第14話 内閣総理大臣です

「どうも初めまして。内閣総理大臣です」


 男は俺の手を力強く握りしめてこう言った。


「まあ立ち話もなんですからどうぞ腰掛けてください」


 内閣総理大臣と名乗るその男はソファを指し俺に語りかける。俺は言われるままソファに腰掛ける。ここは首相官邸。日本の政治の中心となる場所である。


「あー、総理って確か牟田・・・」


「ハハハ。民衆党の牟・田・前・総・理・ですか。政権交代したんです。今は自由民政党の総裁である私、安原秀夫が総理大臣となります」


「政治には疎いもので・・・」


「まあ、これまで日本の総理なんてサイコロの目のようにしょっちゅう変わってきましたからね。君、アレを用意してくれ給え」


 安原総理は隣にいる官僚に促す。「はい」と官僚はノートパソコンを用意してある映像を再生させる。映像には先日の自衛隊と行った実験の模様を撮影したものだった。映像には自衛隊の総攻撃を受けても物ともしない俺の姿が克明に記録されていた。


「この映像は世界中に流出してましてね。今頃はきっと世界中の軍関係者が驚き慄いていることでしょう」


「流出?機密映像じゃないんですか?」


「あくまで流出は意図的なものです。世界中にあなたの強大さがいかほどかを知らしめるために」


 安原総理はニッコリしながら語る。この男、気さくで人が良さそうな顔をしながらなかなかの策士なのかもしれない。


「あなたの気がかりは故郷であるひかりの園の施設長である緋呂雅子さんの容体ですね」


「ええ」


「彼女なら一流の大学病院に転院させ一流の医療スタッフのケアを受けています。治療法を見つけ出すために我々も必死に尽力している次第です。それからひかりの園は経営難に悩まされていたようでありますが特別に補助金を受け取れるように手配しました。その辺りは我々を信頼して任せて頂きたい」


「そうですか・・・」


 何だか手の平の上で踊らされてるような気もするがここは致し方ない。


「我が国はこれまで中国、ロシア、北朝鮮の脅威にさらされ続け怯え続けてきました。だが、それも終わりを告げる。あなたの登場によってね。私はこの国をもっと強く、誇りある国にしたいのです。それにはあなたの協力が不可欠です。私と共に歩んでいただけますか」


 そう言って安原総理は再び立ち上がって俺に握手を求めた。俺はその手をつかんだ。彼の手はその体格から想像するより大きく俺の手を包み込んだ。


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