食べないと。
美味しく私のお弁当を食べてくれる渡辺さんを見てお別れしよう。
うん、そうよ。
川崎先生のために頑張ってお弁当を作ったから、喜んでくれるかな
瞬間は波の流れに逆らうことができなかった。
「でも、渡辺さん。」
「そうだよ、僕の気持ちを止めることは誰にでもできない。優しく、水江さんの髪が風に流れているよ。」
「渡辺さん、私も優しく……」
「いや、今日は水江さんを強く抱きしめる以外はないんだ。」
「そんなに強く抱きしめてくれたら、離れられなくなるじゃないですか・・・」
「いいんだ、駄目だ、止められない。水江さん、僕の方をしっかり見つめて。」
「目をつぶっていいですか・・・」
「水江さん、離したくない。」
水江さん、このまま時がとまってくれ。
そこに悲しくも琴音が追い付いたのだった。
あれ、先生とお姉さん・・・・
どうして・・・川崎先生・・・・・
川崎先生・・・・
うううう
「琴音ちゃんじゃないか。」
「琴音・・・」
「待って、琴音ちゃん・・・」
「琴音・・・」
「川崎先生の馬鹿。」
「馬鹿。」
「馬鹿・・・」
「うううう・・・」
「待って、琴音ちゃん。」
「琴美ちゃん、待って・・・」
馬鹿 馬鹿 馬鹿・・・・・・
第1部 完
第2部へつづく
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