第15話 偽りの神
「悪夢の民衆党政権!この3年間、民衆党の無為無策な経済政策により失業率はうなぎ登り!また北朝鮮による我が国へのミサイル発射、中国による我が国への領海侵犯が相次いでも民衆党政権はあいも変わらず弱腰外交を続け我が国の威信は地に落ちました!」
総理大臣である安原英夫はマイクに向かって雄弁する。観衆の歓声と共にブーイングも聞こえる。「安原、死ね!」「ファシスト!」などの罵声も聞こえてくるがおそらく民衆党支持者のものだろうか。俺は壇上の地下でスタンバイしていた。今日は俺のお披露目イベントというわけだ。
「我が自由民政党も国民の信を失い下野するに至りました。これに関しては真摯に反省をしなくてはならない。こう切に思います。政権交代以降、我が大胆な経済政策ヤスハラミクスにより日本経済は息を吹き返しました。今では国民の皆様方に安定した雇用を提供することが出来るようになりました!」
拍手喝采が起きる。安原総理はさらに続ける。
「我が国の固有の領土である千石諸島は中国が領有権を主張しておりますが歴史的経緯から千石諸島が我々日本の領土であることは疑いようない事実であります。この千石諸島への中国の軍事的侵略は時間の問題であると言われていました。そこに彼が現れたわけであります!」
観衆から拍手と歓声が上がる。一部の連中は相変わらずブーイングを続けているようだ。俺が今いるここは舞台下の空間。耳に装着されたイヤホンからは無線が聞こえてくる。
「間もなく登場よ。スタンバイお願い」
イヤホンの向こうから菅涼子の声が聞こえてくる。やれやれ。俺はポップスターじゃないんだ。第一、何なんだこのマントは。日本国旗を模した赤と白のストライプ状になってるがヒラヒラとして邪魔なだけだしまるで楳図かずおの家であるまことちゃんハウスみたいだ。あのド派手過ぎて近隣住民から訴えられたやつ。
「彼はネット、メディアでは最近はこう呼ばれているそうでなかなか悪くない響きであります。それでは登場して頂きましょう。我が日本を守る神風、ゴッドウィンド!」
観衆から大きな歓声が湧き上がる。舞台装置であるセリが動き出し俺の身体を壇上へ押し上げていく。上を見上げると壇上へ通じる扉が見る見ると開いていき青い空が見える。ようやく晴れ舞台というわけだ。と思った矢先、ガコン!ヒューンという音と共に機械がストップする。
「あー、機械トラブルにより停止。復旧まで少々お待ちください」
イヤホン越しにメンテナンスと思われる男の気まずそうな声が聞こえる。
「はあ・・・早く帰って溜まったアニメとゲーム消化したい・・・」
俺は面倒になってそのまま壇上へ一気に自力で飛翔する。眼下には俺の登場に沸き立つ大勢の観衆と壇上で演説台に立ちながら笑顔を浮かべなら俺に向かって手を振る安原総理の姿が見えた。会場にはテレビカメラを構えたカメラマンやリポーター、望遠レンズを装着したカメラを手にシャッターを切る記者の姿も多数見受けられる。
「キャアアアアアアアッッッ!!!!」
「おい!銃を持ってるぞ!」
観衆から悲鳴が聞こえる。よく見ると観衆の中のひとりの若い男が俺に向かって血走った目で俺に向かって回転式拳銃を向けていた。そんなもんどっから持ってきたんだ。
「何がゴッドウィンドだ!馬鹿馬鹿しい!みんな騙されてんだよ!あの映像もどうせCGに決まってる!今も宙に浮いてるように見えるが透明なワイヤーか何かで釣り上げてるに決まってる!」
イヤホン越しに
「銃!?セキュリティチェックどうなってんのよ!」
と菅涼子が叫ぶ声が聞こえる。壇上では黒服のSP達が数人がかりで安原総理を取り囲み避難させようとしていた。
「奴が偽りの神だということを今から俺を証明してやるよ!死ね!」
銃を持った男が俺に向かって発砲する。男の放った弾丸はそのまま俺の鼻の穴に入って止まる。
「うわ・・・クソ・・・鼻に詰まった・・・」
弾丸を放った男は口をあんぐり開けて絶句していた。クソ、まずはあいつを何とかしないと。俺は空中から急降下し奴の胸ぐらを掴んてそのまま上空に持ち上げる。
「クソ・・・離せ!」
急に空中に持ち上げられた男は足をジタバタしながら叫ぶ。
「ちくしょう・・・!死ねえ!」
男は俺のこめかみに銃口を突きつけありたっけの弾丸を発射する。弾丸は火花を散らし全て弾き返される。
「何だ・・・お前・・・本当にバケモンじゃねえか・・・」
「そのバケモンって言いかたはちょっと傷つくなあ・・・それよりお前が撃った弾丸が鼻に詰まって取れねえんだよ。ガキの頃にふざけてピーナッツを鼻の穴の中に突っ込んで取れなくなっちゃったっ事ない?ホラ、あんな感じ」
「何を言ってるんだ・・・お前は・・・」
俺は弾丸が詰まってる鼻の穴の反対側の穴を指で塞いでフン!と弾丸を吐き出させる。弾丸は俺の鼻の穴から勢いよく飛び出し男の鎖骨あたりを貫いた。
「ぎゃあああああああああ!!!!」
男は鎖骨あたりから血を流して絶叫する。
「あ、ごめん。大丈夫?」
俺はゆっくりと降下してSP達に男を引き渡す。そして再び上空に飛翔する。一部始終を見ていた観衆は興奮気味にどよめき拍手喝采を上げている。その顔は上気していたが一部、俺の事を気に入らない連中は不服そうに見つめていた。ボルテージが上がった観衆は拳を突き上げ口々に叫ぶ。
「ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!ゴッドウィンド!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます