第20話 ヒーローになる時、それは今
やあ、やっと本作の主人公のお出ましだ。その俺は何をやってるかと言えば今日の夜0時から放映予定のアニメ「いじくり上手の片井さん」の記念すべき第4期、第1話の放送開始日だ。それに向かってスタンばってるというわけだ。
昨今では配信サービスが充実しているとはいえアニメというのは生のリアルタイムで見るに限る。ライブ感があるだけでなくSNSで感想を共有しあう。この醍醐味が肝心なんだ。俺は4Kテレビの前でスタンバイする。もうすぐ始まるぞ。と思った矢先、テレビが緊急放送に切り替わる。テロップを読むと東北地域で大震災が発生とある。愛くるしい片井さんの姿を待ち望んでいたのにこれは一体どういうことなんだ。
俺のいる地下施設内にサイレンが鳴り響く。
「東北地方にてマグニチュード9.0の 震災が発生しました。 ゴッドウィンド 直ちに 出動してください」
女性カスタマーの声が響く。
「首相官邸より出動要請が出ています。ゴットウィンド、直ちに出動してください」
はいはい。わかりましたよ。俺はやむなくスーツに着替えヘッドセットとアームバンドに小型のタブレットを装着する。
俺のいる地下施設から地上へ通じる射出口がブーブーという音と共に開いていく。
「射出口開閉完了。ゴッドウィンド出撃してください」
アナウンスが響く。やれやれと思いながら俺は飛翔し射出口から飛び立ちアームバンドの装着されたタブレットに表示された地点目がけ飛んでいく。
「力人くん。今晩は」
ヘッドセットから丘学人の声が響く。
「今晩はもクソもない。今頃、俺はいじくり上手の片井さんの第4期アニメの第1話を楽しんでいるはずがこんな真夜中に田舎に向かった飛ばされてる」
「アニメなんて後からいくらでも見られるだろう。今はそれどころじゃない」
「わかってないな。採れたての野菜や魚が一番美味いようにリアルタイムで観るのが一番なんだ」
「とにかく今は辛抱してくれよ。人命がかかっている。それから今回は君だけでなく他の超人2名も召集されている」
「何だ。あいつらも来るのかよ。共同作業は得意じゃない」
「今回は君ら超人3人のコンビネーションを図る良い機会だ」
「コンビネーションねえ」
千石諸島のひとつ大乃島は俺の住処だが他の島の西南島には韋駄天、樫実島にはアマテラスが配備されている。
ふと下界に向けて目を凝らすと海上の水面を凄まじい波しぶきをあげながら超高速で走る小柄な女がひとり。あれが韋駄天だ。何を言ってるのかわからないかもしれないが紛れもなく現実の光景だ。飛行する俺の右側に目をやると嫌でも目につく。両手両足から炎を吐き出しながら飛行する人間ロケット女ことアマテラスだ。闇夜の中でオレンジ色に発光する姿は嫌でも目立つ。
ここは被災地の真夜中の中学校の校庭だ。ここが集合地点らしい。校舎を見ると全壊は避けられたもののひび割れガラスは砕け散っている。到着したのは良いが早過ぎたらしくいるの俺ら3人だけだ。俺と韋駄天、アマテラス。韋駄天もアマテラスも俺の髪の毛を培養した特殊なスーツを装着してる。韋駄天いわくあまりに高速で移動すると衣服が摩擦熱で焼けてしまうらしい。アマテラスは太陽人間なので普通の衣服を着て力を解放すると当然ながらあっと言う間に焼け落ちて全裸になってしまう。
韋駄天が煙草にオイルライターで点火するカチンという音が静寂のなか響き渡る。こいつは丘学人に言ってスーツに煙草とライターを収納するポケットを付けてもらったらしい。俺の目の前で小学生か中学生かにしか見えない。ランドセルがよく似合いそうな合法ロリ女が涼しい顔で煙草をくわえ紫煙を揺らしている。一方アマテラスは目元にガンバイザーを装着して押し黙ったまま突っ立っており表情は窺い知れない。
ちょっと待ってくれ。ここはヒロイン枠として全員、俺にゾッコンな巨乳の五つ子美少女姉妹とか出すべきではないだろうか?それが何で頑なに目元を見せない陰気くさいアホみたいなツインテール女のアマテラスにショートカットの目つきの悪いヘビースモーカーの合法ロリ女の韋駄天なんだ。全くこの作者はエンタメってものがわかってない。
と思ってた矢先、自衛隊のヘリが頭上に数台ほど飛んで来る。ようやくお出ましてわけだ。
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