第3話 お金ばかりかかる子

私は 三人兄弟の末っ子で生まれ


1番 体が弱かった。


この体が弱いのは 家庭環境の影響が原因だと先生は言ってたが


当時の私は ただ自分が悪いんだと思っていた。


今でも鮮明に覚えてる。


あれは 4歳の頃。


暑い夏の日


母は日傘をさし


私は その後ろを汗を流しながら


必死に追いつこうと 足速で歩いていた。


時折 咳をつくと


母は苛立ちを地面に向けていた。


地面に踏み締める足が力強く ドンっと鈍い音を鳴らす。


必死に咳を抑えようと 両手で口を抑えた。


それでも どうしても咳が止まらない。


ゴホッゴホッ。


痰が絡む咳。


喉が焼けるように熱い。


こんな真夏なのに 汗も流れているのに


私は寒くて 頭がクラクラして


息も苦しかった。


しかし 母が振り向く事はない。


病院の帰り道はいつも機嫌が悪かった。


原因は わかっている。


風邪をひいた 私のせいだ。


咳が止まらない私に嫌気がさした母が


大きなため息をつき


荒々しく振り向いた。


冷たい目。


汚い物でも 見るような目だ。


私は この眼差しが怖かった。


「いっつも いっつも」


小さな声で 怒りを倍増させる母。


日傘を持つ手に力が入る。


くる!


とっさに目を閉じ


「あんたは!」


「ごめんなさい!」


母が喋ると同時に誤った。


「風邪をひいて ごめんなさい。お金がかかってごめんなさい」


これ以上 怒らせないよう必死に誤った。


「ごめんなさ……い」


自分のせいで お金がなくなった。


お金がないのに。


自分のせいで。


涙がポロポロと溢れ出る。


そんな私を見ても 母は顔色変えず


「お金ばっかり かかる子だね。アンタわね!兄弟の中で 1番お金がかかって 苦労ばっかかける 疫病神だよ!」


フンッと鼻をならし


それでも スッキリしない母は


先ほどよりもスピードを上げ 後ろを振り向く事はなかった。


小さくなっていく母の背を見つめ


「ごめんなさい」


と誤り


涙を拭いながら もう見えもしない母の元へと歩いた。


これは 今に始まった事ではない。


病気をするたび 言われてきた言葉。


熱が出て 氷枕や 体温計を優しくはかってくれた事は?


何か食べたい物はない?


具合はどう?


と優しく声をかけられた事は?


今これを書いていても その記憶を思い出す事ができない。


ただ 自分の体が弱い事に


とても罪悪感を持ち


愛されないのは自分のせいだと


記憶がある時から 家族に迷惑をかける自分が大嫌いだった。

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