第19話 星条旗よ永遠なれ

 ここは中東の砂漠。我々は米軍の軍用トラックで輸送され揺れている。同乗してる黒人兵が私に聞く。


「名前は?」


「ケイン・フリーマン・Jr.」


「何か聞いたことある名前だな。もしかしてあのフリーマン一家の人間なのか?」


「そうだ」


「するってえとあの暗殺された大統領の孫ってわけか?」


「そうだ。カイル・フリーマン・Jr.は私の祖父だ」


「そりゃすげえ!大統領の孫ってわけか!そんなお坊ちゃんがどうしてこんなクソの肥溜めみたいな戦場にいるんだ?」


「我がフリーマン一家の家訓は祖国アメリカに尽くすことだ」


「あんたは変わった野郎だよ」


 黒人兵は笑みを浮かべながらまんざらでもない様子で語る。


「君の名は」


「何だって?」


「私はちゃんと名乗った。今度は君の番だ」


「俺はサミュエル・スナイダー」


「良い名だ。よろしく」


「こちらこそよろしくだ。大統領閣下」


 スナイダーは冗談っぽく返す。


 車が停車する。ここからこの地域を探索する。石造りの住居が立ち並ぶ。今日はここら一帯を散策するのが我々の任務というわけだ。


 我々はライフルを構えながら住居のひとつひとつを探索していく。全くどこがテロリストの拠点になっているか想像もつかない。私の背後の先ほど会話を交わしたサミュエル・スナイダーがぴったりと後を付いてくる。


 そんな中、私はとある石造りの住居に入っていく。中は薄暗がりでよく見えない。ようやく目が見えたてきた・・・


「待て・・・!」


 私は思わず叫ぶ。視線の先には腹部が膨らんだひとりの女性が立っていた。その全身は黒い衣服にすっぽりと覆われていた。


「どうやら妊婦のようだ。みんな撃つな」


「おい。どうするよ」


 スナイダーが私に語りかける。


「そうだな・・・」

 

 私は答える。と同時に一抹の違和感を感じる。何だ?相手から微かな敵意のようなものを感じる・・・


 ハッとした瞬間、女に視線をやるとその手に起爆装置が握られていた。その表情には何とも大胆不敵なものが含まれていた。


「しまった・・・!こいつは妊婦なんかじゃない・・・!」


 女は不敵な笑みを浮かべながら起爆装置のスイッチを押すのが見える。


「スナイダー!」


 私は咄嗟に隣にいたスナイダーに覆い被さる。次の瞬間、凄まじい轟音が我々を包んだ。



数年後



「それではケイン・フリーマン・Jr.議員の登場です!」


 アナウンスが響き会場内の聴衆が一斉に沸き立つ。星条旗の青を思わせる真昼の青い空に大勢の聴衆。私は聴衆に向かって手を振りながらステージ中央の演説台に歩み寄って行く。演説台には一台の大きなマイクがそびえている。ここからの私の独壇場だ。


「ここにお集まりの皆さん。そしてこのアメリカ国民の皆さん、今晩は。私はケイン・フリーマン・Jr。あなたがたに奉仕するのがその役目であることを熟知しここに立っている。説明するまでもないかもしれないが私の祖父はカイル・フリーマン・Jr.。この国の大統領でした。残念ながら私の祖父は志半ばで凶弾に倒れました。私は彼の意志を継ぎこの国を改めて偉大な国にしたい」


 聴取から拍手喝采が湧く。私はさらに続ける。経済問題から外交問題と多岐に渡り語り続ける。ここいらでこの話題にも触れておかなくてはならないだろう。


「ゴッドウィンドが登場して以来、世界情勢は大きく変わりました。それは我が国といえ無関係とはいきません。正直に申し上げて我が国の威信は大きく揺らごうとしている。それは認めざるおえない。だが皆さんには思い起こして頂きたい。大局的に見れば我がアメリカは常に勝利し続けてきた誇りある国だということを」

 

 聴衆は興奮気味に拍手の渦を巻き起こす。ここらで私は例の決め台詞をお見舞いする。私は右手を力強く高く掲げる。


「星条旗に栄光あれ!」


 と同時に聴衆は沸き立ち同じように右手を高く掲げ口々に叫ぶ。


「星条旗に栄光あれ!」


 沸き立つ聴衆を前に私は会場を後にする。

 

 帰路。秘書のバーバラが運転する車に私は揺られていた。辺り一帯はすっかり暗くなっていた。


「反応は上々だったみたいだったみたいね」


「ああ。スピーチの練習の甲斐があったよ」


 ここら一帯は昔は工業地帯として栄えたものの今ではすっかり寂れ路上にはホームレスやジャンキーの姿が見られる。路上裏に目をやる。


「止めてくれ」


 私は秘書のバーバラに言って車を停めさせる。


「この指輪は母の形見なんです。勘弁してください」


「他にめぼしい物なんて持ってやしないじゃねえか。さっさとそれをよこせ」


 年老いた婦人に痩せぎすの野球帽を逆に被りトウモロコシのひげのようにだらしない長髪を伸ばした若い白人の男が拳銃を突きつけて脅している。ジャンキーによる麻薬を買う金欲しさの犯行といったとことか。男はいつの間にか背後にいた私に気付く。


「何だてめえは!」


 男は発砲する。私はすかさず男の手に握られた拳銃を奪い取り軍隊で習った要領で瞬時にバラバラに解体する。男は青ざめて背中を見せて逃走していく。


「ありがとうございます」


 婦人は涙ぐみながら感謝する。


「良いんですよ。気をつけて」


 私は自宅にてシャワーを浴びている。バスルームの鏡に映し出された己の肢体は我ながら鍛え上げられている。床に一筋の赤い血の筋が流れる。先ほど被弾していたようだ。銃創に意識をやる。力むと内部の弾丸がこぼれ落ちカチンと音を立ててバスルームの床に落ちる。銃創はみるみると何事もなかったように塞がっていくのだった。






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