第30話 スティーブン・サマーズ博士の研究日誌
私の名はスティーブン・サマーズ。米軍主導のある研究に長年着手している。齢はもう60を超え頭髪だけでなく自慢の長髭も今ではすっかり真っ白になってしまっている。
ところで戦場において疲労を知らず昼も夜も戦い続け負傷したとしてもあっと言う間に治癒し前線で戦い続ける怪力の兵士というのは確かに理想だろう。私はそれを現実にする為のいわばお手伝いをしているというわけだ。被験体は主に捕虜収容所の収容された捕虜たちだ。倫理的に見てこれは眉をひそめる人々がいるという事は想像に難くない。だが奴らは元々はきわめて破壊的なテロリスト達だ。これくらいは役に立ってもらってもお釣りが来るというものではないだろうか。
プロセスとしてはこうだ。超強化精製剤を被験体に注入する。これが成功すれば被験体は人並外れた治癒能力、身体能力を身につけるはずだ。だがこの試みはいずれも悲惨な結果に終わった。超強化生製剤を注入した被験者は副作用で突然死するものが後を絶たなかった。運良く生き延びた被験者も今度は精神が破綻をきたし廃人と化した。どうやら超強化精製剤を注入しそれに耐えられるのは強靭な身体能力に合わせて強靭な精神力の持ち主だと。精神力という数値化するのが難しい指標はいささか非科学的に思えるかもしれないがだがそうとしか言いようがない。
そのような試行錯誤を重ねていた矢先、ついに成功例が現れた。被験体は捕虜収容所から来たある男だった。筋肉の鎧をまとったそのたくましい肉体はフィジカル面においては悪くない。精神面でもこいつとにかく凶暴で捕虜収容所では米兵からどんなにタコ殴りにされようにされようが決して戦意を失わず逆に彼ら米兵を次々と病院送りにした暴れ馬だ。こいつならという予感と期待が最初からあった。こいつを大人しくさせて実験を実行するのにあたり米兵と研究助手が何人か病院送りにされる羽目になったが。
実験の結果は目覚しいものだった。もともと180センチメートル以上あった奴の身長は成長期を過ぎてるにも関わらず208センチメートルにもなった。超人的に身体能力、治癒能力を奴はついに手に入れたのだった。副作用としてその顔面がケロイド状になるという代償を払いながら。
私がその名を耳にした時には思わず耳を疑ったものだ。ケイン・フリーマン・Jr.。偉大なる大統領であったカイル・フリーマン・Jr.の孫であると。しかし彼がなぜこのような戦場に?と思わず思った。彼自ら
志願したと聞いた。なるほどフリーマン一家が根っからの愛国者というのはどうやら本当のようだ。
しかし彼の肉体は爆破テロの影響を受けズタズタだった。首の皮一枚で生命がかろうじて繋がっているというところだろう。シンプルな表現を用いれば危篤状態にありきわめてまずい状況にあるということだ。大抵の医師は彼を見てもはや死を待つ身であると匙を投げるかもしれない。だがしかし祖国にいる彼の母君はそれを望んでいないようだ。ただでさえフリーマン一家の人間はまるで呪われたかのように短命であるのが望ましくない伝統である。彼の祖父の大統領でありながら若くして暗殺される羽目となったケイン・フリーマン・Jr.はまさにその筆頭だろう。
我々は彼にやむなく超強化精製剤を注入した。うまくいく保証はどこにも無い。どうせ朽ちる運命の命だ。博打を打ってみてもよかろう。そう思ったが結果は私の予想を裏切るものだった。注入後、彼のボロボロの身体はみるみるうちに驚異的な速度で治癒していった。私は副作用に肉体が耐えられないと思ったがその予想は外れたようだ。どうやら彼は持っているようだ。強靭な身体能力に加えて精神力というやつを。
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