第13話 集中砲火
「力人くん、君の髪の毛を少しばかり抜いてもらって僕にくれないか?」
丘学人が言う。
「髪の毛?」
「ああ、多少ばかり抜いて僕にくれないか?」
「仕方ないな。こう?」
俺は自分の髪の毛を少しばかり抜いてやつに渡す。
「もう少しくれないかな」
「ええ、もっと?」
俺はさらに髪の毛を抜いてやつに渡す。
「もっと欲しいな」
「おいおい。ハゲちまうよ。俺はジェイソン・ステイサムになりたいわけじゃない」
後日、丘学人は俺にある映像を見せる。映像の中では器具で上下に一文字に固定された俺の髪の毛がある。電動仕掛けの器具で上下に思いきり引っ張られるも俺の髪の毛は切れることなく逆に器具が破損した。続いて別の映像ではまたも器具で固定された俺の髪の毛にガスバーナーの火が当てられていくが髪の毛は燃えることなく健在であり続けた。丘学人が言う。
「君の髪の毛はどうやっても切ることが出来ないしどうやっても焼くことは出来ない。つまり君の髪の毛はこの地上で最強の繊維なんだ」
「お褒め頂いてどうもだがそれでどうしたいんだ?」
「これを見てくれ」
丘学人がマネキンに装着させた黒いスーツを持ってくる。
「X-MENのスーツみたいだな。あの黄色い方じゃなくて映画版の初期の方のやつ」
「これは君の髪の毛を培養して作った特殊なスーツだ。これを着ていればあらゆる衝撃を受けても破損することなく平気なはずだ」
というわけでまたも俺は自衛隊の基地にいる。俺と丘学人とまたあの自衛隊のおっさんという絵面だ。前回と違うのは俺が例の黒いスーツを着込んでいることだ。X-MEN映画版1作目で地味で華のない黒のX-MENスーツを着せられ不服そうなウルヴァリンを思い出す。
「葛城自衛官は射撃の名手で・・・」
「もういい!そういう前置き!さっさと撃て!」
「あー・・・それじゃあお願いします」
丘学人は頭をポリポリと掻きながら隣にいる自衛官に呟く。
「わかりました」
自衛隊のおっさんはまたも俺に向かって拳銃を連射する。結果は同じだ。のび太はドラえもんのどの道具を使っても失敗するしバイキンマンはどの手を使ってもバイバイキーンとアンパンチを食らって空に吹き飛ばされていく。俺にいくら弾丸を撃ったところで全て弾き返される。ただ今度は違うのはスーツ自体が弾丸を弾き返し全くもって穴も開かないし破れもしないところだった。
今、俺の目の前には自衛隊の部隊が一列に並んでいる。見えるのは機関銃や自走ロケット砲に戦車といったミリオタならヨダレを垂らして絶頂して射精しちまうような光景だ。イヤホン越しに
「これより一斉発射を開始する!」
と自衛隊の指揮官の強張った声が聞こえてくる。
「発射!」という声と共に自衛隊の兵器が一斉に火を吹く。凄まじい火花と硝煙のオンパレードで一気に視界はシャットダウンされる。それはいくら続いたことだろう。煙が徐々に消えていき視界が晴れていく。
「信じられん・・・!」
双眼鏡を手にしてあれだけの攻撃を受けてもピンピンしてる俺を見て驚嘆する自衛隊の幹部の姿が見える。その中に同じく双眼鏡でこちらを視察している黒やグレーのスーツに身を包んだ連中も見えるが後から聞いた話だと議員や官僚らしい。
俺はある一室のソファに腰掛けていた。目の前の卓には上等そうな茶碗に注がれた緑茶が湯気を立てている。緑茶をひとくち啜ってみる。舌がバカな俺にもフードコートの安っぽいお茶に比べて上等な茶葉を使ってることはわかった。俺の耳にこの部屋に近づいてくる人間たちの声が聞こえてきた。
「彼に関して言えば我々の敵になる危険性が完全に払拭されたわけではありません。本当に大丈夫でしょうか?」
「交渉は私にとってお手の物だ。任せてくれ給え」
やがて部屋のドアがノックされ官僚数人と共にある男が入室してきた。男は入室するや否や笑顔を浮かべ歩み寄ってきて握手を求めてきた。その動作があまりスムーズ過ぎるため俺も自然に立ち上がりその手を握りしめてしまった。男は満面の笑顔を浮かべこう言った。
「どうも初めまして。内閣総理大臣です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます