第18話 Hot Stuff

 私の名は天野裕美。宇宙飛行士だ。ここは国際宇宙ステーション。マイクにアマンダ、ジャンと世界各国から選ばれたクルーが様々な実験を行っている。


 現在、私は宇宙服を来て船外の宇宙空間上でステーション修理作業を行っている。


「調子はどう?」


 無線越しにアマンダが聞く。


「もうちょっとで済むわ。早く帰還して食事にしたいものだわ」


「そうね。早く帰ってらっしゃい」


 作業も大詰めだ。ここいらで終わらせてしまいたい。作業にも熱が入る。そうやって作業に夢中になっていた矢先だった。


 気づくと私の近くに円環状の閃光が走り宇宙空間に突如として穴としか形容出来ないものが出現した。


「え・・・」






 と思った瞬間、私の身体は抗いがたい引力で穴の中に吸い込まれていったのだった。




 ふと意識を取り戻す。先ほどの光景は悪夢でも見たのだろうか。次の瞬間、それが希望的観測であったことを思い知らされる。


「ステーションが無い・・・!」


 さっきまで私の目の前にあった巨大な宇宙ステーションの姿が無い。ありえない。このような巨大なステーションがいきなりどこかにどこかにいくはずがない。私は異なる空間に飛ばされたのだろうか?と思っていた瞬間、私の身体はどこかに向かって強く引き寄せられていった。



数年後



「お名前は?」


 目の前の白髪の白衣姿の博士が私に聞く。


「天野照美です」


 私は答える。目の前の白衣姿の博士はまたも聞く。


「お年はいくつになるのかな?」


「5歳です」


「そうかい。おじさんにも娘がいてね。もう大学生になる」


「あの、おじさんのお名前は・・・」


「私?確かに君にだけ名乗らせるのも失敬かもしれない。」


 白衣姿の白髪の紳士は咳払いして答える。


「私の名は麻堂冴人まどうさえと。君のお母さんの実験に携わっている」


「じっけん・・・?」


「まだ幼い君には難しいかもしれないね。」

 

「この実験場で君のお母さんである天野裕美さんについて色々と調べているんだ。お母さんの身体にはまだまだ未知の部分がある。それを調べたい。うまくいけば我々は新しいエネルギー源を手にすることが出来るかもしれない」


 



 私は意識を取り戻す。一体、何があったのだろう。あたり一面に焦げ臭い匂いが充満し炎が舞っている。徐々にぼんやりとしていた視界も効くようになり私はある事に気づく。


「ヒッ・・・!!」


 それは人体だった。人体だったものと言ったほうが正確だろうか。それはプスプスと煙を上げて焦げていた。一面、黒焦げで人体と気付くまで時間がかかった。一体、何が?私は一生懸命に記憶の糸をたどり寄せる。


 実験場のモニターには耐火性のあるスーツを着た母が映っていた。スーツは耐火性があるものの一定の温度を超えると燃え尽きてしまうと麻堂博士は言っていた。母はその室内の温度を自在に上昇させることが出来た。麻堂博士は母の身体そのものが小さな太陽なのだと言っていたが私にはよくわからない。宇宙飛行士時代に起きたアクシデントにより特殊な力を得たのだとか。


 麻堂博士はマイク音声でモニターの中の母に語りかける。


「天野さん。今日はいつもより力を解放してみよう」


「はい。先生」


「今日は娘さんも見守っている。頑張って」


 サイレンがけたたましく鳴り響く。


「温度がさらに急上昇!このままで耐火室のリミットをオーバーしてしまいます」


 若い女性の助手が叫ぶ。


「このままでは本人も肉体も持たないかもしれん。天野さん!温度を下げるんだ!」


 マイク音声で麻堂博士がモニターの中の母に向かって叫ぶ。モニターの中の母はもうすでに私の知る母ではなかった。母の全身は前に科学の図鑑で見た太陽の表面そっくりにオレンジ色に眩く発光していた。それは母自身にも制御しきれないものであることは子供である私にも何となくわかった。次の瞬間、母の肉体は崩壊し破裂し周囲は炎に包まれそれは私のいる場所までに及んだ。


 私は燃え尽きた空間でむっくりと起き上がる。かつて衣服と呼ばれたものはすっかりと炭と化していて私はほぼ全裸の状態だった。ここで私にひとつの疑問が湧き上がる。なぜ周囲の他の人たちは焼け焦げて黒い物体と化しているのに私の体は何ともないのだろうか?と思った次の瞬間、私の肉体はオレンジ色に発光した。


「燃えてるの?」


 いや、燃えているの私の身体の表面ではない私の肉体の内部が燃えオレンジ色に発光しているのだ。


「何・・・これ・・・!?」


 





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