花火の夜

 麻衣は窓を開けて大きく深呼吸した。部屋の窓から見える桜の木は鮮やかに紅葉している。種類によるのか、部屋から見える桜は、春は薄紅色に咲き誇り潔く散る。夏は新緑を纏い、秋は紅葉して他の木々と調和し、冬は全ての葉を落とす……。もうすぐ冬が来て、ハローウィン、クリスマスか……。今年は明日香とは過ごせないし、一人で過ごすのかな……。

 プーププッ。とりとめのない思考はNINEの着信音で途切れた。スマホを見ると、大樹からのメッセージだった。

『麻衣ちゃん、今週末土曜日、時間ある?』

『あるよ〜』

『映画観に行かない?』

大樹は上映を開始したばかりの大作の名を挙げた。

『観たかったの!行きたい』

『有楽町に14:00でいい?』

『了解〜』

 先程までの憂鬱な気分は吹き飛んでいた。大樹君と映画を観に行くの、初めてだ。楽しみすぎる。


「……ティム・ドローズ、良かった」

「あの音楽が、音響と連動して効果絶大だった!」

 映画で興奮した二人は感想を言い合い、やっと落ち着いてきたところで、これからどこに行くかという話になった。

「ちょっと早いから新橋まで歩いて、ゆりかもめで、お台場に行かない?買い物も出来るし。何か買いたいものある?」

大樹の提案に、麻衣は、

「うーんスニーカーが見たいかな。お台場行こう!」

と賛成し、二人は新橋方向に歩き出した。


 麻衣はお台場でスニーカーを買い、大樹は傘を買った。お店を見て周りながら、

「そろそろお腹すかない?」

「うん、空いたね!」

 二人でレストラン階の案内図を見て、メキシカンに決めた。レインボーブリッジに向かった席に着いて、お互いに好きなものを選んだ。

 食事が終わった後、自由の女神像の近くを歩いていたら、急に人が増えてきた。どうやら短時間だが花火大会があるらしい。

「花火、最近観てなかったな」

「せっかくだから観ていかない?」

 何かアナウンスが流れて、花火が上がり始めた。ハートや星の形の花火があったり、王道の大輪の花火が上がって、周りからも声があがる。

 ふと視線を横に上げると、大樹が麻衣を見下ろしていた。キスが降ってきて、麻衣は驚いて大きく目を見開く。大樹は顔をくしゃっとして子供のように笑っている。照れているらしい。花火と大樹が重なって、麻衣も花が開いたように笑った。

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