第28話 合衆国最後の日 後編
ここはホワイトハウス。アメリカの中枢である。時刻は早朝。早くも灰色の雲と空の間から輝く朝日の姿が顔を覗かせている。その向こうからは凄まじい轟音のハーモニーが聞こえてくる。
「バーンズ大統領!早くヘリに乗って避難するようお願いします!」
ホワイトハウスの男性スタッフが叫ぶ。私は急いでヘリに乗り込む。いつかこのような日が来る事はうっすらではあるが覚悟はしていた。彼が登場してからというものこの世界の縮図は塗り替えられてしまった。その名はゴッドウィンド。米軍の間で彼はカミカゼボーイとも呼ばれるらしい。国連はゴッドウィンドを世界共有しその管理下に置く事を日本政府に求めた。だが彼らが最強のカードをみすみす手放す事はなかった。日本政府はその要求をいともたやすく蹴ってみせた。彼の存在は我らの同盟関係にも影響を及ぼした。在日米軍の撤退、日本の憲法改正、核武装それらはまるで昨日の出来事のように思われる。
日米はこれまで散々と協議を重ねてきた。だがそんな試みも結局は無駄だった。日米はついに再び戦火を交じえることになった。初めは我々、圧倒的な軍事力を持つ米軍が優勢であった。だが日本側は停戦交渉において日本側の要求を呑まない場合、彼らの戦時投入をちらつかせてきた。その彼らというのは先にも述べた。ゴッドウィンドことカミカゼボーイ。アマテラスことファイヤーガール。韋駄天ことスピードガールだ。日本側はゴッドウィンド以外にも切り札を2枚も用意していたというわけだ。
戦いの火蓋は切られた。それをもとに戻すわけにもいかない。ついに彼ら3人の超人たちが我がアメリカに侵攻するに至った。彼らなら海を越えて我がアメリカ大陸に上陸することなどいとも容易い。当然ながらアメリカ本土では彼らをおもてなしするのは我が地上最強の米軍の役目だ。だが結果は悲惨なものだ。ゴッドウィンド、カミカゼボーイはあらゆる攻撃を物ともせず跳ね返してしまうし。アマテラス、ファイヤーガールはいくら攻撃しても身の回りの温度を超高温とするので銃弾は全て溶解してしまうし砲弾は彼女に着弾する前に爆発して消えてしまう。韋駄天、スピードガールは超高速で移動出来るためにあらゆる攻撃をいとも簡単に全てかわしてしまう。
ゴッドウィンド、カミカゼボーイは太平洋上において我が米軍の主力艦隊のほとんどをたやすく全て沈め海の藻屑としてしまった。アマテラス、ファイヤーガールはロサンゼルスで我が米軍陸軍と接敵し都市ごと焼き払った。韋駄天、スピードガールは超高速で回転し続けることによりハリケーンをいくつも発生させそれら我がアメリカの都市を破壊し続け蹂躙し続けている。もはやこれまでか。私は米軍のヘリによってホワイトハウスから避難しようとしている。彼が近づきつつあるという情報を聞いて。ヘリの周囲にはライフルを抱えた米兵たちが待機していた。私はホワイトハウスのスタッフと米兵に誘導されヘリに乗り込む。
早速ヘリは離陸する。浮遊していくヘリの中で側近からは我がアメリカ本土が受けた被害の報告を聞く。それを我が耳を疑うようなひどいものだった。我がアメリカ本土は今まさに9.11を遥かに上回るスケールで破壊されている。ここから体勢を立て直すなど可能なのだろうか。そう思ったまさに矢先だった。
「クソ!奴だ!」
ヘリのパイロットが叫ぶ。我々の乗るヘリのまさに目の前に彼はいた。例のスーツを着用して空高く浮遊している。その姿はこうして見ると改めて小柄で子供のように見えてしまう。パイロットはヘリに装備されている機銃をありったけ彼に撃ち込む。だが銃弾の雨は彼の身体を貫くことなく全て弾き返されてしまう。やがてこちらを睨む両目が紅く光り輝く。ゴッドウィンド、その姿はまさに悪魔か。彼の両目から紅い光線が放たれる。ヘリは緊急回避しようとするが時すでに遅しだ。
「ローターをやられた!」
パイロットが叫ぶ。我々の乗ったヘリは凄まじい勢いで回転して行きながら墜落していく。機内にはけたたましいサイレンと絶望に満ちた悲鳴で埋め尽くされていく・・・
「あなた・・・あなた・・・!」
寝間着姿の妻のアマンダが私に呼びかけている。私はベッドの上で目を覚ます。
「どうしたの・・・ひどくうなされてたわよ。汗だくじゃない」
そうだ。ここはホワイトハウスの寝室か。どうやら私は悪夢を見ていたようだ。
「悪い夢を見てしまってね・・・」
「そう・・・シャワーを浴びた方が良いわ」
「そうすることにするよ」
私はシャワーを浴びバスローブ姿で居間にあるテーブル前の椅子に腰掛ける。グラスに入れたウィスキーのロックを乾いた喉に流し込む。冷えたグラスを火照った額を当てる。あれが本当に夢で良かった。だが、彼ら3人の超人が現実に存在し未だ我が国だけでなく国際世界にとって脅威なことは動かし難い事実なのだ。
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