第29話 見つめていたい

 やあ本作の主人公のお出ましだ。今、俺は東北地方の海岸にいる。もうすっかり太陽は空高くに上がり光り輝いている。俺の目の前ではアマテラスことアホみたいなツインテール女が体育座りで砂浜に腰掛け背を向けて佇んている。お姫様は嫌というほど俺に火の玉を投げつけ続けややお疲れのようだ。


「アマテラス、いい加減みんなのもとに帰ろう。きっと心配してるはずだ」


 俺は背を向ける彼女に声をかける。


「あんたが余計な事を言わなければこんな事にはならなかった・・・」


「それについて悪かったが俺は率直な感想を述べたままだ」


 俺は言う。アマテラスは照れたのかさらに背中を丸めて見せる。やれやれこのお姫様には困ったもんだ。俺は思いきって奴の隣に腰を下ろし座り込んで見せる。奴はビクッとして見せるも視線を俺と反対方向に向けて見せる。


「前から気に入ってたんがどうしてそこまで目を見られるのを嫌がるんだ・・・」


 アマテラスはしばらく無言を貫き口を開いてみせる。 


「中学生の頃かしら。異性が気になる年頃よね」


「まあ、わかるよ」


「私は同じクラスの男子の木下優一くんの事が好きになっちゃったの。あれは休み時間の事だった。不意に彼と目が合っちゃったの。その瞬間、私は彼のことを熱く見つめちゃって。そしたらどうなったと思う?彼の身体が燃え始めたの。彼は悲鳴を上げて周りが大慌て消火器で消化した。つまり私は好きな男の子を危うく焼き殺すところだったわけ」


 熱視線というわけか。アマテラスを視線を集中させた先を超高温で熱する能力を持っている。


「それは確かにトラウマになるよなあ。それ以降、目を見られるのが駄目になっちまったわけか」


 アマテラスは海に向けて体育座りで佇んでいる。そうしているうちにも太陽の位置は上昇を続けている。


「アマテラス、俺でよかったらその、何だ。お前のトラウマを少しでも克服出来る助けになれるかもしれない」


「どういう意味?」


 背を向けたままアマテラスが答える。


「俺は確かにバカだがとにかく丈夫なのが取り柄だ。とにかくこっちを向いてくれ」


 アマテラスが顔だけをこっちに向けて見せる。日光に照らされたその顔に俺は思わず美しさを感じてしまう。


「俺の目を試しに思いきり視線をやればよい。遠慮は無い。丈夫な事では定評があるからな」


「そんな事して何になるのよ」


「俺としてもいつもサングラスとやらで目元を隠したタモリみたいな陰気くさいなメインヒロインはもうごめんだ。清楚系の黒髪セミロングのヒロインに変えてもらいたいが作品の都合上、難しいみたいだ」


「あんた何を言ってるのよ・・・」


「さっきを思い出せよ。燃え盛るお前を抱えても何ともなかった。普通の人間ならあっと言う間に燃え尽きるとこだが」


「意味わかんない」


 お姫様は頰を膨らませてそっぽを向く。ここはちょっと煽ってみるか。


「怖いのか、アマテラス。バイザーやサングラスなんて捨ててかかってこい!」


「うるさい!」


 アマテラスはムキになって俺の方に振り向き熱視線を浴びせてくる。


「そんな熱い視線を送られると照れるよ」

 

 俺の思惑通りにアマテラスはその両目から熱視線を放出しながらどんどんにじり寄ってくる。気づくとお互いの鼻先が触れ合いそうになるほどに。


「こんなに接近しても平気なわけ?」


「ちょっとまつ毛がチリチリする気がするけどへっちゃらさ」


「おお・・・すごい」


 アマテラスは思わず感嘆する。彼女の両目はもはや双つの太陽として超高熱を放っている。力を使い果たしたのかアマテラスの両目から光と熱が失われる。


「本当に平気なのね・・・あんた、どんだけ丈夫なのよ」


 アマテラスは眼科の触診みたく俺の顔を両手で挟み込み珍しいものを見る目で顔を近づけて食い入るように見る。思えばリアル女子にこんな顔を近づけられるのは初めてだ。


「気が済んだか。いい加減に皆の元に帰ろう。韋駄天も心配してる」


「そうね」


 と言い両手を下方に向け飛行体勢を取る。しかしその両手からはボッボッと間の抜けた気の抜けた音が出て一瞬、炎が出現するもすぐに消えてしまう。ガス切れってわけか。


「力を出し尽くしちまったようだな。俺が送るよ」


「歩いて帰る」


 お姫様はプイッと背中を向けて歩き出そうとする。


「どれだけ時間がかかると思うんだ。頼むから言うことを聞いてくれ」


 そう言うとアマテラスは渋々と俺に歩み寄る。


「変なとこ触ったら焼き殺す」


「はいはい。つかまって」


 アマテラスは両手を俺の首に回す。


「ちょいと失礼。これくらいは我慢してくれ」


 俺はに両手を回し彼女の細い腰を優しくつかむ。お姫様はやや不服そうだが。


「じゃあ、行くぞ」


 俺はアマテラスを抱えたまま再び上空に飛翔する。




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